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第二部 第八章 『期末テストの攻防と、歌詞が具現化する激唱カラオケ』

 文化祭から数週間後。


 白タイツを残して舞台から空へ飛び立った俺の『ロミオ全裸逃亡事件』の噂もようやく落ち着きを見せ始めた頃、王立高等魔法学園に冬の足音が近づいていた。


 すなわち、2学期期末テストである。


「赤点を一つでも取った者は、冬休みに『魔獣の森・サバイバル補習(2泊3日)』に行ってもらう!」


 ホームルームで、担任(筋肉)が笑顔で死刑宣告をした。

 放課後。1年Sクラスの教室は、お通夜のような空気に包まれていた。


「……私の脳細胞きんにくが、数学を拒絶している」


 ヒマワリが白紙のプリントを前に、頭から煙を吹いている。物理的に燃えそうだ。


「……Zzz」


 アオイは教科書を枕にして完全な睡眠学習(ただの睡眠)に入っている。


「フハハ! 古文などという過去の呪詛、我が邪眼には解読不能……!(意訳:全然わからない)」


 サヤカが赤ペンをへし折った。


「お前ら、少しは真面目にやれ! 魔獣の森に行きたいのか!」


 俺は教卓に立ち、チョークを握って叫んだ。

 俺の成績は中の中、ごく普通の一般人だ。だが、この『厄災』たちを放置すれば、連帯責任で俺までサバイバル補習に連行される未来が見える。それだけは絶対に阻止しなければならない。


「……ハルお兄ちゃん。私が全教科満点を取ったら、ご褒美に『あーん』して計算ドリルを食べさせてくれる?」


「紙を食うな。普通に教えるから座れ」


 ヒヅキのヤンデレ学習法を躱しつつ、俺は黒板を叩く。


「……ハル、この『暗記力向上薬(劇薬)』、試してみる?」


「脳細胞が死滅しそうな色してるから片付けろミサキ」


「……任せなさい。この程度の論理パズル、私の推理力をもってすれば……ああっ! マークシートの段が全部ズレてたわ!」


「なんで本番前にドジ踏んでるんだシズク!」


 カオスだ。

 だが、俺は諦めなかった。


「ヒマワリ! 数学の図形問題は『敵の陣形』だと思え! サヤカ! 古文は『いにしえの魔道書』の翻訳だ! アオイ! 起きろ、俺の『春の陽気』で無理やり交感神経を刺激するぞ!」


 俺は持てる全てのツッコミと春の魔力を駆使し、彼女たちのモチベーションを物理的・精神的にコントロールした。


 血を吐くような三日間のスパルタ勉強会。


 その結果――。


 ◇


「見ろハル! 数学で平均点を超えたぞ!」


「……みんな、なんとか赤点回避ね」


 テスト返却日。俺たちは見事、サバイバル補習という名の死地を回避することに成功した。


「よく頑張りましたね皆さん! ママ感動です!」


 ピンク色のJK(母さん)が、教室の後ろでクラッカーを鳴らす。


「今日はご褒美に、パーッと打ち上げに行きましょう! 理事長権限で『すごい場所』を貸し切っておきましたよ☆」


 嫌な予感しかしなかったが、テスト明けの解放感に勝てず、俺たちは母さんに連れられて繁華街へと向かった。


 たどり着いたのは、煌びやかなネオンが輝く巨大なビル。

 看板には『ルーンガルド直輸入! 次世代・魔導ホログラムカラオケ』と書かれていた。


「修学旅行で行った魔法帝国の技術を、娯楽に全振りした最新施設ですよ!」


 母さんがVIPルームの扉を開ける。


「歌った歌詞やメロディーが、最新の幻影魔法で『現実ホログラム』として部屋中に具現化するんです! さあ、歌えや騒げ!」


 マイクが配られる。

 そして、ここからが本当の地獄ライブだった。


「トップバッターは私よ! ハルお兄ちゃんへの愛の歌!」


 ヒヅキがマイクを握り、重いバラードを熱唱し始める。


『♪溢れる涙は〜 深い海になって〜 あなたを逃さない〜』


 瞬間、カラオケルームの床から本物の海水が湧き出し、俺たちの膝下まで部屋が水没した。


「おい! ホログラムじゃなくて本物の水が出てるぞ! 漏電する!」


「愛の力よ! 溺れましょうハルお兄ちゃん!」


「ぬるい! 次は私だ! 灼熱のアニソンを聴け!」


 ヒマワリがマイクを奪い取る。


『♪燃え上がれ〜 俺の小宇宙パッション〜!』


 ゴォォォォォン!!


 部屋の四隅から火柱が上がり、モニターの背景が活火山の火口へと変貌する。


「熱い熱い熱い! スプリンクラー回れ!」


 水没した部屋の水が蒸発し、完全なサウナ状態になる。


「……フフフ。我が鎮魂歌レクイエムを響かせよう……」


 サヤカがゴシックロックを歌い始める。


『♪闇より這い出よ〜 嘆きの亡者たち〜』


 ズズズ……と床に魔法陣が浮かび上がり、文化祭の時に時給で揉めた低級悪魔たちが再びホログラムとして召喚された。


「あ、サヤカ店長お疲れッス。カラオケの合いの手っスか? これ深夜手当つきます?」


「歌に集中させろお前ら!」


「……次、私」


 アオイがマイクを持ったまま横になる。


『♪ねんねんころりよ〜……Zzz』


 歌え。そして部屋全体の重力が3倍になり、全員が床に押し付けられる。


「……私の番ね」


 ミサキが選曲したイントロが流れる。

 それは、ポップでキュートなメロディー。深夜アニメ『魔法少女☆マジカル・マカロン』のオープニングテーマだった。


『♪ミラクル・マジカル・マカロンスマイルっ☆』


 部屋中をピンク色の光とハートのホログラムが飛び交う。俺だけは知っている、ミサキの隠れた趣味だ。


「ミサキ、お前それ……」


「…………っ!!」


 全員に見られていることに気づいたミサキが、顔を真っ赤にしてフリーズする。


「……見なかったことにして」


 プシュウウウ!とマイクから紫色の睡眠ガス(本物)が噴射され、悪魔もヒマワリもまとめて眠りに落ちていく。


「ちょ、待っ……ゲホッ! シズク、換気扇を……!」


「わ、分かったわ! でも私、コードに足が……きゃああっ!」


 シズクがマイクのコードに引っかかって転倒。カラオケの採点マシーンに頭をぶつけ、『0点』のファンファーレが虚しく鳴り響いた。


 ◇


「ハルくんの番ですよ! ほら、歌って!」


 水と炎と毒ガスと重力が入り混じるカオスなVIPルーム。

 母さんが、俺の手に無理やりマイクを握らせた。

 ヒロインたちは睡眠ガスや疲労で、床やソファーで倒れている。


「……はぁ」


 俺はため息をつき、適当な、誰もが知っている穏やかな童謡を入れた。


『♪春の小川は、さらさら行くよ〜』


 俺の『春属性』の魔力と、魔導カラオケのシステムが共鳴する。

 部屋の中の暴走した炎や水、毒ガスが、ふわりと温かい春風に包まれて浄化されていく。

 ホログラムが、一面の菜の花畑と、穏やかな日差しを具現化した。


「……ん……あったかい……」


 床で倒れていた厄災たちが、春の陽気の中で寝返りを打ち、安らかな寝息を立て始める。

 俺は歌いながら、静かに微笑んだ。

 カオスな日常の果てにある、こういう静かな時間が、俺は嫌いじゃなかった。


『ううっ……ハルくんの歌声、最高ですぅ! ママ感動して泣いちゃいました!』


 母さんがハンカチで鼻をかむ。


『さあ、最後はママの十八番! ド演歌『未練海峡・親離れ』を歌いますよ!』


「やめろ、ホログラムで日本海の大嵐が来るぞ!!」


 俺のツッコミ虚しく、ドゴォォォォ!と部屋に猛吹雪と荒波の映像が展開された。


 これが、女神のやることか。

 俺たちの2学期は、最後まで波乱万丈(物理)のまま幕を閉じるのだった。

お読みいただきありがとうございます!

「スパルタ教育のハル先生お疲れ様」「ミサキの趣味バラされてて草」と思っていただけたら、

ブックマークや評価(★)をマイクに吹き込んでいただけると、カラオケの採点が上がり、女神(作者)がアンコールを歌います!

さて、怒涛の2学期もこれにて終了!

季節は巡り、学生たちが最も浮かれるイベント……**「冬休み(クリスマス)」がやってきます!

しかし、このメンバーで過ごす聖夜が、ロマンチックな夜景で終わるはずがありません。

次回、「サンタクロース迎撃作戦」です!


【次回予告】

『あらあら、ハルくん。ママの演歌、心に染みましたか?

 さあ、いよいよ冬休み! 街はイルミネーションと恋人たちの熱気で溢れています!

 

 「クリスマス……それはハルお兄ちゃんと愛を誓う日!」

 「いや、チキン(丸焼き)を食う日だ!」

 

 聖夜の夜、ハルの部屋に集結するヒロインたち!

 しかし、煙突からやってきたのはプレゼントを持ったサンタではなく……

 

 「侵入者ね! 迎撃開始!」

 「待て! そいつは本物の……いや、怪しすぎるだろそのサンタ!」

 

 次回、これが女神のやることか。

 『第二部第九章 聖夜の攻防戦と、撃墜されたサンタクロース(被害者)』

 

 さあハルくん。靴下は大きめのものを用意しなさい! 防弾チョッキも忘れずにね!(サンタの正体は……ヒミツです☆)』

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