本編第二章 『地獄の飯盒炊爨(カオス・クッキング)』
入学式の翌日。
この学園の行事は、ジェットコースターよりも急展開で進む。
オリエンテーション? 自己紹介? そんな生ぬるいものは後回しだ。
「これより、新入生歓迎・春の遠足を実施する!」
担任教師(筋肉ダルマ)が吼えた。
場所は、学校裏の『初心者用ダンジョン・そよ風の森』。
……名前は可愛いが、そこは遺伝子改良されたモンスターと、暴走した自動防衛システムが跋扈する、偏差値70の魔境だ。
「目的は『班ごとの親睦』だ! 協力して昼食を作り、生き残れ! 以上!」
そして、俺の班は――
・桜川ハル(一般人・春属性)
・皇ヒヅキ(ヤンデレ・水属性)
・夏目ヒマワリ(火力バカ・火属性)
・江戸川アオイ(睡眠欲の塊・重力属性)
・月乃下ミサキ(ダウナー・闇属性)
・彼岸サヤカ(中二病・呪い属性)
……クラスの女子全員、ここに固まってないか?
他の男子生徒からの「羨ましい」という視線と、「あいつ死んだな」という同情の視線が突き刺さる。
『ハルくん、元気ですかー? ママです』
森に入った瞬間、脳内にあの声が響く。
『今日のミッションは「カレー作り」です! ただし、このメンバーでまともな料理ができる確率は、隕石が直撃する確率より低いです。頑張って胃袋を守ってくださいね!』
(……帰りたい)
◇
キャンプ指定エリア。
最新鋭の反重力コンロと、チタン製の飯盒が支給される。
だが、この世界において、調理器具など飾りだ。重要なのは「火力」と「愛」だ。
「ハルお兄ちゃん! 私、最高傑作を作るわ!」
ヒヅキが包丁を握りしめ、恍惚とした表情で叫ぶ。
「隠し味は、私の『愛の雫(媚薬)』と『想いの結晶(追跡魔法入りスパイス)』よ!」
「待て。それは料理じゃない。犯罪の証拠物件だ」
俺はヒヅキの手から怪しい小瓶を奪い取る。
「ふははは! 火力が足りんぞ! カレーは飲み物、いや、マグマだ!」
ヒマワリが両手から火炎放射を放つ。
「我が情熱で、具材を一瞬で炭化させてくれる!」
「やめろ! 野菜を消し炭にするな! 低温調理を覚えろ!」
俺は風魔法で炎を散らす。
「……ふわぁ。……切るの、面倒」
アオイが寝転がったまま、指先を動かす。
「『重圧』。……潰れろ」
ドォォォン!
まな板の上のジャガイモと人参が、重力波でペースト状に圧縮された。
「それは離乳食だ! 食感を残せ!」
「……ククク。カレーにはコクが必要だろう?」
ミサキが紫色の煙を上げるキノコを投入しようとする。
「『悪夢茸』。食べると三日三晩、幸せな夢が見られるわ……」
「それはドラッグだ! 没収!」
カオスだ。
全員がそれぞれの正義で動いている。
まともな食材が一つもない。
「……ふん。愚民どもめ。料理とは、こうやるのだ」
そこで、真打登場とばかりにサヤカが前に出た。
彼女はマントを翻し、持参した食材を掲げる。
「我は魔王の器。故に、食すものも魔界の至宝! 召喚、『マンドラゴラの叫び』と『ケルベロスの尻尾肉』!」
ギャァァァァァ!
食材が悲鳴を上げている。間違いなく生きてる。
「うるさい! 調理前に食材とバトルするな!」
「何!? これこそが食育ではないのか!?」
サヤカが驚愕する。お前の家庭環境どうなってんだ。
そうこうしている間に、鍋の中は地獄絵図になっていた。
ヒヅキの水、ヒマワリの炎、アオイの圧力、ミサキの毒、サヤカの魔獣肉。
それらが化学反応を起こし、鍋から虹色の泡が吹きこぼれる。
ボコッ、ボコッ……。
「……おい、なんか鍋が脈打ってないか?」
俺が恐る恐る覗き込むと、鍋の中身が、ぐにゅりと動いた。
そして。
「オ……オレ……ヲ……タベルナ……」
カレー(仮)が、人の顔を形作り、喋った。
食材の怨念と過剰な魔力が融合し、自立思考型ゴーレム『カレモン』が誕生してしまったのだ。
「キャアアアア! 料理が襲ってきたわ!」
「すごい! これぞ生命の神秘!」
「……斬る」
「燃やす!」
女子たちが戦闘態勢に入る。
だが、『カレモン』は液体だ。物理攻撃は効かないし、魔法を撃てば周囲に飛び散って大惨事になる。
『ハルくん! 緊急クエスト発生! 「暴走カレーを鎮圧し、美味しくいただく」! 失敗すれば、全員の制服がカレー臭で全滅します!』
(ふざけんな! なんで俺が尻拭いを!)
だが、やるしかない。
俺は深呼吸をする。
春。それは始まりの季節。
全てを包み込み、新たな命を育む、優しさの象徴。
「魔法・『春の七草粥』!!」
俺は両手をかざし、優しく鍋を抱きしめる(魔法的な意味で)。
殺伐とした魔力を、春の陽気で中和する。
ドロドロの怨念を、爽やかなハーブの香りで浄化する。
暴走するエネルギーを、旨味成分へと変換する!
「静まりたまえ……! お前はモンスターじゃない……ただの、ちょっとスパイシーな昼飯だ!」
シュァァァァ……。
眩い光と共に、『カレモン』が形を崩す。
邪悪な虹色は、食欲をそそる黄金色へ。
悲鳴は、食欲を刺激するグツグツという音へ。
数分後。
そこには、奇跡的に完成した『至高のポークカレー(マンドラゴラ入り)』があった。
「……できた」
俺はその場に崩れ落ちた。
精神力が空っぽだ。
「……美味しい」
サヤカが恐る恐る一口食べ、目を輝かせた。
「これが……家庭の味……? 我が家の食卓(生肉)とは違う……!」
「ハルお兄ちゃんの愛の味ね!」
「悔しいが、私の炎より熱い味だ!」
「……これなら、起きてもいい」
「毒が抜けてる……つまんないけど、美味しい」
女子たちがカレーを貪り食う。
その光景は、さながら飢えた猛獣の餌付けだ。
『おめでとうハルくん! 彼女たちの「胃袋」を掴みました! これで好感度ボーナスが5倍になります!』
(いらない……そんなボーナス、絶対にいらない……)
遠足は終わった。
だが、俺の受難は終わらない。
翌日から、サヤカの弁当箱には、毎日『謎の肉(生)』が入っており、「……焼いてくれ」と無言で渡されるようになった。
俺はいつから、魔王の専属シェフになったんだ。
これが、女神のやることか。
俺の高校生活は、今日も美味しく煮込まれている。
お読みいただきありがとうございます!
「カレーが食べたい」「カレモン、意外と可愛い?」と思っていただけたら、
ブックマークや評価(★)をパクッ!と食べていただけると、カレモンのスパイスが増量され、女神(作者)の創作意欲が煮込まれます!
さて、次回は学園生活の華、「係活動」です。
しかし、ハルが任命されたのはただの飼育係ではありません。
地下深くに広がる「魔獣隔離施設」の管理者でした!
【次回予告】
『あらあら、ハルくん。カレーとの死闘を制したと思ったら、次は食材の逆襲ですか?
いきもの係! その実態は、地下闘技場で繰り広げられる「モンスターパニック」!
暴走するメカニワトリ! 飛び交うレーザー! そして迫りくる「朝」の恐怖!
「コケッコー(死ね)!!」
「朝だ! 起きろ! 二度寝は許さん!」
最強の猛獣使いとなったハルが、5人の厄災(猛獣)とメカニワトリを手懐けるため、自ら「太陽」となる!?
次回、これが女神のやることか。
『本編第三章 地下迷宮のニワトリと、檻の中の太陽』
さあハルくん。餌付けの時間よ! 食べられる前に食べさせなさい!(あ、指には気をつけてね☆)』




