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OVA 特別編 『皇女の家出(エスケープ)と、金魚すくいの鎮魂歌(レクイエム)』

【Aパート:皇国の鳥籠】


 空を貫く摩天楼群。

 この星の経済と武力の三分の一を掌握する超巨大企業『すめらぎコーポレーション』。

 その本社の最上階(地上200階)にあるペントハウスが、皇ヒヅキの「子供部屋」だった。


「お嬢様。フィッティングの時間です」


 静かな声と共に部屋に入ってきたのは、黒いメイド服に身を包んだ長身の女性。

 十年前、公園で暴れる5歳のヒヅキを拳骨一発で沈めた、あのメイド長だ。

 彼女のメイド服の下には、防弾繊維と高機動外骨格パワードスーツが仕込まれている。


「……今日は行かないわ。お父様(会長)の主催する晩餐会なんて、退屈なだけよ」


 ヒヅキは窓の外を見下ろしていた。

 視線の先には、皇国の中心から少し外れた、下町のネオン。

 今日は、地元の夏祭りだ。

 晩餐会のドレスは山ほどあるのに、浴衣は一枚もない。


「なりません。貴女は皇家の次期当主。来年の春には、王立高等魔法学園への入学も控えています。政財界に顔を売っておく義務があります」


「私の義務は、ハルお兄ちゃんの隣に立つことだけよ」


 ヒヅキが振り返る。

 その瞳の奥で、青い魔力が渦を巻いた。

 次の瞬間、ペントハウスの強化ガラス(対戦車砲弾にも耐える)が、内側からの超高圧水流で消し飛んだ。


「……またですか。今月で窓の修理は5回目ですよ」


「ハルお兄ちゃんが私を呼んでるの! ごきげんよう!」


 ヒヅキは地上200階から、眼下の夜景に向かって飛び降りた。

 落下しながら水流でパラシュートを形成し、ネオンの海へと消えていく。

 メイド長はため息をつき、インカムのスイッチを入れた。


「……こちらメイド長。お嬢様が『脱走』した。目標は下町の夏祭り会場。第一から第四までの確保部隊を出動させろ。……殺すなよ、屋台の店主たちをな」


 【Bパート:弾丸夏祭りデート】


 一方その頃。

 俺、桜川ハル(中学三年生)は、地元の神社の境内で、りんご飴を舐めていた。


「……平和だ」


 中学生最後の夏休み。

 受験勉強の息抜きにやってきた祭りは、提灯の明かりと焼きそばの匂いに包まれ、完璧な「日常」を形成していた。


「ハルお兄ちゃあああん!!」


 ドゴォォォォン!!

 空から降ってきた水の塊が、神社の鳥居を半分へし折りながら俺の目の前に着地した。

 水しぶきの中から現れたのは、ずぶ濡れの浴衣を着たヒヅキだった。


「……お前、また飛び降りてきたのか。普通に電車で来いよ」


「電車は遅いの! ハルお兄ちゃんの浴衣姿を一秒でも早く見たくて!」


「俺は甚平だ」


 ヒヅキは自身の魔力で一瞬にして浴衣の水分を飛ばし(高度な温度操作魔法)、俺の腕に絡みついてきた。


「さあ、デートよ! 中学生最後の夏の思い出を作りましょう!」


 俺たちは屋台を巡った。

 だが、皇国の次期トップを連れての祭りが、平穏に終わるはずがない。


「金魚すくいね! 私がハルお兄ちゃんのために、一番大きいのを掬ってあげる!」


 ヒヅキがポイ(紙の網)を構える。

 だが、彼女の指先から極細の『水流カッター』が放たれ、水槽の底が真っ二つに割れた。

 鉄砲水と共に、数百匹の金魚が地面に放たれる。


「ああっ! 金魚が!」


「大丈夫よ! 『水球ウォーター・スフィア』!」


 ヒヅキが空中に巨大な水の球体を創り出し、金魚たちを全てその中に回収した。

 宙に浮く巨大な水族館アクアリウム

 周囲の客が「すげえ、最新のホログラムか?」と拍手喝采している。

 店主には俺が多めに金を払って土下座した。

 ヒヅキは誇らしげに、宙に浮く巨大水球を見上げる。


「ほら! 金魚さんたち、みんな助かったわ!」


 ……と、言いたいところだが。

足元の泥の上で、小さな金魚が一匹だけ、ぴくりとも動かなくなっていた。

 水球の中の光に目を奪われて、見落とすところだった。


「……あ」


 ヒヅキの声が、急に小さくなる。


「ごめんなさい……私、また……」


「いい。事故は事故だ。……でも、せめて」


 俺はしゃがみ込み、近くのハスの葉を春魔法で小さく丸めて、即席の“舟”を作った。

その上に金魚をそっと乗せる。


「ここ、神社だろ。こういうのは、ちゃんと送ろう」


 俺は賽銭箱に小銭を放り込み、鈴を鳴らす。

カラン、カラン、と乾いた音が雨の名残の空気に溶けた。


「――短い夏だったな。お疲れ」


 ヒヅキが隣で、やけに真面目な顔で手を合わせる。


「……金魚さん。来世では、もうちょっと丈夫な装甲うろこを……」


「それはそれで怖いわ」


 店主が後ろで鼻をすすり、拡声器を握りしめた。


「えー、ただいまより! 金魚さんの、鎮魂歌レクイエムを――!」


「やめろ! 祭りのテンションが急に葬式になる!」


 俺が止めるのと同時に、どこからともなく流れる祭囃子が、なぜか一瞬だけ“しんみり”した旋律に聞こえた気がした。

……たぶん気のせいだ。たぶん。


「……ハルお兄ちゃん」


「ん?」


「今の、ちょっとだけ……かっこよかった」


「今だけな。はい次。賠償が増える前に移動するぞ」


「次は射的よ! あの特賞のゲーム機、お兄ちゃん欲しがってたわよね!」


 ズドンッ!!

 コルク銃の弾丸を『水圧』で加速させ、弾速をマッハに乗せた。

 景品ごと、屋台のテントに風穴が開いた。

 俺はまた土下座した。


「……ハルお兄ちゃん、ごめんなさい。私、お兄ちゃんを喜ばせたいだけなのに……不器用だから……」


「気にするな。怪我人が出なかっただけマシだ」


 りんご飴をかじりながら、俺は苦笑した。

 こいつの愛情表現が重量過多なのは、今に始まったことじゃない。


 【Cパート:番犬のテスト】


 その時、周囲の空気が変わった。

 祭りの喧騒が遠のき、黒服の集団が俺たちを半包囲していた。

 その中心から、あのメイド長が進み出てくる。


「そこまでです、お嬢様。お遊びの時間は終わりです」


「……メイド長。私は帰らないわ」


 ヒヅキの周囲に、鋭い氷柱つららが何十本も浮かび上がる。

 一触即発。

 だが、メイド長の視線は、ヒヅキではなく俺に向けられていた。


「桜川ハル様。貴方は来春、お嬢様と同じ学園に進学されるそうですね」


「……ああ。そうだけど」


「お嬢様は、いずれこの皇国を背負って立つお方。その隣に立つ者に、ただの『お人好し』は不要です」


 メイド長が、スッと腰を落とす。

 ただの構えではない。圧倒的な殺気が、質量を持って俺の喉元に突きつけられる感覚。

 5歳の時は分からなかったが、今の俺なら分かる。

 このメイド、生身で魔獣を素手で引き裂くレベルのバケモノだ。


「貴方に、お嬢様の『重さ(業)』を背負う覚悟がおありですか? 少しでも怯むなら、今すぐお嬢様の記憶から貴方を消去し、二度と近づけさせません」


「メイド長! ハルお兄ちゃんに手を出したら、私が皇家をぶっ潰すわよ!」


「ヒヅキ、お前はちょっと黙ってろ」


 俺は、ヒヅキの前に出た。

 メイド長の殺気。

 黒服たちの圧力。

 皇コーポレーションという、国家そのものからの重圧。

 普通の中学生なら、泣いて逃げ出す場面だろう。

 だが、俺は毎日、自称女神(母さん)の理不尽なちゃぶ台返しに耐えて生きてきたのだ。

 こんな殺気、母さんの『朝ごはん抜き(物理制裁)』に比べたら、そよ風みたいなもんだ。


「……覚悟とか、背負うとか、重苦しいのは嫌いなんだよ」


 俺は、手に持っていたりんご飴(2本目)を、メイド長に向かって差し出した。


「これ、美味いぞ。あんたも仕事ばかりしてないで、少しは祭りを楽しんだらどうだ?」


「……は?」


 メイド長が、初めて呆れたような声を漏らす。


「俺は、こいつが将来皇帝になろうが魔王になろうが、どうでもいい。ただ、こいつが隣で笑って、一緒に美味い飯が食えれば、それで十分だ」


 俺は魔力を解放する。

 属性・『春』。


「魔法・『宵の口の春風サマー・ブリーズ』」


 俺から放たれた温かい風が、メイド長の殺気を撫でるように消し去り、黒服たちの緊張を解きほぐしていく。

 暴力ではない。ただの『平和リラックス』の強制付与。


「……毒気が、抜かれますね」


 メイド長は構えを解き、小さく息を吐いた。

 そして、俺の手からりんご飴を受け取った。


「……合格、と言っておきましょう。お嬢様の手綱を握れるのは、やはり貴方だけのようです」


 メイド長は背を向ける。

 黒服たちが道を開けた。


「今日は、見失ったことにしておきます。……お嬢様、花火が終わるまでにはお戻りください。会長が泣いていますので」


「……ふんっ。分かってるわよ」


 【エピローグ:来春への約束】


 ヒュルルルル……ドンッ!

 夜空に、巨大な打ち上げ花火が咲いた。

 神社の裏手。俺とヒヅキは、並んで空を見上げていた。


「……ハルお兄ちゃん」


「ん?」


「私、高校生になっても、ずっとお兄ちゃんの隣にいるからね。どんな敵(泥棒猫)が現れても、私が全部水に流してあげる」


 重い。物理的にも比喩的にも重すぎる愛だ。


「ほどほどにな。学園の校舎を壊したら、俺が怒られるんだからな」


「ふふっ。お兄ちゃんが守ってくれるから平気よ」


 ヒヅキが俺の肩に頭を乗せる。

 来年からは高校生。

 全寮制の『王立高等魔法学園』での生活が始まる。

 そこで待っているのが、太陽のようなバカや、眠り姫や、中二病や、ポンコツミステリーだとは、この時の俺はまだ知らない。

 ただ、この騒がしい幼馴染から逃げ切ることは、一生不可能なのだろうと、俺は夜空の花火に誓うのだった。


 OVA 特別編 完

 (そして物語は、狂乱の第二部「新学期編」へと続く――)

(OVA エンドロール後、画面が急にセピア色の思い出風になる)


お読みいただきありがとうございます!

「ヒヅキの愛が重い(物理的に)」「メイド長、苦労人すぎる」と思っていただけたら、

ブックマークや評価(★)をズドン!と撃ち込んでいただけると、皇コーポレーションの株価が上がり、女神(作者)の資産が増えます!

さて、これにて第一部と過去編は終了!

いよいよ物語は、怒涛の「第二部(二学期編)」へ突入します。

その前に……これまでの彼らの絆を振り返る、感動の「総集編」をご覧ください!


【第二部直前・特別総集編(※全編未放送)予告】


『あらあら、ハルくん。いよいよ第二部ですね!

 その前に、第一部で深まったみんなの「絆」を振り返りましょう!

 そう、あのゴールデンウィーク……皇コーポレーションが総工費3兆円をかけて建造した、高さ3000メートルの電波塔『ネオニュー皇都タワー』での思い出を!』


「待て!! そんなとこ行った記憶ねえぞ! 本編(第一部)のどこにも無かっただろ!」


『ふふっ、尺の都合で全カットされた幻の回です☆

 さあ、ご覧ください!


 (※謎のナレーション「これはまだ誰も知らない、もう一つの青春——」)

 地上3000メートルの展望台を巨大な虫眼鏡にして、街を焼き払おうとしたヒマワリ!

 「太陽の光が近い! 見ろ! 街が…焼きマシュマロみたいだ!」

 

 超高速エレベーターの重力をゼロにして、永遠のフリーフォール睡眠をキメたアオイ!

 「……無重力ベッド。最高」

 

 フードコートの全メニューを混ぜて、未知の猛毒スライムを錬成したミサキとサヤカ!

 「ククク、タピオカと激辛カレーの融合……これぞ深淵!」

 

 そして! タワーの最上階を貸し切って、ハルくんを一生監禁しようとしたヒヅキ!

 「お父様に言って、このタワーごと買い取ったわ! ここが私たちの愛の巣(鳥籠)よ!」』


「……最悪の思い出じゃねーか! だから記憶から抹消してたんだよ!」


『あら、でもハルくん。あの時、ピンチを救ってくれた謎の美少女がいたじゃないですか』


「え?」


『転校生・探偵(自称)シズク「……フッ。展望台のガラスが割れたのは、密室トリックね」』


「……おい。なんで二学期から転校してくるシズクが、ちゃっかり思い出の写真に写り込んでるんだよ」


『気にしないでください。ブルーバックで撮影して合成クロマキーしました!

 さあ、そんな捏造と破壊の記憶を胸に、いざ新学期へ!』


 次回、これが女神のやることか。

 『第二部 直前特番 幻のGW(全編新規カット)と、ネオニュー皇都タワーの惨劇』

 『さあハルくん。思い出は美化されるものよ! 二学期はもっとひどい目に遭わせてあげるから、覚悟しなさい!(タワーの修理代はハルくんのツケです☆)』


※皇コーポレーションの提供でお送りしております

次回更新は3月4日の予定です。

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