第二部 第九章(冬休み編) 『聖夜(繰り済ます)の太陽信仰と、沈まぬヒマワリ』
12月25日。
世間一般の認識において、今日は赤服の太った爺さんが煙突から不法侵入してくる日、『クリスマス』である。
だが、この狂った王立高等魔法学園(および魔法世界の一部)におけるそれは、根本的に意味が違っていた。
「ハル! 起きろ! 日の出だ! 『サン拓郎ス』様が昇られるぞ!!」
早朝6時。俺の部屋の窓ガラスをぶち破り、夏目ヒマワリが太陽を背負って(物理的に発光しながら)突入してきた。
「窓から入ってくるな! 寒っ! ……ってか、サン拓郎スってなんだよ!」
「知らないのか!? 太陽の化身である三兄弟『サン・拓郎・ス』を奉り、毎日の日の出と日の入りに感謝する神聖な祭典だ!」
ヒマワリが胸を張る。
そう、この世界におけるクリスマスとは。
太陽の軌道になぞらえ、日の出と共に今年の「やり残し」を全力で消化し、日没までに全てを『繰り済ます(クリスマス)』という、超・体育会系のスパルタ行事なのだ。
そして何より、太陽属性であるヒマワリにとって、今日は全校生徒が己の属性を崇める『絶対的聖戦』の日でもあった。
「さあ行くぞハル! 日没までに今年の『繰り済ます』を終わらせるのだ!」
俺はパジャマのまま、極寒の校庭へと引きずり出された。
そこにはすでに、今年のやり残しを消化しようと目を血走らせた『厄災』たちが集結していた。
◇
「さあハルお兄ちゃん! 今年やり残した『私との婚姻届の提出』を済ませましょう!」
皇ヒヅキが、役所の印鑑が押された本物の用紙(俺の署名欄以外記入済み)を突きつけてきた。
「いつからやり残してたんだよ! 引っ込めろ!」
「さあ、親指を出して! 朱肉がないなら血判でもいいわ!」
ヒヅキが水の鞭で俺の腕を強引に絡め取ろうとする。
「公文書を血で汚すな! だいたい、なんで今日なんだ!」
「当然でしょ? 今日は太陽(日)を奉る日。私の名前『ヒヅキ』には『ヒ(日)』が入っているわ」
ヒヅキは妖しく微笑む。
「つまり、今日は実質的に私の日。太陽の導きによって、私たちが結ばれるのは宇宙の真理なのよ!」
「どんな暴論だよ! 文字面だけのこじつけだろ!」
俺は叫びながら、ふと違和感を覚えた。
(……待てよ。こいつの魔力属性は『水』だ。なんで名前に『日(太陽)』なんて真逆の概念が入ってるんだ?)
だが、その一瞬の疑問は、背後から迫る更なる狂気によって上書きされた。
「……私のやり残しは、ルーンガルドの魔法カジノへの復讐よ。……今からゲートを開いて、あの国を更地にする」
月乃下ミサキが、致死量の毒物(劇薬)をリュックに詰めている。
「国際問題になるからやめろ!」
「……チッ。じゃあ妥協して、カジノの代わりにこの『ジャックポット・ウイルス(感染型下剤)』を学食のクリスマスケーキに……」
「国内テロで妥協するな! その紫色の瓶をしまえ!」
「フハハ! 我は今年召喚し損ねた大悪魔(時給1500円)を喚ぶ! 生贄の準備だ!」
彼岸サヤカが校庭に巨大な魔法陣を描き始める。
「労働基準法を守る悪魔を呼ぶな!」
「ええい黙れ! 生贄の条件は『純潔の乙女』か『巻き込まれ体質の童貞』だ! さあ首を差し出せハル!」
「誰が巻き込まれ童貞だ! というか魔法陣が水性ペンで描かれてるぞ、雪で滲んでる!」
「くっ……予算の都合だ!」
「……ハル。私のやり残しは『完全犯罪』の実行よ。ターゲットは貴方(の唇)……!」
雪音シズクがドライアイスを焚きながら、目をグルグルさせて迫ってくる。
「視界不良で俺の鼻にキスしようとしてるぞポンコツ!」
「……ふ、ふふ。言い逃れはできないわ。すでにこの空間は私の氷で密室に……きゃあっ!」
「自分で撒いた氷で滑るな! そして俺の胃袋に頭突きをするな!」
「……日の出? 無理。日没まで冬眠する。……おやすみ」
江戸川アオイだけが、重力魔法で作ったコタツの中で平和に『繰り済ます』を遂行していた。が。
「……ハル。湯たんぽ(抱き枕)になって。……重力・引き寄せ」
ズンッ!と俺の足元に重力魔法が直撃する。
「ぐおおっ! コタツに引きずり込むためだけに5Gの重力をかけるな!」
「……抵抗するなら、10Gにする。……すぅ」
「寝る前に魔法を解除しろ!」
俺の今年のやり残しは決定した。
『日没まで、こいつらの暴走(犯罪)を全て止めること』だ。
◇
夕方。16時30分。
俺がツッコミと『春の陽気』を乱発し、ヒヅキの婚姻届を破り捨て、ミサキのテロを封鎖し、サヤカの魔法陣を消し去り、アオイの重力から脱出した頃。
西の空に、太陽が沈みかけていた。日没が近づき、プレゼント交換の時間が迫る。
だが、ただ一人。
ヒマワリの『やり残し(ハルとの平和なデート)』だけが、暴走の鎮圧に巻き込まれて終わっていなかった。
「まだだ! まだ沈むなサン拓郎ス!!」
ヒマワリが、沈みゆく夕日へ向かって絶叫した。
「私の情熱で、強引に白夜にしてやるああああ!」
彼女の全身から極大の炎が噴き上がり、空を無理やり明るく照らそうとする。天体の運行(地球の自転)に対する物理的な反逆だ。
「やめろヒマワリ! 近隣住民からクレームが来る!」
「嫌だ! ハルとクレープを食べるまで、私の今日は終わらない!」
俺は炎の中に飛び込み、彼女の頭にポンと手を置いた。
「……属性・春。魔法・『春の夕暮れ』」
俺の魔力が、ヒマワリの暴走する熱を優しく包み込む。ぽかぽかとした、穏やかな夕暮れの温度。
「……ハル」
「クレープなら、日没の後に『プレゼント』として奢ってやるよ。だから、今日はもう沈め」
俺が笑いかけると、ヒマワリは顔を真っ赤にして(炎とは別の熱で)俯き、全身の火を収めた。
その瞬間、西の空に太陽が完全に沈んだ。
◇
夜。
無事に日没を迎え、俺たちは平和に『プレゼント交換(主に俺への押し付け)』を行っていた。
「……やっと静かになった」
――そこへ。
「メリー・繰り済ます!!」
ドガァァァン!!と扉が吹き飛び、3人の男が現れた。
担任(筋肉)が分身魔法を使った姿だった。なぜか全員、褌一丁でサンタ帽だけを被り、筋肉にオイルを塗ってテカテカに光っている。
「我ら! サン! 拓郎! ス!! これより良い子たちに、プロテイン(プレゼント)を配る!」
ポージングを決める3人の筋肉。
「……これの、どこが聖夜なんだよ!!」
俺の絶望のツッコミが、冬の夜空に響き渡る。
これが、女神のやることか。
狂った世界のクリスマス(繰り済ます)は、プロテインの粉雪と共に更けていくのだった。
お読みいただきありがとうございます!
「サン・拓郎・スの破壊力がやばい」「ヒヅキの暴論、実は伏線……?」と思っていただけたら、
ブックマークや評価(★)をプロテインと一緒にシェイクしていただけると、筋肉(担任)が喜び、女神(作者)の筋肉痛が治ります!
さて、無事に(?)クリスマスを繰り済ませたチーム・カオス。
しかし、冬休み最大のイベントはまだ残っています。そう、「大晦日&お正月」です!
次回、「除夜の鐘(108連発物理)と、初詣防衛戦」です!
【次回予告】
『あらあら、ハルくん。サン拓郎スからのプレゼント(プロテイン10キロ)、美味しかったですか?
さあ、今年も残りわずか! 大晦日の夜は、煩悩を払う「除夜の鐘」!
「私の愛(煩悩)は鐘の音くらいじゃ消えないわ!」
「うるさい! アオイが起きるだろ! 鐘を物理で破壊するな!」
108回の爆発音が響く中、迎えた新年!
初詣の神社では、ハルとおみくじ(大吉)を引く権利を賭けた、ヒロインたちの「お賽銭バトルロイヤル」が開幕!
次回、これが女神のやることか。
『第二部第十章 爆砕の除夜の鐘と、神頼み(物理)の初詣』
さあハルくん。お年玉の用意はいいですか? ママには「ハルくんの愛」を包んでくださいね☆(お賽銭は札束で殴り合います!)』




