本編第八章 『劇的!ビフォーアフター(崩壊)』
一学期の終わり。
それは、学生にとって天国(夏休み)への入り口であり、同時に最後の審判の時でもある。
だが、俺たちのクラスに突きつけられた審判は、成績表よりも物理的に重いものだった。
「……ここ、戦場跡地か?」
俺、桜川ハルは、眼前に広がる光景に絶句した。
窓ガラスは全損。壁には大穴。床は焦げ跡と氷漬けと謎の変色でモザイク模様。天井からは鉄骨が現代アートのように垂れ下がっている。
これら全て、この一学期に俺のクラスメイトたち(主に『五大厄災』)が暴れ回った爪痕である。
「よく聞け、破壊神ども!」
瓦礫の山の上で、担任(筋肉)が仁王立ちしていた。
「本校の校舎修繕予算は、昨日底をついた! よって、業者を呼ぶ金はない! 貴様らが壊したものは貴様らが直せ! 原状回復するまで、夏休みは没収とする!」
『夏休み没収』。
その単語が、教室(廃墟)に木霊した。
「……嫌。海に行きたい」
アオイが枕を抱きしめて抗議する。
「私の水着姿をハルお兄ちゃんに見せる計画が!」
ヒヅキが悲鳴を上げる。
「合宿だ! キャンプだ! BBQだ!」
ヒマワリが地団駄を踏んで床を抜く。
『ハルくん、聞こえますかー? ママです』
(……またお前か。予算使い込んだの、絶対お前だろ)
『バレましたか。でも大丈夫! みんなで力を合わせれば、校舎の一つや二つ、すぐに直せますよ! 青春ですね! レッツDIY!』
◇
掃除フェーズ1:窓拭き(破壊)
「任せてハルお兄ちゃん! ガラスの曇りなんて、私の愛で洗い流してあげる!」
ヒヅキがホースを構える。いや、それはホースじゃない。消防用の放水ノズルだ。
「愛の濁流!」
ドバアアアアア!!
高圧洗浄機どころではない。ダムの放流だ。
窓ガラスの汚れは落ちた。同時に、窓枠ごと吹き飛び、反対側の壁を貫通した。
「……あれ? 風通しが良くなったわね!」
掃除フェーズ2:ゴミ捨て(焼却)
「ゴミ拾いなど面倒だ! 塵は灰に、灰は塵に!」
ヒマワリが火炎放射器(魔法)を構える。
「浄化の炎よ!」
ボオオオオオ!!
燃えるゴミ、燃えないゴミ、そして机と椅子、ついでに教卓までが一瞬で消し炭になった。
「見ろハル! 部屋が広くなったぞ!(物理的に)」
掃除フェーズ3:床磨き(溶解)
「……頑固な汚れには、これ」
ミサキが紫色の液体が入ったバケツを持ってきた。
「特製・王水クリーナー。汚れの分子結合を破壊するの」
ジュワワワワ……。
床に液体を撒いた瞬間、床材が泡を吹いて溶け始めた。コンクリートの基礎まで到達し、下の階の職員室が見えた。
「……あら、先生の頭頂部が見えるわ」
掃除フェーズ4:整理整頓(圧縮)
「……片付け、だるい」
アオイが散乱したロッカーや棚を指差す。
「『重力・集束』」
ギュン!
教室内の家具が一点に吸い寄せられ、ソフトボール大の黒い塊に圧縮された。
「……はい、片付いた。これ、漬物石にする」
掃除フェーズ5:空気の入れ替え(異界送り)
「埃っぽいな。我が深淵へ送ってやろう」
サヤカが空間に黒い穴を開ける。
「吸い込め、冥界の門!」
ゴオオオオ……。
埃だけじゃなく、チョーク、黒板消し、カーテン、そして逃げ遅れたクラスメイト(男子)が吸い込まれていった。
「フハハ! 断捨離完了だ!」
◇
結果:更地
一時間後。
そこには、「綺麗になった教室」ではなく、「綺麗に何ものなくなった空間」が広がっていた。
内装工事前のテナント物件ですら、ここまで何もないことはないだろう。
「……お前ら、掃除って言葉の意味、辞書で引いてこい」
俺が頭を抱えていると、床(溶けかけ)がゴゴゴと揺れ始めた。
校舎の残骸、溶けた床、圧縮された家具、それらが混ざり合い、巨大な人型へと変貌していく。
『警告! 警告! 校舎の「怨念」と、みんなの「破壊魔力」が融合し、特級呪物「スクール・ゴーレム(解体業者)」が誕生しました!』
「オ……オノレラ……ヨクモ……!」
瓦礫の巨人が吼える。
そりゃ怒るわな。俺だって自分が校舎だったらキレてる。
「あら、まだゴミが残っていたのね!」
「燃やす!」
「溶かす!」
「潰す!」
「送る!」
少女たちが構える。
待て、お前らが戦えば、今度は学園ごと地図から消えるぞ!
「やめろ! これ以上壊すな! 俺がやる!」
俺は前に出た。
戦うのではない。直すのだ。
俺の属性は『春』。
春とは、冬の荒廃から立ち直り、新たな命が芽吹く季節。
つまり、究極の『リフォーム』だ!
「総員、退避! 魔法・『劇的! 新築そっくりさん(スプリング・リノベーション)』!!」
カッッッ!!!
俺の手から放たれた桜色の光が、ゴーレムと、そして半壊した校舎全体を包み込む。
破壊のエネルギーを逆転させる。
時間は戻さない。新しく作り変えるのだ。
鉄骨は樹木のようにしなやかに伸び、コンクリートは白亜の壁へ。
割れたガラスはクリスタルのように透明度を増し、溶けた床は大理石へ。
そして、殺風景だった教室には、蔦が絡まり、花が咲き乱れる。
数秒後。
そこにあったのは、ボロボロの校舎ではなく――
「……何ここ、神殿?」
誰かが呟いた。
パルテノン神殿と植物園が融合したような、幻想的で無駄に豪華な『エコ・スクール』が爆誕していた。
教室には木漏れ日が差し込み、廊下は芝生になり、天井にはシャンデリア(発光する花)が輝いている。
「コ……コウシャ……キレイ……」
ゴーレムだった瓦礫の塊も、可愛らしいトピアリー(植木細工)のクマさんに変化して鎮座していた。
「……やりすぎた」
俺は膝をついた。魔力切れだ。
「素敵! ハルお兄ちゃんとの愛の巣ね!」
ヒヅキが俺に抱きつく。
「素晴らしい! これなら室内で日光浴ができる!」
ヒマワリが光合成を始める。
「……芝生、寝心地いい」
アオイが廊下で熟睡する。
「……綺麗な場所。汚すのが楽しみ」
ミサキが不穏なことを言う。
「これが魔王城……! 悪くない!」
サヤカが玉座(教卓)に座る。
担任(筋肉)が戻ってきて、涙を流して親指を立てた。
「合格だ! 明日から夏休みを許可する! ただし、この校舎の管理(水やり)は貴様らの当番だ!」
こうして、俺たちは夏休みを手に入れた。
だが、俺の「平凡な学校生活」は、完全にファンタジーの領域へと旅立ってしまった。
これが、女神のやることか。
夏休み。
それは、さらなる地獄の幕開けである。
お読みいただきありがとうございます!
「学校が神殿になった」「ハルのリフォーム技術がプロ級」と思っていただけたら、
ブックマークや評価(★)をズガガガ!と建設していただけると、校舎の耐久度が上がり、女神(作者)の設計図が輝きます!
さて、苦難の一学期を乗り越え、ついに彼らが手に入れたもの。
それは学生の特権、「夏休み」です!
しかし、このメンバーで行く海が、ただの海水浴で終わるはずがありません。
次回、「第一部・最終回編」です!
【次回予告】
『あらあら、ハルくん。校舎を神殿に改造して、神(私)への信仰心を示しましたか?
ご褒美に、楽園へご招待!
青い海! 白い砂浜! そして――「対・界滅級結界」に囲まれた無人島!
水着回? いいえ、それは防具の博覧会!
スイカ割り? いいえ、それは「機動要塞スイカ」との攻城戦!
バーベキュー? いいえ、それは爆発です!
「尺が足りない! 全イベントを同時に消化して、最終回っぽく散りなさい!」
夜空を焦がすのは花火か、それとも俺たちの命の灯火か。
次回、これが女神のやることか。
『本編第九章 夏色ハレーション(核爆発)と、逝き急ぐ青春』
さあハルくん。第一部完結よ! 水着審査(防御力ゼロ)を生き延びて、感動のフィナーレを迎えなさい!(ポロリはないけど、ポロッと死ぬかも☆)』




