第二部 第四章 『安眠植物園(ジュラシック・パーク)と、ゲーミングふとんの誘惑』
日常。
それは、戦いと破壊の合間に訪れる、奇跡のような平穏のひととき。
世界一周の修学旅行から帰還した俺たち『チーム・カオス』は、週末の振替休日を利用して、とあるレジャー施設へと足を運んでいた。
「よく来たなハル! 我が夏目グループと、江戸川の家が共同開発した究極の癒やし空間! 夏目と江戸川で、その名も『夏江・次世代バイオ植物園』だ!」
夏目ヒマワリが、巨大なガラスドームの前で胸を張る。
「……ハル。今日は、思う存分寝ていい日。……これに乗って」
江戸川アオイが指差したのは、入り口に並べられた謎の乗り物だった。
流線型のカプセルの中に、最高級の羽毛布団が敷き詰められている。しかも、なぜか七色に発光していた。
「……なんだこれ」
「『移動式・ゲーミングふとんカプセル(最新人間工学搭載)』よ」
アオイがドヤ顔(無表情)で言う。
「……ルーンガルドの浮遊魔法を応用して、地上5センチを滑るように移動する。さらに、ふとんの縁が1680万色に光る。……eスポーツ完全対応」
「植物園でeスポーツするな。なんでふとんを光らせた」
「ふはは! 細かいことはいい! この施設は、夏目エレクトロニクスのバイオテクノロジーと、魔法帝国の幻影魔法を融合させ、古今東西・四季折々の自然を完全再現しているのだ!」
ヒマワリが説明する。
どうやら今日は、本当に「ふとんに寝転がったまま、快適な温度で植物を鑑賞する」という、至れり尽くせりの日常回らしい。
「ハルお兄ちゃんと一緒のふとんに入るわ!」
「……1カプセル1名様まで。密着は許さない」
「ちっ」
ヒヅキの野望がアオイの職権濫用によって阻止され、俺たちはそれぞれ七色に光る『ゲーミングふとん』に乗り込んだ。
フカァ……。
(……なんだこれ、めちゃくちゃ寝心地いいぞ……)
江戸川ふとん店の最新技術は伊達ではない。体が吸い込まれるような反発力。俺のライフゲージがゴリゴリと回復していく。
◇
ウィーン、とカプセルが自動で進み出す。
ドームの中は、魔法と科学が融合した別世界だった。
「……すごい」
シズクがふとんの中から身を乗り出す。
春の桜並木、夏の向日葵畑、秋の紅葉、冬の雪景色。
それらが区画ごとに完璧な温度管理と共に再現されている。
「ククク……我が魔界の植物(食虫植物)も育てがいがありそうな環境だ……」
サヤカがメモを取っている。
「……毒草の栽培エリアはあるかしら」
ミサキが危ない視線を向けている。
お前ら、癒やされる気がないだろ。
俺のふとんカプセルは、『春の区画』をゆっくりと進んでいた。
満開のソメイヨシノが、幻影魔法の風に揺れて花びらを散らしている。
俺の属性は『春』。桜川という苗字もあってか、桜には親近感がある。
だが、俺の視線は桜ではなく、その少し奥に咲く、小ぶりで鮮やかなピンク色の花に引き寄せられていた。
「……おや。貴様、桜よりも『桃の花』の方を熱心に見ているのね」
隣を並走していたシズクが、虫眼鏡で俺の視線の先を追った。
「桜川ハル、春属性。てっきり桜が一番好きだと思っていたけれど……まさか、そこに何かの『謎』が……?」
「いや、ただの色合いの好みだ。なんか落ち着くんだよ、桃の花って」
俺が素直に答えた、その時だった。
「キャーーーーッ!!」
ドームのスピーカーから、鼓膜を破るような黄色い歓声が響き渡った。
『聞きましたか皆さん! ハルくんは「桃」が一番好き! つまり、ママ(モモネ)のことが一番だぁぁぁい好きでチュねええええ!!』
上空のホログラムモニターに、鼻血を出しながら号泣する母さん(制服姿)がデカデカと映し出された。
「ぶふっ!?」
「ハルお兄ちゃん!?」
「おいハル、マザコンだったのか!?」
全員の視線が一斉に俺に突き刺さる。
「違えよ! 果物の桃とか、花の色が好きなだけで、お前のことじゃねえ!!」
俺はふとんから身を乗り出してモニターに向かって叫んだが、完全に手遅れだった。
『ママもハルくんのことが宇宙で一番好きよー! チュッチュッ! あー、録音しとけばよかった! もう一回言って!』
「二度と言うか! 通信を切れ夏目エレクトロニクス!」
日常回にまで割り込んでくる創造神のウザ絡み。
だが、俺のツッコミで空気が乱れたのが原因だったのか、あるいはヒマワリ(極暑)とアオイ(重力)の魔力が、ふとんの快適さで無意識に漏れ出していたからなのか。
突如、植物園の『システム』が警告音を鳴らした。
『警告。バイオプラント第4区画にて、異常成長を確認。対象植物:ネオ・ラフレシア(睡眠特化型)』
「……え?」
ヒマワリが間抜けな声を上げた。
ドゴォォォォン!!
ガラスドームの一部が突き破られ、巨大な『意思を持ったツタ』が暴れ出した。
最新のバイオテクノロジーで作られた植物たちが、ルーンガルドの魔法エネルギーを過剰摂取し、自我に目覚めてしまったのだ。
「シャァァァァ……(寝ル……コノ光ルふとんデ……寝ルゥ……!)」
巨大な食虫花が、ゲーミングふとんを奪おうと襲いかかってくる。
(……結論が出た。犯人は『江戸川のふとんの快適さ』だ。まさか世界が寝心地の良さで滅びかけるとは)
俺はふとんカプセルの操縦桿を握り、全速力で逃げ出した。しかも、ターゲットはどういうわけか俺に集中している。
「なんで俺なんだよ!」
「……ハルの『春属性』が、植物にとって一番快適な温度だからよ」
ミサキが冷静に分析する。
「ハルお兄ちゃんを食べる気!? 許さない! 『ハイドロ・カノン』!」
「私のふとん(商品)に傷をつけるな! 『重力・圧壊』!」
ヒヅキの水と、アオイの重力が炸裂するが、巨大植物はふとんの反発力とホログラムの迷彩機能を使って攻撃をいなしてくる。夏目と江戸川の技術力が、完全に裏目に出ている。
「おい、自社製品だろ! なんとかしろ!」
「ははは! 不良品は燃やすに限るな! 『プロミネンス』!」
「植物園で火を使うなバカアアアア!」
全速力で逃げ回る俺たち。
その最中、並走していたシズクがふとんの中で虫眼鏡を構え、叫んだ。
「……分かったわ! 原因はふとんの発光よ!」
「発光!?」
「ええ! 強い光の点滅で、植物が『昼夜』を誤認して異常成長してるの! ……つまり、光るほど狙われる。ゲーミングは罪ね!」
「早く言え! そしてお前のふとんもピカピカ光ってるぞ!」
だが、シズクの推理で勝機が見えた。俺はカプセル越しに指示を飛ばす。
「ヒマワリ! お前のふとんの光量を『最大(太陽レベル)』にして、あいつらを一か所に集めろ!」
「任せろ! 輝け、我がふとん!」
ピカーーッ!!と、ヒマワリのふとんがドーム内で最も眩しく発光し、巨大植物たちが一斉にそちらへ群がった。
「アオイ! 今だ!」
「……了解。安眠妨害の罪、重い。……『重力・圧縮』」
ズンッ!と、群がった植物たちが、局地的な超重力によって地面に縫い留められる。動きが止まった。
「最後は俺だ! 属性・春! 魔法・『春の陽気』!!」
俺はふとんから身を乗り出し、最大出力の春の魔力を植物たちに叩き込んだ。
光で疲労させ、重力で押さえつけ、そこへ究極の『春の快適な温度』を流し込む。
暴走していた植物たちの動きが、ピタリと止まった。
「シャァ……(……スヤァ……)」
植物たちは巨大な葉っぱを毛布のように丸め、完全に「お昼寝モード」へと移行した。
完全鎮圧。チーム・カオスの勝利だ。
◇
夕方。
鎮圧された植物園の中心で、俺たちはボロボロになって倒れ込んでいた。
「……ふふ。植物園のミステリー、解決ね」
シズクが顔に泥をつけながら、ゲーミングの罪を暴いたというドヤ顔をしている。まあ、今回ばかりはお前の推理が役に立ったから許そう。
「……ハル。おやすみ」
アオイはちゃっかり無傷のゲーミングふとんを確保し、俺の隣で寝息を立てている。
ヒマワリは「光量調節に改良の余地があるな!」と笑い、ヒヅキは俺の服の乱れを直している。
日常回。
確かに、世界は滅びなかったし、誰も死んでいない。
だが、疲労度は修学旅行の時と何も変わっていなかった。
『ハルくーん! 桃の花のお土産、待ってますからねー!』
ドームのモニターで、母さんがまだ手を振っている。
(……うるさい。次会ったら、ドライフラワーにして口に突っ込んでやる)
俺はゲーミングふとんの理不尽な七色の光に包まれながら、静かに目を閉じた。
*
翌日。
登校した俺の机の上には、どこから仕入れたのか、高級な『桃』が山のように積まれていた。ヒヅキか、ヒマワリか、あるいは母さんの仕業か。
「……もう二度と、好きな花の話はしない」
俺は桃の甘い香りに包まれながら、一人静かに絶望した。
これが、女神のやることか。
俺の日常は、最新鋭の技術と過剰な愛によって、今日も騒がしく消費されていく。
お読みいただきありがとうございます!
「ゲーミングふとん、商品化希望」「ハル、まさかのマザコン疑惑(全力否定)」と思っていただけたら、
ブックマークや評価(★)を七色(1680万色)に光らせていただけると、植物園の修繕費に充てられ、女神(作者)が安心します!
さて、世界一周の疲れを癒やす(はずだった)日常回はこれにて終了!
いよいよ秋の学園最大イベント、「文化祭」の季節がやってきました!
しかし、この1年Sクラスの出し物が、平和なメイド喫茶や段ボール迷路で終わるはずがありません。
次回、「劇的ビフォーアフター・魔王城建設編」です!
【次回予告】
『あらあら、ハルくん。ゲーミングふとんでの寝心地はいかがでしたか?(桃の花、ママ嬉しかったわよハート)
さあ、癒やしの時間は終わり! 文化祭の準備期間が始まります!
クラスの出し物会議! 飛び交う物騒な提案!
そして決定したのは……来場者を絶望のどん底に叩き落とす「S級ダンジョン」!?
「予算は無限です! 学校を要塞にしなさい!」
廊下に開通するアマゾン川!
教室を貫くバベルの塔!
そして召喚される「本物の悪魔(時給制アルバイト)」たち!
「これは出し物じゃない……『違法建築』だ!」
現場監督の胃壁が削られる中、教室は禍々しき魔王城へと姿を変える!
次回、これが女神のやることか。
『第二部第五章 文化祭前夜、教室はダンジョン(違法建築)になる』
さあハルくん。まずはヘルメットを被りなさい! 客を呼ぶ前に、生きて土木工事を終わらせるのです!(労災は下りないわよ☆)』




