01
ここから先は上手い分けどころがわからなくて、一話が短くなったり長くなったりバランスが悪くなると思われます。また変な所で切れるかもしれませんが悪しからずm(_ _)m
一体どうやって歩いてきたものだろうか。
乱暴につつかれ、はっと目を開くと自分が腹を出したまま寝そべっていることに気づき、慌てて身を起こそうとする。
それを上から無理やり押さえつけられ、鼻先を噛まれて、ようやく私は置かれている状況を理解した。再び反転した視界に、たくさんの足が見える。狼たちが私をとり囲んでいるのである。
私を仰向けの体勢に留めているのは雌の狼……おそらくアルファだ。低い唸り声をあげて私をけん制している。
私はぼんやりと彼女を見上げながら、こうやって服従の姿勢をとったまま気を失っていたのだとわかった。
しかしその前の記憶がどうしても思い出せない。すなわち、どうやってここまで辿り着いたのか。
私がじっとしているのを見てとって、雌のアルファは少しだけ拘束を緩めた。だがまだ許してはいないらしく、私を鋭い目で睨んでいる。しばらく膠着状態が続いた後、彼女は私から離れて群れの一頭に駆け寄った。
私は慎重に体を横にし、彼女を目で追う。
ある狼が進み出た。その姿を見た途端、私の目は釘付けになってしまった。
雪の大地に立つ闇。
一瞬そう思えてしまうほどに深い漆黒の毛並み。混じりけのない黒一色。
そしてその圧倒的な体格に度肝を抜かれた。
私の父もかなり大柄だったが、それ以上はあろうかという剛健な佇まい。それなのにまだ十二分に若い。
その毛の下で万力の如き筋肉が張り巡らされているのが見えるようで、知らぬうちに萎縮してしまう。
そして最も目を引いたのがその瞳であった。
濃い橙よりもさらに強い、まるで血のような緋色。だがそこに渋みも含まれている。おそらく唯一無二であろう緋紫の瞳で私を見下ろす。
その風貌やまとう雰囲気、たとえ今まで静寂を保って佇んだままであったとしても、紛うことなくこの群れの雄のアルファだとわかるものであった。
雌のアルファは尾を振って彼に寄り添い鼻先を舐める。そして私の方を振り返っては盛んに何かをまくし立てているようだ。どうやら私を群れに置きたくないらしい。私はといえば、その奇妙な色の目を見上げるのも憚られて急いで俯く。
アルファ夫婦が相談している中、残りの狼たちは興味津々といった様子で私に近づき、つついたり匂いを嗅いだりしている。
私はなるべく身を縮ませて目立った動きを出さないようにしながら、集まってきた狼たちをそれとなく観察した。
群れはアルファ夫婦を入れて十六頭、うち大人は十頭で残りは仔狼たちだった。年のほどやあどけなさの残る仕草が弟妹たちを思い起こさせ、私は胸が詰まって目を逸らした。
私を一通り確認した後は質問攻めがやってくる……しかしそのときアルファ夫婦の声が響き渡り、狼たちは慌てて散っていく。
雌のアルファがかなり不機嫌そうにうろつき回り、狼たちを蹴散らしている。対照的にあの黒狼の方はまだその場から一歩も動いていなかった。
「本気なの?本当に?」
伴侶と私との間を行ったり来たりしながら、彼女は甲高い声をあげる。近づいてきたため私はまた腹を見せる。彼女はふんと鼻を鳴らしたが何もしてこなかった。
腹を見せるというこの屈辱的な体勢、私は無意識にため息をつきそうになって慌てておし留める。
この状況でどうこう言える権利などあろうはずもないのだ。私の存在そのものがかかっている。これで追い出されたりすればもう明日など来ないことくらいわかりきっていた。
もっと悪ければ一言も告げられぬままこの場で命を絶たれてしまう。
降下していく思考を食い止めようと私は固く目を瞑った。
「ただの死に損ないだ」
あれは黒狼の声だろう。かなり低く、地を這うような声だった。
「何やってるのよ。こっちを見なさいよ」
また乱暴につつかれて私は目を開けた。黄色の瞳に私が映っているのがはっきりとわかるほどに迫っていた。
「あんたを置いといてやるわ。だけどいい?ちょっとでも変な真似をしたらすぐさま追い出してやるからね。わかった?」
彼女はそう言うと私の鼻を嫌というほど噛んで足音荒く立ち去った。
黒狼がゆったりと続く。残りの狼たちも後を追った。
静まり返った空間の中、取り残された私は呆けたようにその場から動けなかった。
しばらく経って一頭の狼が戻ってきて私を促した。
「ついてこい。食い物がある」