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第二部 第十章(最終回) 『極大魔法の除夜の鐘と、消失する桃の箱庭』

 大晦日。

 王立高等魔法学園は、雪に包まれていた。

 だが、その白銀の静寂は、深夜零時が近づくにつれて凄まじい轟音によって掻き消されていく。


「煩悩、退散ァァァ!! 『超新星爆発スーパーノヴァ』!!」


 ドッゴォォォォォン!!


 夏目ヒマワリが夜空に向けて極大の火球を放ち、上空の雪雲を完全に吹き飛ばした。


「私の煩悩(ハルへの愛)は108個じゃ足りない! すべて燃やして来年のエネルギーにする!」


「地球温暖化を一晩で進める気か! 火力がエグいんだよ!」


 この世界における『除夜の鐘』。


 それは鐘を撞くことではない。学生たちが「1年で使い残した魔力」を極大魔法リミットブレイクとして108発、夜空に向けて全力でぶっ放すという、頭の狂った在庫処分フェスである。


「古い水は流し、新しいハルを迎え入れるわ! 『海神の怒り(リヴァイアサン)』!」


 ヒヅキが巨大な水龍を空に打ち上げる。水龍はなぜか俺の顔の形をしていた。


「なんで俺の顔なんだよ! キモイしデカいし湿気がすごい!」


「……108回数えるの、面倒。一撃で沈める。……『重力崩壊メテオ・ストライク』」


 アオイが宇宙から巨大な隕石(ただし形状は枕)を引っ張ってくる。


「恐竜が絶滅する規模の隕石を落とすな! 学園ごと更地になるだろ!」


「フハハ! 我が右腕に蓄積されし1年分の呪詛、今こそ解放の時! 『終焉の黒き波動アビス・ブラスター』!」


 サヤカが中二病全開で放った漆黒のレーザーが、隕石(枕)を真っ二つに割る。


「……廃棄予定の劇薬(在庫)、全部混ぜて打ち上げるわ。……『紫煙の毒花ポイズン・ブルーム』」


 ミサキが打ち上げた魔法が、上空で極彩色の毒々しい花火となって開く。綺麗だが、吸い込んだら間違いなく死ぬ。

 夜空は花火大会どころではない、世界大戦のような閃光と爆発音に包まれていた。


「お前ら! 魔力使い切るイベントで世界を終わらせるな! 俺が全部相殺しなきゃいけないだろ!」


 俺、桜川ハルは、空から降り注ぐ余波(炎、水、隕石、毒)を、己の『春の陽気(全力展開)』で必死に中和・相殺していた。


 大晦日の夜中だというのに、俺は汗だくだ。休まる時がない。


 ◇


 深夜零時過ぎ。

 魔力をスッカラカンにして満足した厄災たちを引き連れ、俺たちは初詣へと向かっていた。


 行き先は、学園の裏山にある『桃ノ神宮』。

 古くから「桃の女神」を祀るとされる、この地域で最もご利益のある神社だ。


「さあハルお兄ちゃん! 私の編んだマフラー(長さ10メートル)に一緒に入りましょう!」


「長すぎるわ! 遭難者の命綱か!」


「寒いなら私が温めてやる! ほら、私に抱きつけ!」


「お前は表面温度が高すぎてヤケドするんだよ! 近づくな!」


「……ハル。歩くの疲れた。おんぶ」


 アオイが俺の背中に張り付き、完全に体重を預けてくる。重力魔法で自分の体重を軽くする気すらないらしい。

 騒がしい道中を経て、俺たちは神社の境内に辿り着いた。

 屋台が並び、提灯が揺れる。桃のマークが描かれた大きな鳥居をくぐると、本殿の前に巨大な賽銭箱が置かれていた。


「ハルお兄ちゃん! 一緒にお参りしましょう!」


「抜け駆けは許さん! 私がハルの隣だ!」


「……重力で、全員縛る」


 魔力が空っぽのはずなのに、物理的なポジション争い(お賽銭バトルロイヤル)が勃発する。ヒヅキが金の延べ棒を賽銭箱にねじ込もうとし、ヒマワリが火のついた小切手を投げ入れようとしている。

 俺がツッコミ疲れでため息をついた、その時だった。


「……ふふ。謎は解けたわ」


 シュゥゥゥ……。


 足元から大量のドライアイスの煙が噴き出した。雪と混ざり合い、視界が完全にホワイトアウトする。


「なっ、見えない!」


「誰よ煙幕張ったのは!」


 ヒロインたちが混乱する中、俺の隣にスッと人影が滑り込んできた。


「……ポンコツ探偵、お前か」


「ポンコツじゃないわ。魔力を使い切った隙を突き、地形と物理的な煙幕だけで出し抜く……これぞ『探偵』の真骨頂よ」


 雪音シズクだ。

 彼女は得意げに虫眼鏡を回し、俺の隣(特等席)をキープして賽銭箱の前に立った。


「……今年の私の『謎』は、貴方だったわ、ハル。来年は、貴方の心を解き明かしてみせる」


「……ああ、お手柔らかにな」


 俺は少しだけ笑い、シズクと共に賽銭箱に硬貨を投げ入れた。


 パン、パン。

 柏手を打つ。

 だが、お参りを終えて顔を上げたシズクの表情が、唐突に凍りついた。

 彼女の紫色の瞳が、極限まで見開かれ、神社の『本殿』を凝視している。


「……おかしいわ」


「シズク? どうした? 願い事忘れたのか?」


「……ハル。さっき引いたおみくじ、見て」


 シズクの震える手には、境内で引いたおみくじが握られていた。

 そこには『大吉』も『凶』も書かれていない。

 ただ、真っ白な紙に、意味不明な文字列(//ERROR:TEXT_NOT_FOUND)が印字されているだけだった。


「なんだこれ、印刷ミスか……?」


「違うわ。それだけじゃない」


 シズクは虫眼鏡を本殿の柱に向けた。


「……さっきから、あの柱の裏側が見えないの。吹雪のせいじゃないわ。……テクスチャが、貼られていないのよ」


「テクス、チャ……?」


「この世界……おかしいわ! なんで誰も気づかないの!? この神社の装飾も、この雪も、おみくじも……まるで、造り物の『舞台セット』みたいじゃない!」


 シズクが悲鳴のように叫んだ瞬間。

 ピタリ、と。

 空から降っていた雪が、空中で完全に静止した。


「……え?」


 俺が声を漏らす。

 ヒヅキの怒鳴り声も、ヒマワリの足音も、屋台の喧騒も、一切聞こえない。

 振り返ると、シズク以外のヒロインたちが、お参りのポーズのまま、あるいは煙幕の中で咳き込むポーズのまま、一時停止ボタンを押されたビデオのように完全に動きを止めていた。


『――あらあら。さすがは名探偵。気づくのが少しだけ早かったですね』


 ノイズ混じりの、甘ったるい声が空から響いた。

 本殿の屋根の上に、ピンク色のJK姿の母さん(モモネ)が立っていた。

 だが、その瞳にはいつもの親バカな笑みはなく、無機質で、冷酷な『神』の光が宿っている。


「母さん……? 何をしてるんだ、みんなが止まって……!」


「母さん? ああ、その設定ロールのことですか」


 モモネが指を鳴らす。

 瞬間、神社の本殿がノイズと共に『消失』した。

 続いて、裏山の木々が、夜空が、空間そのものが、ポリゴンが剥がれ落ちるように真っ白な虚無へと変わっていく。


「ハ、ハル……! 世界が……!」


 シズクが恐怖に顔を引き攣らせ、俺の腕にすがりつく。

 俺たちの足元の地面すらも、透明なガラスのように透け始めていた。


「第二部はここまでです、ハルくん。……いいえ、『愛しい私のロミオ』」


 モモネがゆっくりと宙を歩き、俺の目の前に降り立つ。


「少し、この箱庭せかいにバグが増えすぎました。ヒロインも多すぎる。だから――一度、全部リセット(お片付け)しましょうね」


「ふざけるな! みんなを、俺の日常をどうする気だ!」


「大丈夫。すぐにまた、新しい春が来ますよ。永遠に終わらない、私と貴方だけの春が」


 モモネが俺の頬に、氷のように冷たい手を添える。


「さようなら、ポンコツ探偵さん」


「ハルッ――!!」


 モモネが微笑んだ瞬間、俺の腕を掴んでいたシズクの姿が、ノイズと共に“切り出される”ように消えた。

まるで、セーブデータを別スロットに移したみたいに。


「シズクッ!!」


 俺の叫びも虚しく、世界が白に飲まれていく。

 騒がしくて、理不尽で、でも愛おしかった俺の日常が、音を立てて崩れ去っていく。

 俺の意識も、塗りつぶされるように暗転していく。


(……これが、女神の……やることか……)


 最後に見たのは、崩壊する世界の中でただ一人、狂おしいほどの愛を込めて俺を見つめる、桃色の女神の笑顔だった。


 第二部 完


特報:『劇場版 桜川ハルの憂鬱(仮)』制作決定!


(ノイズ画面が切り替わり、荘厳なオーケストラBGMが流れる)


『……世界は消失した』


(真っ白な空間に立つハルの後ろ姿)


『狂った日常は終わりを告げ、女神は箱庭を閉じた。


 だが、物語はまだ終わらない――!』


【特報】劇場版3部作、連続公開決定!!


◆第一部

『エピソードゼロ(はじまりの物語)〜女神は、退屈な箱庭で愛を夢見る〜』


 なぜモモネはハルに執着するのか? すべての発端となる、女神の過去と世界の創造の秘密が今、明かされる!


◆第二部

『神殺しのバースデーケーキ(ビッグバン)』


 消失した世界を取り戻すため、消えたヒロインたちが次元を超えて集結!

 武器は剣か、魔法か、それとも「手作りケーキ」か!? 全宇宙を巻き込んだ、史上最大の誕生日パーティーが開幕!


◆第三部

『永遠の物語〜終わらない春休みと留年の危機〜』


 神殺しを成し遂げたハルを待っていたのは、平和な日常……ではなく、課題が山積みの春休みだった!


 「世界を救っても、宿題が終わらなきゃ留年だあああ!」


 涙と笑いのグランドフィナーレ!


『劇場版3部作』、スクリーン(という名の皆様の脳内)で近日公開予定!


「絶対に見に来てね! 来ないと映画館ごと水没させるわよ!」(ヒヅキ)

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