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第二部 第七章 (文化祭編・2日目) 『一般公開迷宮(オカン最強)と、血塗られたロミオ』

 文化祭二日目。

 それは一般公開日であり、学園が最も華やぐ日。


 王立高等魔法学園の校門が開かれると同時に、近隣住民、保護者(PTA)、他校の生徒たちが雪崩れ込んできた。


「おい、大丈夫なのか……?」


 玉座(魔王の間)でモニターを見ながら、俺は震えていた。

 昨日、屈強な上級生や冒険者たちを無慈悲に粉砕した1年Sクラスの『深淵の迷宮カオス・ダンジョン』。そこに、何の耐性もない一般客が突入しようとしているのだ。大惨事ニュースになる。


「さあ、第一陣(近隣の主婦層)が突入しました!」


 母さんがポップコーンを片手に実況を始める。


 ◇


 第1エリア:絶対零度の迷霧


「あらやだ、このミスト凄いわね! お肌の毛穴が引き締まるわ!」


「……え?」


 シズクが放つマイナス20度の濃霧とドライアイス。それは、近隣の主婦おばちゃんたちにとって「極上のナノミスト美容」として消費されていた。


「お嬢ちゃん、この霧発生機、どこの通販? ……え、方程式? ごめんね老眼で見えないわ。アメちゃんあげるから通してね」


「あ、はい……」


 シズク(探偵)、関西のおばちゃんの飴玉コミュニケーションにあっさり買収される。


 第2エリア:灼熱と激流のキッチン


「「いらっしゃいませ! バーベキュー(消毒)よ!」」


 ヒマワリとヒヅキの極大火力が火を噴く! ……が。


「あー、肩こりに効くわぁ」


「この交互浴サウナ、最近のスーパー銭湯より刺激があって良いわね!」


 昨日、戦士たちの鎧を紙切れのように溶かした地獄の釜茹でが、完全に「健康ランドの岩盤浴」扱いされていた。おばちゃんたちの皮膚はミスリルより硬いのか。


 第3&4エリア:精神汚染とブラック企業


「漆黒の翼? うちの息子も昔そんなこと言ってたわよ! 黒歴史ノート、勝手に捨てたら泣かれたわー」


「わかるー! あと、そこの悪魔さん! 時給800円で文句言ってんじゃないわよ! うちの旦那の小遣いなんか月3万よ!?」


「ヒィィ……! 奥様たちの業(闇)が深すぎるッス……!」


 ミサキのトラウマガスは「主婦の井戸端会議のネタ」に変換され、サヤカが召喚した悪魔たちは、おばちゃんたちのお説教(人生相談)に圧倒され、次々と浄化(退勤)していった。


 最終エリア:魔王の間


 ガチャリ。


 玉座の扉が開き、笑顔のおばちゃん軍団が押し寄せてきた。


「あらー、あんたが魔王役? 男前ねえ!」


「これ、差し入れのタッパー(煮物)。ちゃんと野菜も食べなさいよ!」


「あ、ありがとうございます……」


 結果。ダンジョン2日目(一般公開)のクリア者、150名(全員主婦)。


 俺は痛感した。この世で最も恐ろしい『厄災』は、オカンであると。


 ◇

 午後。

 ダンジョンの熱気もそのままに、特設ステージ(元校庭)にて、いよいよ本命のイベントが幕を開けた。


「これより、1年Sクラスによる演劇、『ロミオとジュリエット』を上演します!」


 場内アナウンス(母さん)が響く。観客席は満員だ。

 俺、桜川ハル(ロミオ役)は、舞台袖で震えていた。

 衣装は中世貴族風の白タイツ。恥ずかしい。だが、それ以上に怖いのは台本だ。


『第一幕:ロミオ、運命の出会い。ただしジュリエット役は「乱入自由」。舞台上でロミオの唇を奪った者が正ヒロインとなる』


(……公開処刑じゃねーか!)


 幕が上がる。

 舞台中央には、鉄骨とコンクリートで組まれた巨大なバルコニー。俺はスポットライトの下へ歩み出る。


「おお、ロミオ! あなたはどうしてロミオなの?」


 バルコニーの上から声がした。見上げると――


「……全員かよ」


 ヒヅキ(ドレス)、ヒマワリ(鎧)、アオイ(パジャマ)、ミサキ(黒喪服)、サヤカ(魔女)、シズク(探偵)。


 6人のジュリエットが、狭いバルコニーで押し合いへし合いしていた。


「どきなさいよ! 私が最初のジュリエットよ!」


「ぬるい! 太陽こそがヒロインだ!」


「……眠い。場所とって」


 ミシミシッ……!


 アオイが重力魔法を使ったせいで、コンクリートのバルコニーが物理的に崩壊寸前だ。


「おお、ジュリエットたちよ!」


 俺は台本を無視して叫んだ。「頼むから降りてこないでくれ! そこで静かにしていてくれ!」


「行くわよロミオ! 愛のダイブ!」


 ヒヅキが飛び降りた。高さ10メートル。着地と同時に高圧の衝撃波が発生し、最前列の観客のウィッグが吹き飛ぶ。


「問答無用! 接吻キッスだ!」


 ヒマワリが炎のジェット噴射で飛んでくる。俺が全力で回避すると、彼女はそのまま舞台袖のセット(書き割りの森)に突っ込み、森が全焼した。


「……逃がさない。重力・引き寄せ」


 アオイが指を振り、俺の体が掃除機に吸われるゴミのように宙を舞う。


「待った!」


 紫色の煙幕が炸裂した。ミサキだ。


「毒霧・幻惑ラブ・ポーション。……私以外、全員カボチャに見えればいい」


 視界が歪む。アオイが巨大なカボチャに見える。


「フフフ……物語を書き換えるのは我だ!」


 サヤカが台本(呪いの書)を開く。「ロミオは死に、ジュリエット(我)と共に冥府の王となるのだ! バッドエンド最高!」


「……謎は解けた!」


 シズクがドライアイスを撒き散らす。「犯人は……ロミオ、貴方ね! 私の心を盗んだ罪で逮捕する!」


 手錠を取り出すな。

 舞台上では、魔法と物理攻撃が飛び交う『大乱闘スマッシュ・ロミオ』が展開されていた。

 観客たちは「これが最新のアバンギャルド演劇か……」「前衛的すぎる」と勘違いして拍手喝采している。

 観客席の先生だけが青ざめていた。PTAは拍手していた。


 物語はクライマックスへ(強制スキップ)。

 仮死状態になる薬を飲んで、ロミオが倒れるシーンだ。


「さあロミオ、これを飲んで……」


 ミサキが差し出したのは、ドクロマークの小瓶。


「……これ、本物じゃないよな?」


「大丈夫。ただの『仮死・即死・蘇生』を繰り返す薬よ。スリル満点」


「飲めるか!」


「なら、私の剣で心臓を貫いて、私と一つになろう!」


「物理的に一つになるな!」


「心中しましょう、ハルお兄ちゃん! この『愛の鎖(絶対切れない)』で!」


 絶体絶命。6人のジュリエットに包囲され、逃げ場はない。


『さあ、ロミオの運命やいかに! 彼は誰を選び、誰と死ぬのか!?』


 母さんのナレーションが響く。


(……ふざけんな。俺は生きる!)


 俺は叫んだ。


「俺は……誰も選ばない! 俺が愛しているのは……この『平穏な日常』だあぁぁぁ!!」


 俺は全魔力を解放する。属性は『春』。

 舞台上の殺伐とした空気を、強制的に『大団円カーテンコール』へと書き換える!


「魔法・『春のグランド・フィナーレ』!!」


 ドォォォォン!!


 桜色の暴風が巻き起こる。セットが吹き飛び、バルコニーが崩壊し、ジュリエットたちが空へ舞い上がる。俺も飛んだ。


 物理的に、舞台から退場エスケープした。

 俺の白タイツだけが、最後まで舞台に残った。


 ◇


 夜。

 崩壊したステージの残骸が、校庭の中央に積み上げられていた。高さ20メートル。もはや塔だ。


「ハルくん! 文化祭の最後はキャンプファイヤーですよ!」


 母さんが松明を持って走ってくる。


「伝説では、炎を囲んでフォークダンスを踊った男女は、永遠に結ばれるそうです☆」


 その言葉に、ボロボロになったジュリエットたちが反応した。


「ハルお兄ちゃんの手は渡さない!」


「私のダンスは情熱のタンゴだ!」


「……おんぶして。踊る」


 彼女たちが俺に向かって突進してくる。

 俺は残骸の塔の周りを走って逃げる。それを6人が追う。結果的に、俺を中心とした高速回転の『フォークダンス』が形成された。


「点火ァァァ!」


 ヒマワリが塔に火を放つ。


 ドッゴォォォォォン!!


 キャンプファイヤーではない。爆発だ。

 巨大な火柱が夜空を焦がし、その周囲を俺たちが高速で回転する。遠くから見れば、それは美しくも狂気的な『死の舞踏』に見えただろう。


 爆発の炎が落ち着いた頃。

 俺たちは煤だらけになって、芝生に倒れ込んでいた。


「……ハァ、ハァ……死ぬかと思った」


「……楽しかったわね、ハルお兄ちゃん」


 ヒヅキが俺の隣で笑う。他のメンバーも、満身創痍だが、どこか満足げな顔をしている。

 校舎はまた半壊し、俺の社会的尊厳(白タイツ)は失われたが、不思議と後悔はなかった。こんな騒がしい青春も、悪くはない……かもしれない。


 俺の視線の先で、母さんが崩れたセットの破片を拾いながら、どこか遠くを見るような、静かな瞳をしていた気がしたが――


「はい、お疲れ様でしたー!」


 母さんがいつもの調子でメガホンを取る。


「大成功の文化祭でしたね! ……さてハルくん。浮かれるのはここまでですよ?」


「えっ?」


「来週は『期末テスト』です! 赤点を取ったら、即・留年(サバイバル補習)ですからね☆」


「……はあああああああ!?」


 夜空に、俺の絶望の叫びが木霊した。

 これが、女神のやることか。

 平和なイベントなど、この学園には一つも存在しないのだ。

お読みいただきありがとうございます!

「ダンジョンを健康ランド扱いする主婦つよい」「白タイツで逃げ回るハルお疲れ!」と思っていただけたら、

ブックマークや評価(★)をキャンプファイヤーに投げ込んでいただけると、炎が燃え上がり、女神(作者)のテストの点数が上がります!

さて、怒涛の文化祭を生き延びたチーム・カオス。

しかし、学生の本文は勉学! 息つく間もなく「期末テスト」が襲いかかります!

次回、「赤点回避の勉強会&打ち上げカラオケ編」です!


【次回予告】

『あらあら、ハルくん。ロミオ役、とっても似合ってましたよ?(白タイツの写真、高く売れました☆)

 さあ、祭りの後は現実テストの時間です!

 

 「赤点は嫌だ! 私の脳みそ(筋肉)が爆発する!」

 「……睡眠学習。限界」

 

 ポンコツヒロインたちを救うため、ハルによる地獄のスパルタ勉強会が開幕!

 そして無事にテストを乗り切った後の打ち上げは……異世界の最新魔法技術で作られた「魔導カラオケ」!?

 

 「歌った歌詞が……全部『現実ホログラム』になるだと!?」

 

 ヒマワリが炎の歌を歌えば部屋が燃え! ヒヅキが愛の歌を歌えば部屋が水没する!

 

 次回、これが女神のやることか。

 『第二部第八章 期末テストの攻防と、歌詞が具現化する絶唱カラオケ』

 

 さあハルくん。マイクを握りなさい! ただし、失恋ソングを歌うと部屋が物理的に崩壊しますよ!(十八番は演歌です☆)』


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