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03

 しかしさほど進まぬうちに宣告の如き遠吠えが鳴り響く。


 二頭は足を速める。

 それでも声は遠ざからない。

 アンドゥルフが近道を進む。


 だがここは相手の通い慣れた縄張りでもある。いやそれ以上に相手には一日の長がある。

 なんといっても元々ここは彼女の縄張り。

 荒々しい咆哮が後から後から迫りくる。



 そして吹雪の壁を突き破って飛び出してきた雌狼。



「よくも、よくも……!おかしいと思ってた!やっぱりね!お前がアンドゥルフをそそのかしたのね!!なんて奴!だから私はお前を拾いたくなかったのよ!ふん、とうとう正体を現したわ。許さない……殺してやる!絶対に殺してやるからね!なんて奴なの。助けた恩を仇で返すなんてね!」


 凄まじいばかりの憎悪に焼け狂って、口から泡を飛ばしながら息巻くリーベ。

 歯茎全てが見えるほど唇を捲くり上げ、激しい呼気に身を震わせさえしている。

 彼女を見て、しかし私は驚くほど平静であった。来るものが来たのだ。そんな心境で周りを見渡す。

 全員がこの場にやってきていて、驚きと興奮とでそわそわしている。

 イッサが悲しげに鼻を鳴らした。

 私の前にアンドゥルフが立ち塞がり歯を剥き出す。それを見たリーベは怯んだようだったが、それでも彼女の怒りを解くほどのものではないようだ。

「どいてアンドゥルフ、貴方は騙されてるのよ!群れを守るためよ!こいつはこの群れを、私たちの群れを陥れようとしてるんだわ!!」

「俺がこれに手をつけた。俺の片割れはこれだ、お前ではない。俺たちは群れを出る。それでいいだろう?」

「嘘!嘘よ!絶対に嘘だわ!!貴方は言わされてるのよ!目を覚ましてアンドゥルフ!貴方の片割れは私なのよ!貴方と一緒に仔だって作ったじゃないの!これからもずっと貴方の仔を産むのよ!」

「すまんな。あいつらはお前にやる。それに俺はこれの仔が欲しい。悪く思うなよ。お別れだ」

 リーベは痙攣でも起こしたかのように体を震わせていた。

 もちろん寒さからではない。


 彼女の動作は記憶の中の父を思い起こさせた。


 やがてリーベは背筋が凍るほど不気味な笑みを浮かべた。吹雪でさえも温かいなどと思えてしまうほど。

「そう……そうなの……。残念ね。とても愛していたの……この縄張りを貴方に奪われても許せたくらい、心から……。そう、私は許してあげたのよ……父母を殺した貴方をね……。貴方に居場所を与えてあげたの……私の体をあげたの……私の全てを、貴方の仔を……。私がいなければ貴方は生きていけなかった……そう、それなのにね……」

 吹雪にかき消されるほど小さな声なのに、なぜか私の耳によく届いた。

「私がもう一度教えてあげるわ……。私は貴方のものよ?アンドゥルフ……。そして貴方は私のもの。まだ間に合うわ。こいつに奪われた時間を取り戻してあげる。私はいつだって待ってるのよ。貴方が戻ってくるのを。遅すぎるなんて思わない。ずっとずっと待ってる……」


 こいつさえ、いなければ。

 あなたは、わたしのもとに、もどってく、る……。


 張り付かせていた笑みが突然消えた。

 リーベが唸り声をあげて飛びかかった。

 迎え撃とうとするアンドゥルフを、しかし影がかすめる。


「!」


 アンドゥルフの動きが瞬間止まった。

 彼の前に立ち塞がったのは三頭の狼、アクバルとローク、それからブレマンだった。


 そしてリーベは私の目の前に降り立つ。

 

 再び戦慄を呼び起こす笑みを浮かべて私を舐めるように見る。

「あなたもねえ……私が拾ってやったのに……。本当に残念だわ……。私が拾ってやらなければあの時とっくに死んでた。死ぬべきだったわね。でもいいわ。やっぱり遅すぎるなんてことはないから。今ここで死んでくれたらそれでいいから。そしたら許してあげるから。優しいでしょ?私」

 ひどく甘ったれた声で囁きながら私に近づいてくる。その後ろについてきたのはエティ、そして仔狼たちもいた。

 イッサが駆け寄ってくる。しかしその前にリーベが怒鳴った。

「イッサ!ついてくるんじゃないよ!あんたはアンドゥルフを足止めすんのよ!ついてきたらただじゃおかないから」

「俺に楯突く奴は……」

「イッサ!ハル!構うことはない!あんたたちもだ、双子!彼はアルファじゃない。それを今私が取り戻したげるから。あんたたちのアルファは私よ!私の命令だけを聞くのよ!なにも彼を殺せって言ってるんじゃないんだから」

 アルファの言葉は絶対的な効果をもたらす。

 視線を転ずると蕩けるように目を細めているリーベと違い、妹のそれは石のように無表情で常と全く同じだった。

 ふと私は仔狼の中にクローネがいることを認め、奇妙なことに僅かばかりの安堵を感じた。

 それでも黙って殺されてやる気など微塵もないし、なんとかして活路を見つけ出す。

「話はそれで終わりよね?もう聞き飽きたわ」


 私が口答えするのが気に食わなかったのか、いきなりリーベは涎をまき散らしながら突進してきた。


 私も雪を蹴る。


 私とリーベは組み合って転がった。

 視界の隅で黒い影が動こうとしている。

 アンドゥルフがこちらに来ようとしている。だが進路を阻まれ、なかなか思うようにいかないようだ。特にアクバルとロークの攻撃が激しい。足止め以上の意図がある。


 苛立った彼の声、そして空を突くイッサの悲鳴。


 さよならイッサ……。


 私はそれら全てを振り払った。

 いち早く起き上がった私はすかさず首を狙う。

 だがそれを読んでいたリーベは前足で雪をなぎ払った。飛び散った雪に視界を奪われ、思わず後ずさって身震いした。匂いと気配と勘で彼女がくることはわかったので、辛うじて横に飛ぶ。

 爪が額に当たったが大したことはない。

 そのとき背後から複数の吠え声が聞こえてきた。リーベの牙が私をかすめる。私の斜め後ろから噛みつこうとしている。

 後ろの吠え声を鑑みて、その意図を悟った。


 すでに私たちは走り出している。


 アンドゥルフの声が聞こえたような気がした。

 だが聞こえたとしても遠ざかっている。

 横にはリーベ、後ろにはエティと仔狼たち、私は追い立てられさらに先へ進んだ。

 走りながらリーベが何度も襲いかかる。私は縦横に変化をつけて走り続ける。


 止まったのはお互い、ほぼ同時だった。


 それからはひたすら唸り声の応酬となった。

 私と、そしてリーベはしきりに歩いて足場を探っていく。エティと仔狼たちはその後をついて回りながらも飛びかかろうとはしない。

 踏み台となる窪みを探り当てた瞬間私は襲いかかる。リーベの胴に前足を巻きつけ、牙が届く範囲をひたすら噛んだ。リーベが暴れ後足で立ち上がる。

 彼女もまた私の体に前足をかけた。


 噛み合いが始まった。


 どちらのものとわからぬ血が飛び散り、目や鼻を塞いでいく。

 後足で立つ体勢はすぐに崩れ、あとは互いに馬乗りになろうとぐるぐる回りながら顎をひたすら開閉する。

 上に乗って首に牙をかける。それで勝負は半分決まるようなものなのだ。

 リーベが私の前足にかじりついた。そのまま引っ張り上げられる。痛みを堪えながら私も彼女の耳を噛む。

 再びバランスを崩して引っくり返った。

 引き裂かれていく感触と共につと私の口から重みが消え、前足にくいこんでいた牙が緩むのを感じた。

 絶叫をあげて離れたのはリーベだ。

 そして私の顎には小さな肉片が垂れ下がっている。

「よくもよくも私の耳を……大事な私の体を……彼のものを……」

 血と涎とに濡れそぼった彼女はとても狼には見えなかった。


 重ねずにはいられない、その姿。


 私の動きが鈍ったのを見てとったのだろう。怒号とも喜悦ともつかぬ叫び声を上げて私の喉元に飛び込む。

 ぱっくりと割れて胸元の毛が赤く染め広がっていく。

 食いつかれないだけでもましだった。

 飛び退いた私は息を切らせて相手を睨みつける。

 引きつった声を出してぶるぶる震えながら彼女も構えている。目が飛び出していた。その顔の半分は血で埋まっている。

 再度飛びかかる。

 私の方が体格が良いぶん四肢も長く、前足が彼女の胸を突く。だが彼女は小回りが利く。

 そして何といっても私より経験は豊富だということ。

 さっと頭を下げたリーベは私の腹の下に潜り込んで牙を伸ばす。

 わき腹を噛み裂かれた私はそのまま転がった。

 今度はけっこう深い。立ち上がろうとすると痛みが走る。雪の上に血が滴り落ちていった。

 リーベが低く突進してくる。首を狙うよりわき腹の傷をさらにこじ開ける魂胆のようだ。

 もはや避けられそうにない。私も一か八か飛びかかった。そして後足を使って彼女の顔を蹴った。大した威力はないだろうが、牙の軌道をそらせるには充分だ。

 体勢を崩した機を逃さず、上背では勝る私はのしかかって首を狙う。

 確かに牙は届いたはずだ。


 しかし悲鳴をあげたのは私の方だった。


 わき腹に一牙当てたのはエティ。そして仔狼たちが首や背に噛みついてきた。

 私の下でもがくリーベの動きもあったために急いで振り解くことはできたものの、牙をねじ込まれたわき腹の傷はさらに深くなり血が止まらない。

 波のように押し寄せてくる痛みに気力を奪われそうになる。それでも他の傷が浅かったのは幸いだった。


 諦めることなどできない。だから私は諦めない。


 リーベが立ち上がる。首から血が滲んでいるがそれほどのダメージを負った様子ではない。

 悔しさに歯軋りしながらも、どこかで納得している自分がいる。


 これは力比べではない。殺し合いだ。


 仮に私がリーベを倒せたとしてもエティや仔狼たちが見逃すはずはない。

 血が滲み出すほど歯を食いしばり、少ない勝機を探ろうとする。やはりアンドゥルフの許へ移動していくしかない。

 私はさり気なく彼らの後ろの、その向こうを見やる。吹雪は確実に痕跡をかき消していた。じっくり匂いを嗅ぎながらならまだしも、追われ襲われながら道を探すのはかなり至難のわざである。


 不意に私はリーベとエティが顔を寄せ合っているのを見た。

 嫌な予感が走る。


「ねえ、あなたは一頭なのに私は家族と一緒に戦ってるってやっぱり不公平よね。だからこれからは私とあなた、一対一で戦ったげる。彼らには手出ししないように言っといたわ。優しいでしょ?あっ!あとね、もっと優しくしてあげる。賭けをしない?あなたが勝ったら、なんとこの群れから出ることを見逃したげるわ!どお?驚いた?こんなに優しくて寛大な条件はないわよ。私が勝ったら当然死んでもらうけどね。もちろんあなたが勝った暁にはアンドゥルフは置いてってね。あなた独りで群れを出るの。逃がしたげるんだから当たり前よね。ていうかアンドゥルフは私の夫なのに、当たり前も糞もないわよねえ。私ったらおかしいわ」


 私は笑い転げているリーベを睨みつけた。

 そんな言葉なぞ到底信じるわけにはいかない。

 それでもアンドゥルフはこの群れでアルファとして生き続けることができると思うと、いくばくか安心したのも確かだった。

 それに今の私はこの条件を飲む以外に他はない。


「いいわ」


 リーベは笑うのをやめ、哀れむような楽しむような奇妙な表情がそれに取って代わった。

「じゃあ決まりね。ついてきて。境界はここからそう遠くないのよ」

 走り出す。

 もちろん戦いは続いている。私とリーベは隙あらば何度も飛びかかり喉を狙う。

 彼女の言った通り、エティと仔狼たちは一定の間隔を置いてついてきた。



 木々も草薮も何もない所でリーベは立ち止まった。

 周囲は雪の大地しか広がっていない。

 彼女にそれと気づかれないよう願いながらも、私は息が切れるのを抑えきれなかった。

 噛まれた足とて無傷ではない。わき腹ほどではないが血に滲み、無意識のうちに片側の足に体重をかけていた。

 そして見たところリーベに疲労の様子はない。


 ふと私は前方に不安を覚えた。そこも雪が続くばかりだったし、相変わらず吹雪は視界を覆っているのでその先を見通すことなどできない。


 胸がざわついたのはただの気の迷いなのか?


 考え込む暇などない。リーベが飛びかかる。避ける。前足を胴にかけてのしかかった。

 首を守るため大きく口を開けて牽制しながらリーベが倒れこんだ。

 だが転がるのは計算のうちだったらしく、仰向けの体勢から後足を伸ばして私の腹を蹴った。視界が揺れ、吐き気が押し寄せる。

 彼女の片足は確実にわき腹を突いていた。

 飛び退きながらも私は倒れこむことを堪えた。着地し、軸足を使って素早く方向を変えると起き上がる途中であった彼女の背に襲いかかった。悲鳴がほとばしる。

 首に噛みついた。口が血の味に満たされていく。

 リーベがこちらに寝返りを打つようにして体をひねった。爪が目に入った。思わず退いたが、今与えてやった傷は決して浅くはないはずだ。

 リーベはまるでオオヤマネコのように激しく息を吹いている。彼女の鈍色の毛は血に染まりきりまだら模様になっている。

 どこもかしこも真っ白な空間で二頭の体と足元だけが目の醒めるような紅に彩られていた。

 血が混じる唾を吐き捨てる。

 リーベが横に走り出した。私も後を追う。

 するとリーベは突然直角に曲がるようにこちらに向き直り、飛び出した。

 不意を打つ動きについていけず、喉を食いつかれてしまう。

 だが僅かに体をひねったおかげで喉の一番柔らかいところを狙われずにすんだ。私も精一杯首を伸ばしてリーベの喉に牙を立てる。

 首の横を噛み合うような形となった。

 この体勢では体格に一日の長がある私の方が押さえ込むには有利で、重心を左に傾けて雪の上に叩きつけた。牙を突き立てたまま立ち上がろうともがく。

 彼女はまだ私を離さない。互いに四肢をばたつかせているため、体のあちこちに傷ができていく。

 喉を圧迫するように前足を突き出して押さえると、とうとう私の首から牙が外れた。するとリーベが異常に暴れ出したので私も顎を離さざるを得なくなる。

 そうでなくとも、もはや牙を貫き通す力など残ってはいなかった。押さえ込むだけで精々だったのだ。

 拘束から解かれたリーベは鼻腔や口から血を溢れさせ、びっこを引きながら離れていった。

 もう追いかけることができなかった。

 私もまたかなりの血が流れ出し雪の上に染みとおっていく。それをかすむ目で眺めていた。

 いつの間にか片目しか開けられない。額が割れているらしく血で塞がってしまったのだ。


「あなたの、勝ちよ。さあ、行って」


 少々あっけない幕引きに拍子抜けしながらも、すでに戦う力も殺意も喪失している私はその言葉に従い歩き出す。

 吹雪でかなりわかりづらいが、確かにマーキングの跡がある。アンドゥルフの匂いだと気づいて胸が痛かった。


 さよならアンドゥルフ。


 唖然とした。

 雪の大地はあと数歩を境に途切れている。

 荒れに荒れた雪がごうと鳴く先は完全な暗闇だった。

 切り立った崖か急斜面か、いずれにせよ狼たちがこれ以上進めない所、そこが境界だったのだ。


 足が凍りついて動かない。


 くつくつという声がして振り返ると、彼女は近づいてきてさも愉快そうに笑っていた。


 勝敗を決したあの取っ組み合いの場面が映像となって何度も繰り返し蘇ってくる。

 ほぼ完全に不意をつかれ、咽頭はがら空きだった。辛うじてかわしたがために致命傷を免れ、その横の皮で牙を受け止めたのだと思っていた。


「さあ、どうぞ。私、ちゃんと、約束したわよ。あなたが勝ったら、生きて、逃がして、あげると。ここが、境界。正真正銘、ここから先は自由、よ。私、たちは追ってはいけ、ない。て、いうより、見てわかる、わよね。追ったら死んじゃう、もの」


 かすれた声は話すのもままならない。

 なのに喉をごろごろ鳴らして高らかに笑い、踊り狂っている雌狼。

 びっこを引きながら弧を描き、それに合わせて血が滴り落ちる。


 どれくらいの高さがあるのかもわからない。

 視界が確保できない天候で足場を悪くする雪。元気であれば或いは下りられないことはないのかもしれないが、すでに立っているのもやっとという満身創痍。

 しかも今、片目は満足に開けられない。


「さよ、なら。さあ、早く、出てって、よ。あんたの、顔なんてもう、見たく、ない。なに、よ。いつもいっ、つもすました顔、して。どう、せあんたな、んか、前いた群れ、から追い出され、た口なんで、しょ?そん……」

「うるさい!!!」


 私はリーベの残った耳を根元までくわえ込んで思いきり引っ張った。

 金切り声を上げて首を振るリーベ。それでも激しくは動かせない。

 私はぐいぐいと引き寄せる。リーベは足を踏ん張りつつも前進するしかない。

 今度は私が牙の隙間から笑い声を漏らしそうになる。言いようのない高揚感に満ちて、口の際を歪めるに留めた。

 後足は少しずつ愛おしむように、同時に焦れるように雪を踏みつけていく。


 あと数歩、あと少し。


 咆哮が轟いた。

 思わず足を止めてしまった。


 甲高い叫び声をあげてクローネが飛び出してくる。


 クローネは私に体当たりした。


 咄嗟に四肢をいっぱいに伸ばしたのは、彼女を道連れにしたくなかったから。

 もう、あんなことは嫌だったから。


 再び雄叫びがあがる。


 何故だか、妙に嬉しかった。

 母親を守った勇敢な仔狼。



 私の悪夢は終焉へと向かう。



 きっとあの仔はこれからも母親を守り続ける。優秀な狼になる。


 繰り返される雄叫びに混じってしゃがれた笑い声がいつまでも響き渡るも、すぐに吹雪がかき消してくれた。

 何度叩きつけられても雪が柔らかく包んでくれて、もう痛みを感じない。それどころか羽が生えたように体が軽くなってくる。

 もう一方の目も塞がってしまい、私の視界は完全に闇に閉ざされた。

 見えないともう上も下も右も左も何もかもわからない。





 最後にまた咆哮があったような気がする。



 あの声に答えたい。

 早く、遠吠えしなくちゃ。




 私は……。








 やがて静まり返る。

 もう何も見えず、何も聞こえなくなる。

 





 アンドゥルフ。アンドゥルフ。





 


 今度こそ、何も見えない。

 何も、聞こえない。


 




 なにも、かんじない……。






 家族の……。




 フィナ。
















 アン……




































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