15マス目・3歩下がって風呂に入る
社長の部屋にまた戻ってしまった。ヤナギダにぐい、と後ろから小突かれ、シヴァはドアをくぐる。
「来た」
うれしそうにミチルが寄ってきた。
「ハムスタのかご、買ってきてもらったよ」
距離を開けて、ぴたりと足を止める。
「動かないで」
シヴァと、後ろについていたヤナギダを、あの物憂げな瞳で交互に見ている。
「風邪の人が近くにいた、インフルエンザ」
耐え切れなくなったヤナギダが軽く、咳払いした。
「すぐ近くにいたでしょう、ボーイさんはずっと」
「何があった」
社長が近づいてきた。
「二人とも、すぐシャワー浴びてよ」
ミチルの言い方は子どもっぽくも絶対だった。
「スエンさん、着替え二人分欲しいな、下着から上の服まで、靴下も全部」
「何だって?」
話の流れが見えていない社長、眉をひそめる。
「この人たち、インフルエンザの人と一緒にいたよ、お医者さんも呼んだでしょう?」
「どういうことだ」今度は社長、こわばった表情をヤナギダに向ける。
「ああ、あの……」
根が正直者なのだろう、ヤナギダは、連れが廊下で病人を拾ったことを社長にざっと報告した。
SARSの話や、ヤバい話を聞きたくてナカソネが残ったことはうまく省いたが。
「オレの許可も取らずに、他人を部屋に入れたのか」社長の声は硬い。
「申し訳ありません」
「ねえ、シャワー浴びて、早く」ミチルが窓際まで離れる。「服も全部捨ててよね」
「言われた通りにしろ」
社長は、今度はシヴァに向き直った。やはり厳しい顔だ。
「頭から全部洗って、石鹸の匂いもなるべく残すなよ、服はその間に秘書に用意させる。それから聞かなきゃならんこともあるしな……早くしろ」
今度はシヴァ、バスルームに押し込まれた。
入り際、社長がヤナギダをドアに追いつめるように更に迫っているのがちらっと見えた。
「ちゃんと説明しろ、最初から」怖いな、スエン社長。
彼は首をすくめて、バスルームのドアを閉め、服を脱ぎ始めた。




