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第二部 第五章(文化祭編・準備) 『文化祭前夜、教室はダンジョンになる』

 秋。

 修学旅行での国際問題(城壁破壊、カジノ荒らし、温泉地買収)のほとぼりも冷めやらぬ中、王立高等魔法学園は次なる狂乱の季節を迎えていた。


 『建国記念・大星霊祭』。通称、文化祭。


 それは学生たちが青春を燃やし、模擬店や出し物で競い合う祭典であり、同時に「校舎が最も多く倒壊する日」としても知られている。


「よく聞け、破壊神ども!」


 ホームルーム。担任(筋肉)が教卓を拳で粉砕しながら吼えた。


「今年の1年Sクラスの出し物を決める! テーマは『来場者にトラウマ……いや、感動を刻み込むもの』だ! 予算は無限(女神のポケットマネー)! さあ案を出せ!」


 俺、桜川ハルは窓際で空を見上げた。

 平和なメイド喫茶や、たこ焼き屋。そんな普通の提案が出るはずがないことは、この半年で嫌というほど学んでいた。


 案の定、地獄の企画会議が幕を開けた。


 ◇


 提案1:『ハルお兄ちゃん観察カフェ』


「決まってるでしょ! ハルお兄ちゃんをガラスケースに入れて展示するの!」

 皇ヒヅキが鼻息荒く提案する。

「メニューは『ハルくんの飲みかけの水』や『ハルくんが深呼吸した空気(瓶詰め)』よ! 完売間違いなしだわ!」

「却下だ。それはカフェじゃない、犯罪ストーカーだ」


 提案2:『直火焼き肉フェス(火力発電所付き)』


「文化祭と言えば炎だ! 校庭に巨大なキャンプファイヤーを作り、牛を一頭丸焼きにする!」

 夏目ヒマワリが松明を掲げる。

「ついでに余った熱エネルギーで街の電力を賄うぞ! エコだろ!」

「却下だ。それは文化祭じゃない、環境破壊だ」


 提案3:『王の寝室(有料休憩所)』


「……眠い。みんなで雑魚寝するスペースを」

 江戸川アオイが枕を抱えて手を挙げる。

「……入場料は高い。私の寝顔を見るなら、追加料金」

「却下だ。それは出し物じゃない、ただの怠慢だ」


 提案4:『リアル・バイオハザード(解毒剤別売り)』


「……スリルが足りないわ」

 月乃下ミサキが紫色の液体をビーカーで混ぜる。

「校舎全体に微量の毒ガスを散布して、制限時間内にゴールできたら血清をあげるゲーム。どう?」

「却下だ。それはゲームじゃない、バイオテロだ」


 提案5:『呪いの館(本物)』


「フフフ……我が眷属(悪霊)たちを召喚し、来場者の魂を抜き取る館……」

 彼岸サヤカが祭壇を組み始める。

「恐怖こそが最高のスパイス! 失神者続出の伝説を作ろう!」

「却下だ。それはお化け屋敷じゃない、ガチの降霊術だ」


 提案6:『霧の迷宮(遭難)』


「……ミステリーよ」

 雪音シズクがドライアイスの山を積み上げる。

「視界ゼロの濃霧の中で、犯人(私)を探すゲーム。ちなみに、本当に迷うと異次元に繋がるわ」

「却下だ。それはミステリーじゃない、ただの遭難だ」


 カオスだ。

 全員の方向性が「客を楽しませる」ではなく「客を試す」に向いている。


「あー、もう! まとまらないなら、全部混ぜればいいじゃないですか!」


 教室の後ろから、ピンク色のJK(母・モモネ)が声を上げた。


「ハルくん、このクラス『スペシャル』ですよね? なら、出し物も『S級ダンジョン』にするしかないでしょう! 題して、『勇者ハルと7人の魔王ラスボスが待ち受ける、死のテーマパーク』です!」


 全員の目が輝いた。

 俺だけが頭を抱えた。


 ◇


 準備期間:建築という名の破壊

 こうして、1年Sクラスは『ダンジョン運営』に決定した。


 教室だけでなく、廊下、階段、そして中庭までを占拠した、大規模な魔改造が始まった。

 ルートは初心者向けの「一本道」――になるはずもなく、各ヒロインの欲望ギミックのせいで無限に分岐する迷宮メイズへと姿を変えていく。誰の仕業かは言うまでもない。


「ハルお兄ちゃん! 水攻めのエリアを作るわ! 廊下を防水加工して!」


 ヒヅキが高圧水流で壁を削り、川を作る。もはやヴェネツィアだ。移動手段はゴンドラか?


「鉄骨が足りん! 溶接だ!」


 ヒマワリが指先からレーザーを出し、廃材を組み上げていく。教室の中に、謎の巨大タワーが建ち始めた。建築基準法は息をしていない。


「……重い資材は、任せて」


 アオイが指を振る。数トンある岩石がふわふわと浮き上がり、天井に設置される。


「……トラップ。通ると落ちる」


 殺す気か。


「……雰囲気作り」


 ミサキとサヤカが、壁にドス黒いペンキ(血糊?)を塗りたくり、不気味な魔法陣を描いていく。そこから本当に低級悪魔が這い出してきて、「時給いくらッスか?」と交渉を始めている。


「……演出は私に任せて」


 シズクがドライアイス製造機を暴走させる。廊下がホワイトアウトした。


「……あ、足元が凍ってる! 滑る!」


 本人が転んで氷漬けになった。

 俺は、現場監督として走り回っていた。


「おいヒマワリ! そこで火を使うな、スプリンクラーが作動する!」


「アオイ! 入り口に岩を置くな、客が入れない!」


「サヤカ! 悪魔に労働基準法を適用するな!」


 まさに戦場。

 魔法と技術と狂気が入り混じる、祭りの準備。

 ふと、教室の隅で、母さんがその光景を眺めているのに気づいた。

 彼女は笑っていた。

 いつものハイテンションな笑顔。だが、その瞳の奥が、一瞬だけ酷く寂しそうに見えた。


「……母さん?」


 俺が声をかけると、彼女はハッとして、満面の笑みで振り返った。


「あらハルくん! どうしました? ママの美貌に見惚れちゃいました?」


「いや……なんか、疲れてるのかなって」


「失礼な! 女神は不老不死、永久機関ですよ!」


 母さんは俺の背中をバシッと叩く。


「さあ、急いで! 祭りは一瞬、思い出は永遠! ……そう、永遠なんてないからこそ、今を楽しまないとね」


 最後の言葉は、喧騒にかき消されてよく聞こえなかった。

 ただ、その横顔が妙に印象に残った。


(……ああいう顔、初めて見た気がする。気のせいにしておこう)


 俺は胸の奥に一瞬だけ生じたざわめきを、響き渡る爆発音(ヒマワリの溶接ミス)にかき消させた。


 ――そして、文化祭前日。


「……できた」


 俺たちは、完成した『それ』を見上げた。

 もはや教室ではない。校舎の一部が異界化し、禍々しいオーラを放つ、正真正銘の『魔王城』がそこにあった。


「素晴らしいわ! ハルお兄ちゃんを守る要塞ね!」


「熱い! 最高にロックだ!」


「……これなら、熟睡できる」


「……最高の処刑場ね」


 クラスメイトたちは満足げだ。

 俺は、完成した『入り口(ドラゴンの口を模したゲート)』の前で、深くため息をついた。


「……これ、本当にお客さん来るのか?」


「来ますよ! というか、来させます!」


 母さんがチケットの束(呪いのアイテム)を掲げる。


「入ったら最後、クリアするまで出られない『強制参加型アトラクション』ですから☆」


「監禁じゃねーか!」


 こうして、準備は整った。

 明日、この魔窟が開門する。一般生徒たちの運命やいかに。


 これが、女神のやることか。

 祭りの前の静けさはなく、あるのは嵐の予感だけだった。


 第二部・文化祭編、開幕。

お読みいただきありがとうございます!

「教室にヴェネツィアは湿気がやばい」「建築基準法? 魔法で解決です!」と思っていただけたら、

ブックマークや評価(★)をセメントで固めていただけると、魔王城の守備力が上がり、女神(作者)の設計図が完成します!

さて、準備は整いました。いよいよ「文化祭当日(1日目)」です!

しかし、このクラスの出し物が、楽しいアトラクションで終わるはずがありません。

次回、「S級ダンジョン・公開処刑編」です!


【次回予告】

『あらあら、ハルくん。魔王城のマスターとしての覚悟はできましたか?

 文化祭初日! その実態は、全校生徒を巻き込んだ「大規模レイドバトル」!

 

 「ようこそ、死のテーマパークへ……」

 

 廊下を埋め尽くすマグマ(ヒマワリ)!

 天井から降ってくる重力プレス(アオイ)!

 そして、毒と呪いの迷宮で、勇者(客)たちの心が折れる音!

 

 「リタイア続出! 保健室が野戦病院に!」

 

 最奥で待つラスボス(ハル)に辿り着ける者は現れるのか!?

 

 次回、これが女神のやることか。

 『第二部第六章 開園! 殺戮のテーマパーク(文化祭)と、魔王ハルの憂鬱』

 

 さあハルくん。玉座に座りなさい! クリア報酬は「貴方との握手券」……いいえ、「婚姻届」ですよ!(免責同意書にサインしてね☆)』

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