本編第五章 『赤点は死、追試は地獄』
学生の本分とは何か。
学び、遊び、そして――『テスト』である。
それは青春の1ページに刻まれる、避けられない審判の時。
「これより、第一学期・中間考査を開始する!」
担任(筋肉)が宣言した場所は、教室ではなかった。
学園の最深部、『未踏破領域・深淵の図書館ダンジョン』の入り口だった。
「ルールは簡単だ。このダンジョンを攻略し、最奥にある『回答用紙』を手に入れ、生きて提出せよ! 制限時間は3時間! 赤点の者は、補習として『マグマ遊泳』だ!」
生徒たちが悲鳴を上げながら逃げ出そうとするが、入り口はすでに鉄格子で封鎖されていた。
「……ハルくん。テスト勉強、した?」
隣で、ヒヅキが震えている。
手には『ハル観察日記(全108巻)』を持っている。
「お前は勉強する教科を間違えている」
「……筆記用具、忘れた」
アオイが枕を抱えて立ち尽くしている。
「これから行くのは戦場だ。ペンより剣を持て」
「……フフフ。我が知識(黒歴史ノート)を披露する時が来たようだな」
サヤカが不吉な笑みを浮かべる。
「それは提出するなよ。社会的に死ぬぞ」
そして、脳内にあのアナウンスが響く。
『中間テスト開始ー! 第一科目は「数学(物理)」です!』
◇
1時間目:数学(物理)
ダンジョンの第一階層。
そこは、壁一面に数式が書かれた石室だった。
そして、部屋の中央には巨大な『数字の形をしたゴーレム』たちが徘徊している。
「問1! 時速300キロで迫る質量2トンの『数字の8』を、角度45度で回避せよ!」
ゴーレム『8』が回転しながら突っ込んでくる。
数学とは、この世界では弾道計算と回避運動のことらしい。
「計算など不要! 全て焼き尽くせば『0(ゼロ)』になる!」
ヒマワリが炎を放つ。
ゴーレムが溶けて消滅する。
ピンポンパンポーン!
『正解! 答えは「灰」です!』
「……面倒。『重力・無限大』」
アオイが指を振る。
全ての数字ゴーレムが床にひれ伏し、ペシャンコになる。
『正解! 答えは「平面図形」です!』
「……呪われよ。数式など、世の理を縛る鎖に過ぎない」
サヤカとミサキが、数式そのものを呪って書き換えた。
『1+1=闇』。
『正解! 答えは「哲学」です!』
俺の出番がない。
こいつら、テストを破壊して進んでいく。
◇
2時間目:歴史(降霊術)
第二階層は、古い墓地だった。
『歴史とは、過去の過ちを学ぶこと。さあ、蘇った「過去の英雄」たちと対話し、彼らの無念(物理攻撃)を受け止めなさい!』
地面から這い出てくるのは、伝説の剣豪や大魔導師のゾンビたち。
対話? いいえ、これはただの乱闘です。
「ハルお兄ちゃんに近づく男は、歴史上の人物だろうと許さない!」
ヒヅキの水流カッターが、英雄の首を刎ねる。
「過去など振り返るな! 未来(私)を見ろ!」
ヒマワリが英雄を火葬する。
俺は、襲いかかってくる『初代学園長(の亡霊)』と対峙していた。
彼は俺の肩を掴み、涙ながらに訴えてくる。
「校則を守れぇぇ……! スカート丈は膝下だぁぁ……!」
「……先生、時代は変わったんです」
俺は優しく諭し、風魔法で彼を成仏させる。
『春の彼岸』。
霊たちは「春休みだぁ……」と呟きながら天に昇っていった。
◇
3時間目:倫理(勇気)
そして最下層。
そこには、一枚の巨大な鏡が置かれていた。
ボス部屋だ。だが、モンスターはいない。
『最終問題。「真実の鏡」の前で、己の最も恥ずかしい秘密を暴露せよ。その「勇気」を示した者のみ、合格とする』
最悪のテストだ。
精神的ダメージで殺す気か。
「……無理。帰る」
アオイが即座に回れ右をする。
「逃げるなアオイ! 王たるもの、秘密などないはずだ!」
「……ある。実は、家では……パンダのパジャマを着てる」
カッ!
鏡が光り、合格のファンファーレが鳴る。
アオイが顔を真っ赤にしてうずくまる。
「……死にたい」
「ええい、ままよ! 私は……実は、トマトが食べられない!」
ヒマワリが叫ぶ。
合格。「太陽なのに赤色が苦手なんて……」
「……私は、本当は……魔法少女のアニメが好き」
ミサキがボソリと言う。
合格。「……衣装、作ってるの」
「くっ、我が深淵の秘密を……! 実は……眼帯の下は、視力2.0だ!」
サヤカが眼帯を外す。
合格。「ただのコスプレかよ!」
そして、残るは俺とヒヅキ。
「ハルお兄ちゃん……」
ヒヅキが潤んだ瞳で俺を見る。
「私の秘密はね……ハルくんの使用済みストローを、コレクションしてること……」
ブブーッ!!(不合格音)
『それは「秘密」ではなく「犯罪」です。もっと可愛げのあるやつにしてください』
「ええ!? じゃあ……毎晩ハルくんの夢を見て、枕を濡らしてること……?」
ピンポンパンポーン!
合格。いや、それも十分重いけどな。
『さあ、最後はハルくんです。あなたの秘密(勇気)を見せてください!』
全員の視線が俺に集まる。
俺の秘密。平々凡々な俺に、大した秘密などない。
だが、この空気を終わらせるには、とっておきを出すしかない。
俺は深呼吸をして、鏡の前に立った。
「俺は……!!」
ゴクリ、と誰かが喉を鳴らす。
「俺は……実は、このカオスな学園生活を……ほんの少しだけ、楽しいと思っている!!」
シーン……。
静寂。
カッッッ!!!
鏡が爆発した。許容量オーバーの「真実」だったらしい。
『……きゃー! ハルくんのツンデレー! 合格! 満点です!』
女神が叫ぶ。
そして、周囲の少女たちが、肉食獣のような目つきで俺に迫ってきた。
「……聞いたわよ、ハルお兄ちゃん」
「楽しいのか! そうか! もっと楽しませてやる!」
「……一生、逃さない」
「契約成立ね」
「我が眷属になる気になったか!」
しまった。
「勇気」を出した結果、退路を断たれた。
こうして、地獄の中間テストは終了した。
俺たちは全員満点で生還したが、俺が得たものは「単位」ではなく、「彼女たちからの重すぎる愛(呪い)」だった。
テストは終わったが、俺の人生の試験(試練)は、まだまだ続く。
これが、女神のやることか。
春。それは、新たな地獄の始まりの季節である。
お読みいただきありがとうございます!
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さて、次回は学園生活の闇、「いじめ問題」に切り込みます。
しかし、ただのいじめではありません。
開幕、「雨の日の決闘編」です!
【次回予告】
『あらあら、ハルくん。テストで自分の殻を破ったと思ったら、次は他人の殻を破りに行きますか?
六月の雨。紫陽花が咲く庭で、一人の少女が泣いている。
「私は……魔王なんかじゃない……!」
泥まみれの彼岸花。折れた心。
中二病の悪役令嬢が初めて見せる、等身大の弱さ。
それを見たハルは、静かにブチ切れる!
「おい。俺の連れに何してくれてんだ?」
発動する春一番! 咲き乱れる真紅の花!
傘がないなら、ハスの葉(魔法)をさせばいいじゃない!
次回、これが女神のやることか。
『本編第六章 雨に濡れた魔王と、傘をさす勇者』
さあハルくん。ブレザーを貸すなんてキザね! でも気をつけて、その優しさが一番の「猛毒」よ!(あとで全員からお仕置き確定☆)』




