第二部 第三章(修学旅行編・前編) 『旅の恥は、国際問題(かきすて)』
修学旅行。
それは、見知らぬ土地の空気を吸い、異文化に触れ、見聞を広めるための学習機会。
だが、俺たち『1年Sクラス・チームカオス(8名)』にとって、それは「国際指名手配」への片道切符だった。
「いいですか、皆さん。貴重品の管理は自己責任です。特に『命』と『貞操』と『国家予算並みの旅費』は、絶対に無くさないように!」
担任(筋肉)が、出発ゲートの前で叫んだ。
場所は『王立国際転移ゲート』。
ここから世界各地へ一瞬で飛ぶことができる、魔法技術の粋を集めた空港だ。
「はーい! 先生、バナナはおやつに入りますかー?」
最後列で手を挙げたのは、完璧なJKに変装した母さん(女神・モモネ)だ。
「桜川(母)! バナナは凶器に含まれるから没収だ!」
「ちぇー。冷凍して釘を打とうと思ったのに」
……不穏だ。
俺、桜川ハルは、班長として『旅のしおり』と『班費(全員分の生活費)』が入ったマジックバッグを握りしめていた。
これだけは死守しなければならない。
「行くぞ! 最初の国は『騎士の国・ガラディア』だ!」
(……誰だよ『チーム・カオス』なんて名付けたの。俺だわ。すでに胃が痛い)
◇
チェックポイント1:騎士の国・ガラディア
転移の光が収まると、そこは中世ヨーロッパ風の石造りの街並みだった。
行き交う人々は甲冑に身を包み、腰には剣を携えている。質実剛健。騎士道精神の国。
「……ここが騎士の国。空気が鉄臭いわ」
ヒヅキが鼻を鳴らす。「ハルお兄ちゃんを守るのは私よ。あんな鉄屑(騎士)たちじゃない」
「なんだあの服は! 暑苦しい!」
ヒマワリが騎士団の行進を見て叫ぶ。「鎧など不要! 筋肉と熱量があれば刃など通らぬ!」
やめろ、通りすがりの聖騎士に喧嘩を売るな。
「……ベッドの質はどうかしら」
アオイがふらふらと家具屋へ向かう。「……硬い。低反発じゃない。この国、滅ぼす」
睡眠の質で国家存亡を判断するな。
「……ククク。この霧……血の匂いがするわ」
シズクがドライアイスを焚きながら路地裏を覗き込む。「間違いなく、切り裂きジャック的な何かが……」
「それは屋台の蒸気だ。あとお前のドライアイスが迷惑になってる」
自由行動開始から5分。
すでに俺の胃が痛い。だが、本当の地獄はこれからだった。
「あら、ハルくん。あそこに美味しそうなクレープ屋さんが!」
母さんが俺の腕を引く。
「ちょっと待て、全員いるか確認してから……」
その一瞬の隙だった。
人混みの中から、小柄な影が飛び出してきた。
「いただいた!」
スリだ。影は俺の手から『マジックバッグ』をひったくり、信じられない速度で路地裏へと消えた。あの中には、全員分のホテル代、食費、帰りのチケットが入っている。
「……あ」
俺が声を上げるより早く、シズクが鋭く叫んだ。
「……待って! バッグの紐が切れてない。奪ったのは『手』じゃなく『近距離転移』よ! 路地裏に逃げたのは誘導――トラップよ!」
さすが探偵枠、見事な推理だ。
だが、俺の周りの厄災たちに「待つ」という概念も、「罠を警戒する」という知能もなかった。
「……ハルお兄ちゃんの財布(愛の結晶)を盗んだ?」
ヒヅキの目が据わる。ゴゴゴ……と、街の地下水道が逆流する音が聞こえた。
「……万死! 私のハルとの思い出(資金)を!」
ヒマワリの髪が逆立ち、周囲の気温が急上昇する。石畳が溶け始めた。
「……私の安眠(ホテル代)を奪った罪は重い」
アオイが枕を投げ捨てる。ズズン! 街全体の重力が倍加し、飛んでいた鳥が落ちた。
「……毒殺刑ね」
ミサキが紫色の瓶を開栓する。
「……呪殺刑だ」
サヤカが藁人形を取り出す。
まずい。
このままだと、スリ一匹のために、首都が壊滅する。
「お前ら待て! 相手の罠だ! 街中で魔法をぶっ放すな!」
「問答無用! 『ハイドロ・カノン(戦略級)』!」
「『ソーラー・レイ(衛星兵器級)』!」
ドォォォォォン!!
騎士の国の堅牢な城壁が、水圧で切断され、熱線で溶解した。
罠ごと全てを更地にする物理的解決。悲鳴を上げて逃げ惑う騎士団。崩れ落ちる監視塔。
「ひいいっ! なんだこいつら! 魔王軍か!?」
路地裏で追い詰められたスリが、腰を抜かしてバッグを差し出す。
「か、返す! 返すから命だけは!」
「……遅い」
アオイがスリの頭上に指をかざす。
「『重力・土下座』」
バチンッ!
スリが音速で地面に額を擦り付け、その衝撃でクレーターができた。
「確保完了です☆」
母さんが瓦礫の上でピースサインをする。
「……完了じゃねえよ」
俺は燃え上がる街と、半壊した城壁を見上げた。
なお、この国の人間は無駄に頑丈(魔法コーティング済み)なので、城壁は死んだが死傷者はゼロだった。それだけが唯一の救いだ。
数分後。
俺は震える手で、班費のほぼ全額を『示談金』として差し出した。近衛騎士団長は無言でそれを受け取り、半壊した城壁を見て静かに泣いていた。本当にごめんなさい。
サイレンが鳴り響く。空には王室近衛騎士団(グリフォン部隊)の増援。
「……逃げるぞ」
「えっ、まだクレープ食べてないのに!」
「国ごと出禁になる前に、次の国へ飛ぶんだよ!」
◇
チェックポイント2:魔法帝国・ルーンガルド
命からがら転移ゲートに飛び込んだ俺たちが着いたのは、魔法文明が極限まで発達した『魔法帝国ルーンガルド』。
労働は全て自律型ゴーレムが担い、食糧も物質生成魔法で無限に湧き出す「究極の働かなくていい国」。有り余った時間とエネルギーの行き着く先は――極端な『娯楽』への特化だった。
空にはネオンサイン(立体ホログラム)を輝かせる魔法船が飛び交い、街全体が巨大な魔方陣の上に成り立つサイバーパンク風の不夜城。
「……ここなら、多少暴れても自動修復魔法で直りそうね」
ヒヅキが物騒なことを言う。
「ハルくん、見てください! 『カジノ』がありますよ!」
母さんが指差したのは、街の中央にそびえる巨大な黄金の塔。『王立魔法カジノ』。
刺激と一攫千金を夢見る魔導師たちが集う欲望の街だ。
「……資金、減っちゃったものね」
ミサキが呟く。さっきの示談金で、俺たちの財布はスカスカだった。残高:うまい棒10本分。
「……増やせばいい」
アオイが塔を見上げる。「……確率操作。私の得意分野」
「待て待て。高校生がカジノはまずいだろ」
「大丈夫です! この国では『魔法の実力』こそが通貨! 年齢制限なんてありません!」
母さんが適当なことを言って、俺の背中を押す。
「ようこそ、迷える子羊たちよ……」
カジノの入り口で、黒服のディーラー(アンドロイド)が機械的な笑みを浮かべていた。
「有り金全部溶かすか、夢を掴むか……勝負といきますか?」
俺たちの前に立ちはだかるのは、魔法でイカサマし放題の『魔導ギャンブラー』たち。
そして、俺の背後には、制御不能の『厄災』たち。
「……フフフ。我が『邪眼』で、次のカードを見通してやる」
サヤカが眼帯を外す。
「……私の『霧』で、相手の手札を隠蔽するわ」
シズクがドライアイスを準備する。
「ハルお兄ちゃん! 私、ルーレットの玉になるわ!」
ヒヅキ、それはボールじゃなくてお前が回るのか。
財布(命)を賭けた、デス・ギャンブルの幕が開く。
貴重品管理は自己責任。だが、このメンバーでカジノに行けば、失うのは金だけでは済まない気がする。
『ハルくん! 次回の後編は「逆転のポーカー」と「ラスボス(母)の暴走」です! 借金地獄で強制労働(マグロ漁船)にならないよう、祈ってますね☆』
(……俺の修学旅行、どこで間違えた?)
ネオン輝く夜の街に、俺の悲痛な叫び(ツッコミ)が吸い込まれていった。
修学旅行編・前編、完。
(被害総額:城壁1つ、精神的疲労プライスレス)
お読みいただきありがとうございます!
「騎士団長が可哀想すぎる」「シズクの推理、1ミリも役に立たなくて笑った」と思っていただけたら、
ブックマークや評価(★)をベット(賭け)していただけると、ハルの「借金」が減り、女神(作者)の懐が温まります!
さて、示談金で素寒貧になった一行が向かうのは、労働ゼロの超絶ハイテク魔法帝国!
しかし、魔法でイカサマし放題のカジノで、まともな勝負になるはずがありません。
次回、「魔法ギャンブル・修学旅行編」です!
【次回予告】
『あらあら、ハルくん。国の重要文化財(城壁)を壊して、所持金もうまい棒レベルですか?
逃げ込んだ先は、魔法とホログラムが飛び交う不夜城・カジノタワー!
「倍プッシュだ……! ハルお兄ちゃんの貞操(全財産)を賭ける!」
イカサマ上等! 透視魔法でカードを書き換えるディーラー vs 物理で台ごと破壊するヒロインたち!
そして、伝説のギャンブラーとして君臨するのは――「バニーガール姿の母さん(私)」!?
「負けたらマグロ漁船よ! ハルくん、私のために稼ぎなさい!」
次回、これが女神のやることか。
『第二部第四章 魔法賭博の狂騒と、バニーの女神』
さあハルくん。人生を積み上げなさい! オチは「大富豪」か「マグロ漁船」か……運命のルーレットが回るわよ!(あ、逆バニーも用意したわ☆)』




