第二部 第三章(修学旅行編・後編) 『極寒のサウナ・ウォーズ(ととのう)』
魔法帝国ルーンガルドのカジノにて。
俺たちチーム・カオスは、資金難を脱するために『魔導ポーカー』に挑んだ。
相手はイカサマ上等の伝説のディーラー。だが、俺たちの解決策は「ポーカー」の枠を完全に超えていた。
「イカサマ? いいえ、これは『物理』です!」
・ヒヅキ:高圧水流でカードの絵柄を全て洗い流し『白紙』化。
・俺:「これは全部ロイヤルストレートフラッシュだ」と強弁。
・アオイ:重力魔法でディーラーを椅子ごと天井に張り付け。
・ヒマワリ:カジノの空調を熱暴走させ、物理的に「ホット」な勝負へ。
結果。ディーラーは天井で泣いて詫び、俺たちは賠償金と旅費をゲット(物理的勝利)した。
……もう二度と行かない。
「さあハルくん! 懐も温まったところで、次は身体を冷やしに行きましょう! 目指すは極寒の地、『永久凍土ヒエキッタ』です!」
母さん(女神・モモネ)が転移ゲートのスイッチに手をかける。
「ちなみに、なぜ修学旅行の班員が『8人』だったか分かりますか?」
「え? 末広がりで縁起が良いとかか?」
「ブッブー! 8を横にすると『∞(無限大)』! つまり、私たちの借金も、破壊規模も、カオスも無限に広がるという女神の粋な計らいです☆」
「ふざけんな! 無限に賠償させられる俺の身にもなれ!」
俺のツッコミを無視して、視界が白く染まる。次に俺たちが立ったのは――
◇
チェックポイント3:永久凍土ヒエキッタ
気温、マイナス50度。
吐く息はおろか、瞬きすら凍りつくブリザードの世界。
ここにあるのは、氷で作られた都市と、絶対零度の風だけ。
「……寒っ!!」
俺は即座に防寒具(魔法のローブ)の前を閉めた。
だが、俺の周りの『厄災』たちは、寒さよりも環境に適応しようと必死だった。
「……ふっ。ついに私の時代が来たようね」
雪音シズクがマフラーをなびかせる(強風で真横になっている)。
「こここそが私の領域。凍てつく波動よ、我が命に従い……へぶっ!」
言い終わる前に、屋根から落ちてきた氷塊が彼女を直撃した。
「……前が見えない。誰か、私のドライアイス止めて」
「寒い! 寒すぎる! 許さんぞ冬将軍!」
ヒマワリが全身を発火させる。人間暖房器具だ。
「ハル! 私のそばに来い! 離れると死ぬぞ!」
「お前が近づくと雪が溶けて洪水になるんだよ!」
「……カチコチ」
アオイはすでに氷像になっていた。だが、その姿勢は立ったまま寝ている。
「……冬眠。春になったら起こして」
「あらあら、ハルくん。暖を取るなら、ママの胸に飛び込んでいいんですよ?」
母さんはなぜかビキニ姿だった。
「なんで寒くないんだアンタは!」
「愛の熱量と、肌に塗った『唐辛子オイル(激辛)』のおかげです☆」
カオスだ。
だが、問題は寒さだけではなかった。
「……宿が、ない」
サヤカが絶望的な声を上げた。俺たちの目の前にあったのは、暴風雪で半壊した氷のホテル(かまくら)の残骸だった。
「どうやら、先日のモンスター襲撃で廃業したみたいですね」
母さんが他人事のように言う。
「野宿=死です。さあハルくん、どうします?」
この極寒で野宿。ヒマワリ以外は朝までに凍死確定だ。ヒマワリも燃料切れで消し炭になる。
「……あそこに、湯気が出ている場所がある」
俺が指差したのは、雪山の頂上。猛吹雪の向こうに、微かに立ち上る白い煙が見えた。
伝説の秘湯、『ドラゴンの隠し湯』だ。あそこなら暖が取れるかもしれない。
「温泉! 混浴ね!」
ヒヅキが復活した。
「行くわよハルお兄ちゃん! 雪中行軍デートよ!」
◇
最終試練:冬将軍の入浴
雪山を登ること一時間。
ヒマワリの熱で道を溶かし、アオイをソリにして(本人は寝ている)、俺たちは頂上に辿り着いた。そこには、巨大な露天風呂があった。
だが。
「グルルルル……」
湯船には、先客がいた。
体長10メートル。全身が氷の結晶でできた白銀の巨竜、『アイス・ドラゴン』だ。彼(彼女?)は気持ちよさそうに湯に浸かり、こちらを睨みつけている。
『人間ヨ。我ガ安息ヲ邪魔スルナ。凍リツケ』
ドラゴンのブレスが放たれる。それは炎ではなく、全てを停止させる絶対零度の吐息。
「きゃあああ! 温泉に入る前にお肌が凍っちゃう!」
ヒヅキが水の障壁を張るが、一瞬で氷の壁に変わる。
「させるか! ここをどけトカゲ! そこは私の風呂だ!」
ヒマワリが火球を投げる。
だが、ドラゴンの周囲の冷気が強すぎて、火球は湯気に変わって消滅した。
『無駄ダ。此処ハ極寒ノ地。熱ナド通用セヌ』
強い。環境適応能力が高すぎる。物理攻撃も魔法攻撃も、この寒さの前では無力化される。
「……詰んだか?」
俺が諦めかけた時、隣でガタガタ震えていたシズクが前に出た。
「……ふ、ふふふ。見くびらないで。ここは私の……領域だと言ったはずよ」
シズクが震える手で、懐から小瓶を取り出した。それは、彼女が愛用している演出用の『アロマオイル(ミントの香り)』だった。
「食らえ……! 『清涼感・増強』!」
彼女はオイルを温泉に投げ込んだ。
ボチャン。
瞬間、ただでさえ寒い空気が、ミントのスーッとする香りで満たされた。
それは「寒さ」ではない。「冷感」だ。風呂に入っているドラゴンの皮膚(鱗)に、メンソールの刺激が走る。
『グオオオッ!? ナ、ナンダ此ノ不快ナ冷タサハ!? スースースル! 目ガ、目ガァァ!』
ドラゴンが悶絶した。
物理的な寒さには強いが、科学的な「スースーする感じ」には耐性がなかったらしい。
「今だ! ヒマワリ、全力で湯を沸かせ!」
「任せろ! 『地獄の釜茹で(ヘル・ボイル)』!」
「ヒヅキ、蒸気を逃がすな!」
「はい! 『ウォーター・ドーム』!」
「アオイ、起きろ! 気圧を上げろ!」
「……むにゃ。……『重力・加圧』」
俺の指示で、三人が同時に魔法を放つ。
ヒマワリが源泉を沸騰させ、ヒヅキが結界で密閉し、アオイが圧力をかける。
そして、俺が仕上げだ。
「属性・春! 魔法・『春の陽気』!!」
俺はタオルを振り回し、熱波をドラゴンへと送る。
極寒の外気と、超高温の蒸気。その温度差が、ドラゴンの自律神経を直撃する。
『ア、アア……熱イ……デモ……寒イ……コレハ……』
ドラゴンの目が虚ろになる。血行が良くなりすぎている。副交感神経が優位になり、闘争本能が霧散していく。
『……ト、トトノウ……』
ドサァッ。
ドラゴンは恍惚の表情を浮かべ、湯船の縁に頭を乗せて脱力した。
完全勝利だ。
◇
エピローグ:旅の終わり
その後、俺たちは『男女を隔てる鉄壁の魔法結界と分厚い水蒸気』で安全に区切った上で、ドラゴンと仲良く入浴した。
(なお、ヒヅキが熱湯で結界を溶かして侵入しようとしたので、俺がタオル(物理)で叩き落とした)
ドラゴン(名前はポチと命名)は、俺の『熱波師』としての腕を気に入り、背中を流してくれた(鱗が痛かった)。
「……いい湯ね」
シズクがのぼせながら呟く。
「私のミント攻撃……役に立ったかしら?」
「ああ。MVPはお前だよ」
「……ふふ。謎がまた一つ、解けたわね(意味不明)」
(……こいつ、普段はドジっ子だけど「盤面をひっくり返す」謎のセンスだけは本物かもしれない)
俺は密かに、このポンコツ探偵への評価を少しだけ改めた。
ヒヅキは結界越しに俺の隣をキープし、ヒマワリは湯を沸かし続け、アオイは湯船で浮いて寝ていた。カオスだが、悪くない修学旅行の締めくくりだ。
「はい、チーズ!」
母さんがカメラのシャッターを切る。
背景には、茹で上がったドラゴンと、オーロラ。そして俺たちの笑顔(と疲れ切った顔)。
数日後。
帰国した俺たちを待っていたのは、騎士の国からの「城壁修理請求書」と、魔法帝国からの「カジノ出禁通知」、そして永久凍土からの「温泉リゾート開発協力依頼」だった。
借金は、ドラゴンと共同経営する『サウナ・ヒエキッタ』の売上でチャラになった。
「……やっと、日常が戻ってくる」
俺は自宅のベッド(江戸川製)に倒れ込んだ。
『ハルくん、お疲れ様でした! 次回の予告です! 激動の修学旅行を終え、ちょっとひと休み……癒やしの「日常回」をご用意しました! お楽しみに!』
「……寝かせてくれ」
俺の意識は、深い闇(安眠)へと落ちていった。
これが、女神のやることか。
修学旅行編、完結。
(獲得経験値:プライスレス。獲得アイテム:ドラゴンの鱗入りタオル)
お読みいただきありがとうございます!
「ポーカーの物理解決ワロタ」「シズク、お前がMVPだ!」と思っていただけたら、
ブックマークや評価(★)をサウナストーンに掛けていただけると、蒸気が発生し、女神(作者)の肌艶が良くなります!
さて、世界を股にかけた修学旅行から帰還したチーム・カオス。
たまには戦いを忘れて、「のんびりした日常回」をお届けしましょう!
次回、「癒やしの植物園編」です!
【次回予告】
『あらあら、ハルくん。世界一周の疲れは取れましたか?
今回は特別編! 大企業『夏目エレクトロニクス』と『江戸川ふとん店』が共同開発し、魔法帝国の技術をぶち込んだ究極のリラックス施設……
その名も「夏江植物園」へご招待!
「最新の幻影魔法とバイオテクノロジー! そして最高のふとん!」
「……まさに天国。ここで一生寝る」
しかし! 過剰な魔力とバイオ技術が融合した結果、癒やしの庭園は「意思を持つ人食いジャングル」へと変貌する!?
「花が! ふとんが! ハルお兄ちゃんを飲み込もうとしてるわ!」
「これのどこが日常回だああああ!!」
次回、これが女神のやることか。
『第二部第四章 安眠植物園と、まどろみの食虫花』
さあハルくん。マイナスイオンをたっぷり浴びなさい! そのまま養分にならないように気をつけてね!(おやすみなさい☆)』




