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第二部 第六章(文化祭編・1日目) 『ようこそ、殺戮のテーマパーク(1-S)へ』

 文化祭初日。

 天候、快晴。絶好の「ダンジョン攻略日和」。


 今日は『校内公開日』。つまり、身内(全校生徒と教職員)のみで殺し合うウォームアップの日だ。


 開始のチャイムが鳴ると同時に、他クラスの生徒たち、屈強な上級生、そして学園お抱えの戦闘教官たちが雪崩れ込んできた。

 彼らは知っていた。

 この学園の文化祭が、単なる「お祭り」ではなく、生存本能を賭けた「フェスティバル(戦場)」であることを。


「狙うは1-Sの出し物、『深淵の迷宮カオス・ダンジョン』だ!」


「クリア報酬は『桜川ハルとの握手券(または婚姻届)』らしいぞ!」


「いらねえよ! でも上級生のプライドが許さねえ!」


 屈強な戦士科の生徒たちが、フルプレートアーマーを着込んで列をなす。

 魔法科の生徒たちが、防御障壁バリアを三重に展開して突入準備をする。

 購買部のおばちゃん(元傭兵)が、「バーゲンセールの要領ね」と殺気を放つ。

 俺、桜川ハルは、教室の最奥にある『玉座(魔王の間)』でモニターを見ていた。


「……これ、死人出ないか?」


「大丈夫ですよハルくん! 致命傷だけは学園の防御結界が自動で弾きます! まあ、心のトラウマは弾けませんが、入り口で『免責同意書(遺書)』を書いてもらってますから☆」


 隣で、魔王風のコスプレをした母さん(女神・モモネ)がポップコーンを食べている。

 俺の役目は「ラスボス(人質)」。

 つまり、挑戦者が来るまでこの椅子から動けない。


「さあ、第一陣が突入しました! モニターにご注目!」


 ◇


【第1エリア:絶対零度の迷霧ホワイトアウト


・担当:雪音シズク(謎・氷属性)

・ギミック:視界ゼロ+連立方程式ロック


 入り口をくぐった挑戦者たちを待っていたのは、視界ゼロの濃霧だった。

 ドライアイスと冷却魔法の合わせ技。気温はマイナス20度。


「うおっ、寒い! 何も見えねえ!」


「落ち着け! 『探知魔法ソナー』を使え!」


「……無駄よ」


 霧の中から、シズクの声が響く。彼女は白衣にガスマスクという怪しい出で立ちで、霧発生装置のバルブを全開にしていた。


「この霧は、貴様らの方向感覚(三半規管)を狂わせる……。謎を解け。出口への鍵は、壁に書かれたこの『連立方程式』にある……!」


 ゴッ! ガンッ!


 挑戦者たちが壁に激突する音が響く。さらに床が凍結しているため、全員が生まれたての小鹿のように足を震わせ、次々と転倒していく。


「見えねえよ!」


「寒い! 計算する前に脳が凍る!」


「……あれ? 私、出口どこだっけ?」


 シズク本人も迷子になった。


(……だが、モニターに映る彼女の書いた方程式の答えだけは、完璧に合っていた。ポンコツだが頭脳は本物だ)


【第2エリア:灼熱と激流のキッチン(サウナ地獄)】


・担当:夏目ヒマワリ(炎)&皇ヒヅキ(水)

・ギミック:極大火力による強制交互浴


 霧を抜けた先は、地獄の釜茹でだった。

 右からはヒマワリの火炎放射。左からはヒヅキの高圧放水。


「ようこそ! バーベキューの時間だ!」


「いらっしゃいませ! 消毒よ!」


「ぎゃああああ! 熱い! 冷たい! 痛い!」


「鎧が! 俺のミスリルプレートが紙切れみたいに!」


「これが交互浴ととのうってレベルじゃねえぞ!」


 挑戦者たちは、強制的に「焼き入れ」と「急冷」を繰り返され、鋼のように鍛え上げられていく。物理的なダメージもさることながら、疲労で精神が摩耗していく。


【第3エリア:精神汚染病棟メンタル・クリニック


・担当:月乃下ミサキ(毒)

・ギミック:幻覚ガスによるトラウマの掘り起こし


 ボロボロになった挑戦者たちが辿り着いたのは、薄暗い病室のようなエリア。紫色の煙(幻覚ガス)が充満している。


「……診察の時間。痛み止め(神経毒)、打っておく?」


 ナース服を着たミサキが、巨大な注射器を持って現れる。

 ガスを吸った挑戦者たちが、次々と膝をつく。


「うっ……やめろ! 俺は中学生の時、『漆黒の翼』と名乗っていた黒歴史を思い出したくない!」


「母ちゃんの『部屋片付けなさい』という声が聞こえる……!」


「初恋の子にフラれた記憶がリフレインするぅぅぅ!」


 純粋な精神攻撃。肉体の痛みには耐えられても、心の古傷を的確に抉られるのは致命傷だ。屈強な戦士たちが、体育座りで泣き崩れていく。


【第4エリア:深淵の契約所(ブラック企業)】


・担当:彼岸サヤカ(中二病・呪い)

・ギミック:時給制の低級悪魔たちによる波状攻撃(主に愚痴)


 トラウマを乗り越えた少数の猛者たちを待っていたのは、無数の魔法陣が描かれた禍々しい儀式の間だった。


「フハハ! よくぞ辿り着いたな愚民ども! 出でよ我が眷属アルバイトたち! 彼らに絶望を刻み込め!」


 サヤカがマントを翻して叫ぶ。

 魔法陣から這い出してきたのは、本物の低級悪魔の群れだった。しかし、その手には武器ではなく『タイムカード』が握られている。


「……サヤカ様ぁ、今日シフト入ってないんスけど」

「お前ら! 来場者の魂を刈り取れと言っているだろう!」


「いや、時給800円(現物支給)で魂の刈り取りは割に合わないッス。せめて深夜手当つけてくださいよ。教会(労基)に駆け込みますよ?」


「ええい黙れ! 契約シフトは絶対だ!」


 襲いかかってくる悪魔たち。だが、彼らは挑戦者たちを殴りながら、延々と「労働環境への不満」をこぼし始めた。


「俺、魔界に妻子がいるんスよ……」「店長サヤカ、設定の要求が高すぎてパワハラ気味ッス……」「客のあんたからも言ってやってくださいよ……」


 挑戦者たちは、悪魔たちの生々しい人生相談(愚痴)を延々と聞かされ、同情と現代社会の闇に当てら

れて完全に戦意を喪失した。


「……もういい、俺が奢ってやるから飲みに行こうぜ……」


 猛者たちは悪魔と肩を組み、自主的にリタイアしていった。


【第5エリア:堕落の王宮コタツ・トラップ


・担当:江戸川アオイ(重力・睡眠)

・ギミック:超重力・絶対安眠結界


 社会の闇に敗れず残った数名が、這うようにして最後のエリアへ。そこは、フカフカの絨毯が敷き詰められた、天国のような場所だった。中央には、巨大な『魔導コタツ』が置かれている。


「……よく来た」


 パジャマ姿のアオイが、コタツの中から手招きする。


「……疲れたでしょ。ここに入って、休みなよ」


 甘美な誘惑。そして、発動する魔法『重力・絶対安眠グラビティ・スリープ』。


「うおおお……布団が……俺を呼んでいる……」


「もう戦いたくない……俺はここで一生暮らすんだ……」


「ママ……」


 残った挑戦者たちは、抗うどころか自ら重い鎧や武器を投げ捨て、赤子のような安らかな寝顔を浮かべながら、底なし沼のようなコタツの深淵へとズブズブと吸い込まれていく。

 一度入ったら最後。そこは重力10倍の空間。二度と出られない『人をダメにする結界』だ。

 アオイは満足そうに頷き、折り重なった屈強な戦士たちを巨大なクッション代わりにして二度寝を始めた。


「……全滅」


 ◇


【最終エリア:魔王の間(ハルの部屋)】


 俺はモニターを見ながら、冷や汗を拭った。


「……誰も来ないじゃないか」


「おかしいですねー。生存率0.1%に設定したはずなんですが」


「設定がスパルタすぎるんだよ!」


 その時。

 玉座の間の扉が、ギギギ……と音を立てて開いた。


「……ハァ……ハァ……」


 現れたのは、一人の男子生徒。

 鎧は溶け、服はボロボロ、顔は凍りつき、目には涙の跡。それでも彼は、這うようにして俺の前に辿り着いた。


「お、俺は……生き残ったぞ……! 1-Sの試練を……!」


 感動的な光景だ。

 俺は玉座から立ち上がり、彼に手を差し伸べた。


「よくやった。お前がナンバーワンだ」


 俺が彼と握手しようとした、その瞬間。


 ドガァァァン!!


 壁を突き破って、5人の厄災たち(※シズクはまだ霧の中で迷子)が雪崩れ込んできた。


「ちょっと! 私のハルお兄ちゃんに触る気!?」


「不潔よ! 消毒してから出直しなさい!」


「……私のハルを奪う気?」


「燃やす!」


「呪う!」


 生徒は悲鳴を上げる間もなく、5人の合体魔法で空の彼方へ吹き飛ばされた。


 キラリーン☆


「……あ」


 俺の手は空を掴んだ。

 そして、俺を取り囲む少女たちの、爛々とした瞳。


「ハルお兄ちゃん! 私たち、侵入者を全員撃退したわ!」


「褒美をよこせ! 頭を撫でろ!」


「……一緒に寝て」


 ふと視線をやると、少し離れた場所から、母さんが俺たちの騒ぎを眺めていた。

 いつものふざけたハイテンションな笑顔とは違う、どこか静かで、慈しむような微笑み。それは昨日の放課後、彼女が一瞬だけ見せたあの横顔と重なる気がした。


(……気のせい、か)


 俺は胸の奥を掠めた小さな違和感を、目の前の厄災たちの喧騒に紛れさせて、深く考えるのをやめた。


 こうして、文化祭1日目は終了した。


 結果:クリア者0名。


 被害者数:多数(致命傷ゼロ、精神的ダメージ甚大)。


 校舎の損壊率:30%(想定内)。


「……明日もあるんだよな、これ」


 俺は遠い目をした。

 明日は文化祭2日目。一般公開日だ。


 そして、何より恐ろしいのは――


「フフフ……。明日は『演劇』ですよ、ハルくん!」


 母さんが台本をヒラヒラさせる。

 そこには『ロミオとジュリエット(デスマッチ編)』と書かれていた。


「主役は貴方。そしてヒロインは……『乱入自由』です!」


(……ダンジョンより怖いものがあるとしたら、“配役が決まってない演劇”だ)


 俺の文化祭は、まだ始まったばかりだ。

お読みいただきありがとうございます!

「悪魔の時給交渉で腹筋崩壊した」「唯一のクリア者が不憫で草」と思っていただけたら、

ブックマークや評価(★)を攻略本代わりにしていただけると、ハルの胃痛が和らぎ、女神(作者)の脚本が進みます!

さて、身内を蹂躙したダンジョン(1日目)を終え、いよいよ文化祭は「2日目(一般公開日)」へ!

しかし、このクラスが平和な演劇を上演できるはずがありません。

次回、「血で血を洗う舞台・ロミジュリ編」です!


【次回予告】

『あらあら、ハルくん。魔王の玉座の座り心地はいかがでしたか?

 さあ、休む暇はありません! 文化祭2日目の目玉は、1年Sクラスによる演劇!

 

 演目は「ロミオとジュリエット」。

 しかし、配役は当日発表のサプライズ(無茶振り)!

 

 「ロミオ役はハルお兄ちゃん! ジュリエット役は……全員参加のバトルロイヤルで決めるわ!」

 

 舞台上で繰り広げられる、ヒロインたちによる「正妻戦争キャットファイト」!

 高圧水流で吹き飛ぶバルコニー! 火炎放射で全焼する書き割り!

 そして、毒薬の代わりに用意されたのは――「本物の即死ポーション」!?

 

 次回、これが女神のやることか。

 『第二部第七章 ロミオ(ハル)の受難と、ジュリエット(多すぎ)の乱戦』

 

 さあハルくん。舞台の中央で愛を叫びなさい! ただし、スポットライトの代わりに「魔法の集中砲火」が待っていますよ!(衣装は白タイツね☆)』

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