02
若狼である私は、もう独り立ちするお墨付きを貰っているといってもあながち間違いではあるまい。
薄灰色に白の差し毛の混じる母ツェラと、それより暗い色味をして顔と腹が白く、足の付け根や尾は褐色がかった父バルダーとの間で、その部分的な白がそっくり遺伝したものか、私の全身は混じりけのない白色だった。
白い狼はさほど珍しいものではないが、私を指してまるで空のようだと言わしめていたのは私の瞳である。
黄や灰、橙、黒褐色がほとんどの中で私の瞳は真実、私ひとりだけのものだった。
家族はよく私の目を覗き込むようにして私と対する。
白い体だけに空を模したような色の目は良くも悪くも目立った。というより冬ならば完全に溶け込んでしまえる体は、それ以外の季節では目立って仕方がない。
迷彩にならない体色のハンデを補うためにも、私は特に狩りに熱心だった。否が応でも目立つ体を活かすにはどうしたらよいのか。
泥や沼などに進んで分け入り転げまわることもやぶさかではない。そんな私の身のこなしはまるで風だとも言われるようになった。といっても名づけるのは私の兄なのだが。
黄灰色の毛を持つ兄デルントは体格もそれほど大きくはなく私と同じくらい、橙の瞳は丸く大きく、殺生なんぞできなさそうなくらい優しげな容貌をしている。狼なのだからそんなはずはもちろんないが、もうひとりの兄と比べれば同じ腹から生まれてきたのが少しばかり信じがたい。
その兄は私たちより一年上で、まだ年若いにも関わらずその気性の荒さから去年の夏に群れを抜けて旅立っていった。
よくからかって冗談を言う穏やかなデルントが私は好きだった。年の近い兄弟は彼だけである。
群れの大人は四頭、本当は私たちが生まれる前に別の群れから来たという狼が一頭いたらしいが、狩りの最中に崖から落ちて死んでしまったということだった。
本格的な冬がやってくる前に群れはもう少し大きくなった方が良いのかもしれなかった。
だが四頭の仔狼たちは成長も早いし、そのうち二頭はまだまだ未熟ながらも狩りを学んでいて、もしかしたら遠征の一員に加わるかもしれない。外部からのよそ者よりも身内の方が安心だし、より強固な連帯を築くことができるというもの。無理に仲間を増やす必要はないのだ。
一際大きな歓声があがって私は顔を上げた。四頭の兄妹たちの一番上、カロがネズミをくわえて得意満面に駆け寄ってくる。それをかすめ取ろうと残りも後に続く。
私は起き上がるとその労をねぎらった。そして手本を示すように自分も草むらを探しまわる。飛び出してきたネズミをいとも簡単に捕らえてみせると、カロたちは興奮して小躍りし、早速獲物をねだった。私はそれをわざと飲み込んでしまう。情けない失望の声を聞き、私はほくそ笑むと次の獲物を探し出す。
そして今度は前足で押さえつけるとこれ見よがしに彼らを見つめ、尾を振る。嘆いていたのも束の間、カロたちは我先にと草むらに散ってネズミを探し始めたのだった。
今年の秋の実りは深い。小腹が減ったときにちょいとつまむように、ネズミも労せず見つけ出すことができる。悔しさと食欲から懸命になって探しまわる仔狼たちは、そのぶん狩りの上達も早まるだろう。
恩恵を感謝こそすれ、それ以上に憂慮する必要などないのだった。