14マス目・地道に働く
801号室、カイトのもとにとりあえずのモニタールームができあがった。
ボビーはそこで、ハラハラしながら814の音声モニタを聞いている。
リーダーは、作戦であの部屋に入ったのかしら? 何だかいつになく行き当たりばったりのような気がする。それでもどうにかシヴァとは会えたみたい、よかった。
カイトは、と言えばトランクを受け取って説明を一通り聞いてから、ふざけることも茶化すこともなく、黙々と機器をセットしていた。
ダイヤルなどを調整する手つきは鮮やかで素早く、とても片手を吊っているとは思えない。シヴァの作業と比べても負けず劣らずだった。
あっという間に、1021号室の音声が戻ってきた。午後からの打合せについて、どこかに電話で確認をしている社長の声が聴こえていた。
スエンの率いるエンダーというのは、企業コンサルティングを主体とする新興企業というだけで、情報は案外少ない。今日会う連中は似たようなベンチャー企業だというが、そちらの資金の出所は、最近急激に力を伸ばしてきた新興宗教の関連企業だった。
午後になって、お客が二人部屋に訪ねてきたのが聞こえた。スエンと秘書らしい男が一人、それにミチルと呼ばれる少年も部屋にいるはずなのだが、少年の声は昼過ぎから全くしない。眠ってしまったのだろうか?
カイトは全神経を集中させて、モニタの波形を見守っていた。会話の内容は聞いているのかは、ボビーには分からなかった。
スエン社長の部屋では、資金援助の具体的な額が次々と提示されていた。また、どこの企業が実際にいくらまで用意できるかについても、細かくやり取りがされている。
メモを取ろうかとボビーはレポート用紙を取り上げたが、カイトが録音もしているはずだと思い、紙とペンをまたテーブルに戻した。
「音は何に録るの」集中していた波形からいったん目を戻し、カイトがボビーを見た。
「USBに直接挿せるメモリがある」パソコンの脇を指す。赤い小さなものが突き刺してある。小型のカミキリムシが飛んできて頭を突っ込んだかのようだ。
「256メガバイトまでは普通にあるけど、これは倍の512、いや……」
画面で確認している。
「あのインド人、」シヴァのことらしい。「1ギガバイトまで増やしてるし」
急にライバル心に火がついたらしい。
「チクショー、やるなあアイツ」すでに話の内容には全然興味がなさそう。
ようやく客人が帰り、部屋にくつろいだ音が流れ始めた。
社長と秘書が早口で先ほどの条件をまとめている。これもあとで聞きなおせば拾えるだろう。
社長が話しかけ、ようやくミチルの声もした。
「あの人たち? うん……多分ね」
ミチルの方が仕掛けたマイクに近かったらしい。声が鮮明だった。
「一人の方は、完全に宗教の人だよ、ヘンなお香の匂いが染みついていた、うん、あのニコニコしていた人。部下の方はまだ違うみたいだけど」
「やっぱりね」社長の声が近づいた。
「それでもあの金額は魅力だな、どうする? ミチルなら」
「臭い所の人はイヤだよ。スエンさん、あんな臭い所に入らないでね」
「お金をもらうだけだよ」言いながらも笑っている。
「……そろそろボーイを呼んで話を聞かないとな」
社長の声が急に声が変わり、ボビーは目を見開いた。
シヴァが上の階に連れて行かれてしまう。今のところ全然乱暴されていないようだが、社長はどんな人間かさっぱり分からないから心配だ。
「どうしよ……」814に内線がかかってきた。一人が電話を受ける。
「分かりました」連れと何か話している。もう一人はリーダーを寝かせたまま部屋に残る話をしていた。どうしても社長に内緒にしたいのね。
「行くぞ」隣の部屋から人が出て行く音。さて、また動き出したわ、どうする?




