表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

第二部 第九章(冬休み編) 『聖夜(繰り済ます)の太陽信仰と、沈まぬヒマワリ』


 12月25日。


 世間一般の認識において、今日は赤服の太った爺さんが煙突から不法侵入してくる日、『クリスマス』である。


 だが、この狂った王立高等魔法学園(および魔法世界の一部)におけるそれは、根本的に意味が違っていた。


「ハル! 起きろ! 日の出だ! 『サン拓郎ス』様が昇られるぞ!!」


 早朝6時。俺の部屋の窓ガラスをぶち破り、夏目ヒマワリが太陽を背負って(物理的に発光しながら)突入してきた。


「窓から入ってくるな! 寒っ! ……ってか、サン拓郎スってなんだよ!」


「知らないのか!? 太陽の化身である三兄弟『サン・拓郎・ス』を奉り、毎日の日の出と日の入りに感謝する神聖な祭典だ!」


 ヒマワリが胸を張る。


 そう、この世界におけるクリスマスとは。


 太陽の軌道になぞらえ、日の出と共に今年の「やり残し」を全力で消化し、日没までに全てを『繰り済ます(クリスマス)』という、超・体育会系のスパルタ行事なのだ。

 そして何より、太陽属性であるヒマワリにとって、今日は全校生徒が己の属性を崇める『絶対的聖戦』の日でもあった。


「さあ行くぞハル! 日没までに今年の『繰り済ます』を終わらせるのだ!」


 俺はパジャマのまま、極寒の校庭へと引きずり出された。

 そこにはすでに、今年のやり残しを消化しようと目を血走らせた『厄災』たちが集結していた。


 ◇


「さあハルお兄ちゃん! 今年やり残した『私との婚姻届の提出』を済ませましょう!」


 皇ヒヅキが、役所の印鑑が押された本物の用紙(俺の署名欄以外記入済み)を突きつけてきた。


「いつからやり残してたんだよ! 引っ込めろ!」


「さあ、親指を出して! 朱肉がないなら血判でもいいわ!」


 ヒヅキが水のウォーターウィップで俺の腕を強引に絡め取ろうとする。


「公文書を血で汚すな! だいたい、なんで今日なんだ!」


「当然でしょ? 今日は太陽(日)を奉る日。私の名前『ヒヅキ』には『ヒ(日)』が入っているわ」


 ヒヅキは妖しく微笑む。


「つまり、今日は実質的に私の日。太陽の導きによって、私たちが結ばれるのは宇宙の真理なのよ!」


「どんな暴論だよ! 文字面だけのこじつけだろ!」


 俺は叫びながら、ふと違和感を覚えた。


(……待てよ。こいつの魔力属性は『水』だ。なんで名前に『日(太陽)』なんて真逆の概念が入ってるんだ?)


 だが、その一瞬の疑問は、背後から迫る更なる狂気によって上書きされた。


「……私のやり残しは、ルーンガルドの魔法カジノへの復讐よ。……今からゲートを開いて、あの国を更地にする」


 月乃下ミサキが、致死量の毒物(劇薬)をリュックに詰めている。


「国際問題になるからやめろ!」


「……チッ。じゃあ妥協して、カジノの代わりにこの『ジャックポット・ウイルス(感染型下剤)』を学食のクリスマスケーキに……」


「国内テロで妥協するな! その紫色の瓶をしまえ!」


「フハハ! 我は今年召喚し損ねた大悪魔(時給1500円)を喚ぶ! 生贄の準備だ!」


 彼岸サヤカが校庭に巨大な魔法陣を描き始める。


「労働基準法を守る悪魔を呼ぶな!」


「ええい黙れ! 生贄の条件は『純潔の乙女』か『巻き込まれ体質の童貞』だ! さあ首を差し出せハル!」


「誰が巻き込まれ童貞だ! というか魔法陣が水性ペンで描かれてるぞ、雪で滲んでる!」


「くっ……予算の都合だ!」


「……ハル。私のやり残しは『完全犯罪』の実行よ。ターゲットは貴方(の唇)……!」


 雪音シズクがドライアイスを焚きながら、目をグルグルさせて迫ってくる。


「視界不良で俺の鼻にキスしようとしてるぞポンコツ!」


「……ふ、ふふ。言い逃れはできないわ。すでにこの空間は私の氷で密室に……きゃあっ!」


「自分で撒いた氷で滑るな! そして俺の胃袋に頭突きをするな!」


「……日の出? 無理。日没まで冬眠する。……おやすみ」


 江戸川アオイだけが、重力魔法で作ったコタツの中で平和に『繰り済ます』を遂行していた。が。


「……ハル。湯たんぽ(抱き枕)になって。……重力・引き寄せ」


 ズンッ!と俺の足元に重力魔法が直撃する。


「ぐおおっ! コタツに引きずり込むためだけに5Gの重力をかけるな!」


「……抵抗するなら、10Gにする。……すぅ」


「寝る前に魔法を解除しろ!」


 俺の今年のやり残しは決定した。


『日没まで、こいつらの暴走(犯罪)を全て止めること』だ。


 ◇


 夕方。16時30分。


 俺がツッコミと『春の陽気』を乱発し、ヒヅキの婚姻届を破り捨て、ミサキのテロを封鎖し、サヤカの魔法陣を消し去り、アオイの重力から脱出した頃。

 西の空に、太陽が沈みかけていた。日没が近づき、プレゼント交換の時間が迫る。


 だが、ただ一人。


 ヒマワリの『やり残し(ハルとの平和なデート)』だけが、暴走の鎮圧に巻き込まれて終わっていなかった。


「まだだ! まだ沈むなサン拓郎ス!!」


 ヒマワリが、沈みゆく夕日へ向かって絶叫した。


「私の情熱プロミネンスで、強引に白夜にしてやるああああ!」


 彼女の全身から極大の炎が噴き上がり、空を無理やり明るく照らそうとする。天体の運行(地球の自転)に対する物理的な反逆だ。


「やめろヒマワリ! 近隣住民からクレームが来る!」


「嫌だ! ハルとクレープを食べるまで、私の今日は終わらない!」


 俺は炎の中に飛び込み、彼女の頭にポンと手を置いた。


「……属性・春。魔法・『春の夕暮れ』」


 俺の魔力が、ヒマワリの暴走する熱を優しく包み込む。ぽかぽかとした、穏やかな夕暮れの温度。


「……ハル」


「クレープなら、日没の後に『プレゼント』として奢ってやるよ。だから、今日はもう沈め」


 俺が笑いかけると、ヒマワリは顔を真っ赤にして(炎とは別の熱で)俯き、全身の火を収めた。

 その瞬間、西の空に太陽が完全に沈んだ。


 ◇


 夜。

 無事に日没を迎え、俺たちは平和に『プレゼント交換(主に俺への押し付け)』を行っていた。


「……やっと静かになった」


 ――そこへ。


「メリー・繰り済ます!!」


 ドガァァァン!!と扉が吹き飛び、3人の男が現れた。

 担任(筋肉)が分身魔法を使った姿だった。なぜか全員、褌一丁でサンタ帽だけを被り、筋肉にオイルを塗ってテカテカに光っている。


「我ら! サン! 拓郎! ス!! これより良い子たちに、プロテイン(プレゼント)を配る!」


 ポージングを決める3人の筋肉。


「……これの、どこが聖夜なんだよ!!」


 俺の絶望のツッコミが、冬の夜空に響き渡る。


 これが、女神のやることか。

 狂った世界のクリスマス(繰り済ます)は、プロテインの粉雪と共に更けていくのだった。



お読みいただきありがとうございます!

「サン・拓郎・スの破壊力がやばい」「ヒヅキの暴論、実は伏線……?」と思っていただけたら、

ブックマークや評価(★)をプロテインと一緒にシェイクしていただけると、筋肉(担任)が喜び、女神(作者)の筋肉痛が治ります!

さて、無事に(?)クリスマスを繰り済ませたチーム・カオス。

しかし、冬休み最大のイベントはまだ残っています。そう、「大晦日&お正月」です!

次回、「除夜の鐘(108連発物理)と、初詣防衛戦」です!


【次回予告】

『あらあら、ハルくん。サン拓郎スからのプレゼント(プロテイン10キロ)、美味しかったですか?

 さあ、今年も残りわずか! 大晦日の夜は、煩悩を払う「除夜の鐘」!

 

 「私の愛(煩悩)は鐘の音くらいじゃ消えないわ!」

 「うるさい! アオイが起きるだろ! 鐘を物理で破壊するな!」

 

 108回の爆発音が響く中、迎えた新年!

 初詣の神社では、ハルとおみくじ(大吉)を引く権利を賭けた、ヒロインたちの「お賽銭バトルロイヤル」が開幕!

 

 次回、これが女神のやることか。

 『第二部第十章 爆砕の除夜の鐘と、神頼み(物理)の初詣』

 

 さあハルくん。お年玉の用意はいいですか? ママには「ハルくんの愛」を包んでくださいね☆(お賽銭は札束で殴り合います!)』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ