婚約破棄するような方は、“きたねぇ花火”にして差し上げますわ
お尻に色々と入ったり、肉片が飛び散る内容があります。マイルドにしたつもりですが、苦手な方はご注意ください。
「ベリンダ、君との婚約を破棄する!」
きらびやかな舞踏会の真っ只中。
侯爵家嫡男キースは、高らかにそう宣言した。
ベリンダは震える声で問いかける。
「り、理由を……理由をお聞かせ願えますか……?」
キースは肩をすくめると、視線を窓の外へ向けた。
ドーン!!
次の瞬間、夜空に大輪の花が咲いた。
色鮮やかな光が、会場の窓越しにきらめく。
「……あの打ち上げ花火のように華やかな僕に、君は似つかわしくない!」
くすくすと、周囲から嘲笑が広がる。
「君は地味だ……あまりにも地味すぎる。今にも消えそうなロウソクの炎のようだよ。僕はエミリーと婚約する。彼女は、そこにいるだけで華やかさがある」
キースの腕に寄り添い、うっとりと彼を見つめるエミリー。
(わたくしは……ずっとキース様のために、侯爵家のために頑張ってきたのに……。わたくしを裏切っていたのですね……)
ベリンダは、その想いを声にせず、胸の奥へとしまい込んだ。
そして涙を堪えながら告げる。
「承知いたしました……」
ベリンダは、ゆっくりと一礼し、会場を後にした。
打ち上げ花火の音が、虚しく響いていた。
◇
一週間後。
侯爵邸で開かれた婚約披露パーティー。
幸せそうな笑顔を見せるキースとエミリー。
そこへ──
「この度はおめでとうございます、キース様」
その声に彼は凍りつく。
──ベリンダだった。
彼女は、あの婚約破棄の日から行方不明。特殊な能力を身に付けるために、とある神殿にある特異な空間で修行をしていると噂なっていた。
「何をしに来た?」
「うふふ、お祝いですわ……」
不気味に微笑むベリンダ。
「盛大に、ご婚約をお祝いいたします。まずは、ご挨拶の一発目を──」
ベリンダの指が、わずかに動いた。
次の瞬間、キースはお尻に違和感を覚える。
(な、何かが……刺さっている……?)
理解が追いつく前に──
パンッパンッパンッパンッ!!
パンッパンッパンッパンッ!!
キースの下半身が内側から弾け飛ぶ。
「──ッ!!」
声にならない叫び。
「きゃああああああっ!!!」
会場から悲鳴が上がる。
「あ、あ、あが……僕の……足が……下半身が……」
「ひ、ひ……人殺し……人殺しよ!!」
招待客の一人が叫んだ。
「人殺し……ですか……? ふふ、うふふ……」
ベリンダが微笑む。
そして、それは一瞬だった。
崩壊したキースの肉体が、逆再生のように戻っていく。
骨が繋がり、血や肉が戻り、皮膚が閉じる。
数秒後。
キースは、無傷の姿で床に崩れ落ちていた。
「……な、にを……」
彼は震える声で尋ねる。
「ご安心くださいませ。壊れても、すぐに元に戻りますわ」
ベリンダの言葉は穏やかだった。
キースの顔が恐怖に歪む。
「わたくしは、数日間の修行で二つの力を手に入れました。M字おでこの王子様からは、“好きに爆発物を出現させ、いつでも爆発させられる力”を。緑色の神様からは“どんなものでも元通りに再生する力”を」
にやりと笑う。
「すべては、キース様……あなたに復讐するために!」
「ひっ……ひぇ……」
怯えるキース。それを呆然と見つめるエミリー。
「先ほどのは、複数の爆竹。そして、次は──」
ベリンダの指が動くと、キースは再びお尻に違和感を感じた。
(さっきより、太い……気が……。ま、まさか……これは……)
「ダイナマイトですわ!!」
「やめ──」
言い終わる前に爆発した。
ドガーンッ!!
キースの全身が弾け飛ぶ。
だが肉体は、すぐに再生する。
痛みを感じる間もなかった。しかし、恐怖が蓄積していく。
「はあ……はあ……ど、どうして……!?」
「覚えていらっしゃいますか、あの夜のことを? 確か……消えそうなロウソクの炎でしたわね?」
ベリンダは静かに告げる。
「……わたくし、燃え上がらせることにしましたの、復讐の炎を! そして、火を点けるのです……あなたの導火線に!!」
彼女が手を上げる。
「では、そろそろフィナーレといたしましょう。あの夜と同じように……」
次の瞬間、キースは胃に重さを感じた。
今までとは比較にならないほどの質量、そして圧迫感。
(こ、これは……まさか、打ち上げ花火……?)
「やめろ……やめろぉ……!!」
キースは腹を抱えながら後ずさる。
「た、助けてくれ! 僕が……僕が悪かった……。本当は、君のことを愛していたんだ! だけど、エミリーが言い寄ってきて……」
その言葉を聞き、エミリーが口を開く。
「ひ、ひどい! 私のせいでは……!」
「そうですか。キース様、あなたは悪くなかったと……」
ベリンダが視線をエミリーに向ける。
「ひっ……!」
彼女は、短い悲鳴を上げ、ガタガタと震え出した。
「そ、そうだ!! すべて、エミリーのせいだ!! こ、コイツが言い寄ってこなければ……」
「なるほど、よく分かりました……」
「だろ!? 分かったなら、助け──」
「あなたが、救うに値しないビチグソ野郎だということが!!」
「へ……?」
「残念ですが、わたくしの力は解除できません。爆発させるしかないのです。うふふ……」
「やめろ、やめてくれ、誰か、だ──」
ドーン!!
彼の体内から光が爆ぜた。
内臓が、骨が、肉が、内側から裂け、血や肉片が飛び散る。
それらが、まるで夜空に咲く大輪のように見えた。
「きたねぇ花火でしたわ」
◇
その日以降。
キースは、人前に姿を現さなくなる。
恐怖に蝕まれたのだろう。精神が徐々に壊れ、夜ごと、自ら尻に何かを突っ込むようになったという。
そして彼の存在は、完全に社交界から忘れ去られる。
また、エミリーも他人の婚約者を奪った令嬢として、誰からも相手にされなくなった。
一方──
「ご依頼は、婚約破棄の報復でよろしいですか?」
薄暗い部屋で、ベリンダは静かに問いかける。
向かいに座るのは、涙をこらえる令嬢。
「……はい」
「承りました。華やかに、爆発させて差し上げますわ」
ベリンダは、裏切られた令嬢たちのために、復讐代行業を始めていた。
そして、今日もどこかで、“きたねぇ花火”が打ち上げられるのだ。
爆竹は現実のものよりも破壊力が強いものを、打ち上げ花火は10号玉くらいのものを、それぞれイメージしています。
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