第二部 第一章 『謎の転校生は、霧と共に(ドライアイス持参)』
二学期。
それは物語で言うところの「第2クール」の始まりであり、新たな波乱の幕開けである。
島一つを更地にした夏休みの狂乱(無人島・核爆発花火大会)を生き延びた俺、桜川ハルは、新学期の教室で深く、ひたすらに深く息を吐いた。
(……理不尽だらけの夏だったな)
本当に、心身ともに疲弊している。平和な一般人としてのライフゲージはとっくにゼロだ。
だが……おかしな話だが、あのぶっ飛んだ日々を乗り越えた今、ただ静かなだけの朝に少しだけ「物足りなさ」を感じてしまった自分がいる。
(いやいや、気のせいだ。俺が求めているのは平穏無事な高校生活だ。絶対にそうだ)
俺は全力で自己暗示をかけた。一度カオス(刺激)に慣れたからといって、トラブルを歓迎するようなドM属性は持ち合わせていない。
「おはようございます、ハルくん! 今日から新章『謎の転校生編』がスタートですよ! キービジュアルも更新されました!」
登校中の俺の脳内に、母さん(女神)のハイテンションなアナウンスが響く。
『そんなハルくんに朗報です。クラスに新しい「お友達」が追加されました! 属性は「ミステリアス(自称)」! 乞うご期待!』
(自称ってなんだよ。……はあ、勘弁してくれ)
◇
1年Sクラス。
そこはすでに、いつもの魔窟と化していた。
「ハルお兄ちゃん! 二学期も私の愛は沸点突破よ!」
皇ヒヅキが背後から抱きついてくる。物理的に水圧が重い。強すぎる独占欲が、すでに床を濡らしている。
「秋だと? 認めん! 私の情熱で11月まで真夏にしてやる!」
夏目ヒマワリが暖房器具(自身)として教室の温度を上げている。黒板の端が少し焦げた。
「……秋は、眠い」
江戸川アオイは登校5秒で、自身の重力魔法で作り出した『絶対空間』の中で冬眠モードに入っている。
いつもの光景だ。うるさくて、命がけで、なんだかんだ落ち着く俺の居場所。
だが、ホームルームのチャイムと共に、担任(筋肉)が教室に入ってきた時、空気が変わった。
「席につけ、破壊神ども! 今日は転校生を紹介する!」
転校生。
その響きに、教室がざわめく。
だが、ドアが開くより先に、異変が起きた。
プシュウウウウウ……。
教室の引き戸の隙間から、真っ白な煙が漏れ出してきたのだ。
「火事か!?」
「いや、これは……霧?」
「……ドライアイスの匂いがするわ」
月乃下ミサキが冷静に分析する中、ガラリとドアが開いた。
そこには、一人の少女が立っていた。
透き通るような銀髪のボブカット。季節外れの分厚いマフラーに、少し大きめの制服。手には「虫眼鏡」と「パイプ(中身はシャボン玉)」。
「……フッ。遅かったな、愚かな羊たちよ」
少女は教室の一歩目を踏み出し、バサァッ!とマフラーを翻した。
その背後で、小型の霧発生装置が唸りを上げている。
そしてマフラーの隙間から、ペラリと一枚の紙が落ちた。
(……『霧発生機・領収書、3980円』って書いてあるぞ)
俺の心の中のツッコミをよそに、彼女は黒板の前でポーズを決めた。
「我が名は……雪音シズク。凍てつく空から落ちた、一滴の涙……」
教室が静まり返る。威圧感ではない。「何こいつ?」という純粋な疑問による沈黙だ。
「いいか、本人の希望により『謎の転校生』枠だ。触れるな、火傷するぞ(零下的な意味で)」
担任が雑に紹介する。
シズクは教卓に手をつき、意味ありげにクラスを見渡した。
「私について知ろうとするな。……私は『謎』だ」
だが、彼女の瞳が俺の周りの『厄災』たちを捉えた瞬間、その目つきが「探偵」のそれに変わった。
「……なるほど。一学期にこの学園で起きた数々の異常事態(事件)。その中心がこのクラスだという噂は本当のようね。私は、その『真相』を暴きに来たの」
彼女は静かに、だが鋭く指摘する。
「そこの水属性。貴女の足元の異常な湿度……対象への強すぎる執着が魔力として漏れ出ているわ。
そこの火属性。黒板の焦げ跡……日常的に高火力を振り回している証拠ね。
……そして、その中心にいる貴様」
シズクの虫眼鏡が俺をビシッと指差す。
「貴様の机だけ、足の木材が新しい。何度も破壊され、その度に修繕された痕跡……貴様がこの異常事態の『特異点』ね?」
クラスの空気がピリッとした。
ただの中二病じゃない。確かな観察眼(推理力)だ。
だが、このクラスに付け焼き刃のミステリー設定が通用するはずがなく――。
「……気に入らないわ」
ヒヅキが低く唸った。
「ハルお兄ちゃんを分析してるわね、あの銀色。……水没させなきゃ」
「なんだあの態度は! ジメジメと粗探しばかりしおって!」
ヒマワリが発火する。
「……キャラ被り」
ミサキが毒瓶を揺らす。「ミステリアス担当は私で間に合ってるの。……消えて」
「フハハ! 我に挑むか、新入り!」
彼岸サヤカがマントを広げる。
「だが甘い! その『設定』、練り込み不足だ! 探偵を名乗るならもっと闇を抱えろ!」
総攻撃の予感。
シズクの顔が引きつる。
「くっ……! 愚民どもめ、私の『絶対零度領域』を味わうがいい……!」
彼女が指を鳴らす。
瞬間、教室の湿度が急上昇し、窓ガラスが結露した。
そして、彼女の足元から氷の棘が……出ようとして、不発に終わった。
代わりに、大量の雪(発泡スチロール製)が天井から降ってきた。
「……えっ?」
シズクが天井を見上げる。
「おい、仕込みの業者、タイミング間違えてるぞ」
俺がツッコミを入れると、シズクは耳まで真っ赤になった。
「わ、笑うな! これは……そう、これこそが『謎』なのだ! なぜ雪が降るのか、お前たちに解けるか!?」
必死に取り繕うが、可愛いだけだ。
残念ながら、名探偵というより、ドジっ子属性の気配が濃厚だ。
「席は桜川の隣だ。行ってこい」
担任が無慈悲に告げる。
周囲の生徒たちがざわめく。
「おい、あいつあの魔境に……」「『五大厄災』に次ぐ、六人目の厄災か……?」
シズクはマフラーを直しながら、俺の席まで歩いてきた。
そして、俺の机に両手をつき、顔を近づける。至近距離だ。整った顔立ちだが、瞳孔が開いている。緊張しているのだ。
「……私の『謎』を解けるのは、世界で貴様だけかもしれない……」
「……あー、とりあえず」
俺は彼女の肩に積もった発泡スチロールを優しく払ってやり、足元に落ちていた紙切れを渡した。
「その霧、前が見えないから止めてくれないか。あと領収書、落ちてたぞ」
「なっ……!?」
シズクが狼狽える。
「ば、馬鹿な! 私の『深霧』をただの霧だと見破り、さらに私の秘密(通販)まで……!? 貴様、何者だ……!?」
「ただのクラスメイトだよ。よろしくな、探偵さん」
俺は少しだけ口角を上げて言った。
『おめでとうハルくん! 新ヒロイン「ポンコツミステリーちゃん」を攻略しました! 彼女は「自分の設定を見抜いてくれた(と勘違いした)」ことで、貴方に運命を感じ始めました!』
シズクは顔を真っ赤にして、俺の隣の席に座った。そして、小声でブツブツと呟き始めた。
「……計算外だわ。もっとこう、クールに登場して全員を震撼させるはずだったのに……。でも、彼は私の『本質』を見抜いた……? まさか、彼こそが私の探していた『助手』……?」
完全に妄想に入っている。
その時、周囲から四方向の殺気が突き刺さった。
「……ハルお兄ちゃん? その雪女、溶かしていい?」
「燃やす!」
「……埋める」
「……呪う」
二学期初日。
俺の周りには、ヤンデレ、太陽、睡眠王、メンヘラ、中二病、そして新たに『自称ミステリー(ポンコツ)』が加わった。
新しい厄介ごとだ。俺の愛する「平穏」とは完全に逆方向に向かっている。
(……ふざけるな。なんで俺の周りばかりこんなカオスになるんだ)
頭を抱え、心の中で盛大に悪態をつく。
……なのに、どうして俺は、ほんの少しだけホッとしているのだろうか。
これが、女神のやることか。
俺の学園生活のジャンルがまた一つ増えてしまったが――まあ、ツッコミ役(主人公)が不在じゃ、この狂った物語は回らないからな。仕方なく付き合ってやるよ、仕方なくな。
お読みいただきありがとうございます!
「ポンコツミステリーちゃん、チョロすぎる」「ドライアイス係、お疲れ様」と思っていただけたら、
ブックマークや評価(★)をポチッと押していただけると、シズクちゃんの「探偵事務所(教室の隅)」が繁盛し、女神(作者)もニヤニヤします!
さて、メンバーも増え、次は二学期最大のお楽しみ……「修学旅行」です!
しかし、行先は京都でも沖縄でもありません。
次回、「世界征服・弾丸ツアー編」です!
【次回予告】
『あらあら、ハルくん。謎の転校生を手懐けて、ハーレム完成ですか?
二学期のビッグイベント、修学旅行!
その実態は、異世界各国を巡る「侵略(観光)戦争」!
「班決め」? いいえ、それは「ハルの所有権」を巡るドラフト会議!
行き先は「騎士の国」か、「魔法帝国」か。
旅の恥はかき捨て! 城壁は破壊して! 国家予算を使い切れ!
そして、8人目の班員として現れるのは――「伝説のJK(自称16歳)」!?
「ハロー! 転校生のモモネちゃんだよ☆」
「……帰れ!!」
次回、これが女神のやることか。
『第二部第二章 修学旅行と、禁断の女子高生』
さあハルくん。パスポート(遺書)は持った? 世界中を敵に回して、愛の逃避行といきましょう!(制服、まだイケるでしょ?☆)』




