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これが女神のやることか  作者: これが女神製作委員会
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第一章 ハッピーバースデー

「さて、今日は何の日でしょうか?」


「俺の誕生日に決まってるだろ」


 ……今の返しは良くなかったな。

 俺を抱きかかえているコイツが、これ以上ないニヤケ顔を晒しているのを見て、俺は即座に反省した。

 淡桃色の髪を二つに結び、少女と言っても差し支えない幼さを感じさせる相貌をした女性。

 誰がどう見ても、まさか俺たちが親子だとは思わないだろう。


「おめでとう! ハルくんも今日で5歳。立派な男の子になったね!」


 優しい手つきで俺の頭を撫でる。抱きしめられている状態のため、抵抗できないのが悔しい。


「恥ずかしいからやめてくれ」


「やめません。私にはハルくんを可愛がる権利があります」


 そうしてより一層激しく可愛がられることになる。このままでは一生コイツのおもちゃだ。


「そんなことより、今日は大事な用事があるんだろ」


「……そうね。それでは、計画の針を進めましょうか」


 5年前、俺はこの国に生を受けた。正確には、連れてこられた。

 自らを『女神』と自称するこの女――桜川モモネは、平々凡々で何もない俺にどこで目をつけたのか、前世の人生の幕を勝手に閉じ、どことも知れぬ異世界に転生させたのだ。

 その上、俺の第二の人生を特等席で鑑賞するためにと、しれっと母親のポジションにつきやがった。コイツから自分が産まれたなんて考えたくない。

 しかし、大事に育てられたのも事実。

 思えば、この5年間は幸福な日々だった。なんか複雑だ。

 そして、この国では5歳を迎えた子供に一つの試練が課される。

 そう、公園デビューだ。


 ◇


「……いつも思うんだが、ここの世界観どうなってんの?」


 地面から浮いて移動するエアカーを眼下にしながら、空中歩道を優雅に歩く。

 天を貫くかのようにして周りに建ち並ぶのは、数え切れないほどの高層ビル群。

 空を覆う透明な全天候対応シェルターにより完全に気象制御されているため、非常に快適な気候。

 瞳に映し出されるのは、網膜投射型デバイスによる生活サポート情報の数々。


「何度も言ってるけど、剣と魔法のファンタジー世界よ」


 ……嘘だろ。

 この風景のどこに、剣と魔法のファンタジー要素があるというのか。

 ジト目で見つめる俺と目が合うと、悪びれもせずに女神(母)は続ける。


「クソ便利な魔法があるのだから、世の中も便利で快適に暮らせるようになるのは当たり前でしょ? どうして中世の不便な文明レベルで暮らさなきゃならんのですか」


「それは、まあ、そうだろうけど」


 言っていることは正論だが、情緒というものがない。


「そんなことより。ほら、あれが今日の戦場よ」


 指差された先には、色とりどりの花と緑の木々が並び、綺麗に整地された広い空間があった。

 近隣の子供が集まり、様々な遊具で思い思いに遊んでいる。まさに公園。

 ――この世界では、誰もが魔法を使える。

 心の力を源泉とする魔法は、精神の発達が充分でない子供が扱うと暴走の危険がある。そのため、ある程度心の制御が可能になる年齢、5歳を迎えるまでは子供だけで遊ばせるようなことはしない。

 そうして5歳になった子供たちだけが、初めて公園デビューを果たすのだ。


「こんにちは! 皆さんはじめまして!」


 女神を名乗るだけのことはあり、コイツは無駄に顔だけは良い。

 全力で振り撒く愛嬌は、老若男女問わず魅了する。ママ友グループへの先制攻撃(挨拶)は完璧だ。


「私は桜川モモネです。うちの子もやっと5歳になったので、今日が公園デビューなんです。ほら、ハルくんもご挨拶して」


「こんにちは。桜川ハルです。よろしくおねがいします」


 そんな自称女神に唯一感謝することがあるとすれば、世の子供が親に似るように、俺も少なからず美形の遺伝子を分けてもらえた、ということだろう。


「お母さん、遊びに行っていい?」


「ええ。行ってらっしゃい。気をつけてね」


 この場はコイツに任せて、俺は目的を果たしに行くとしよう。

 人の人生を弄ぶことに極上の悦びを見出す性格のねじ曲がった女神さまは、俺を転生させる際に周到な計画を練り上げたそうだ。

 その内の一つ――俺には、幼なじみがいる。

 正確には、これから幼なじみにならなければならない人がいる。

 俺と同じ日、同じ病院で生を受けたその子は、女神の陰謀によって『世界の破壊者』になる運命を背負わされているらしい。

 その運命を回避する唯一の手段が、俺と幼なじみになること。

 今日この日が、運命の分岐点だ。

 ……問題は、誰がその幼なじみか分からないことだな。


「おいおい、もう動けないのか? もっと愉しませろよな」


「……お願いします。もう許してください」


 公園の中央。噴水を背にした子供が、うずくまって涙を浮かべる子供を見下ろしていた。

 どこに行ってもこういうイジメみたいなのはあるんだな。

 関わりたくはないが、放っておくのも寝覚めが悪い。

 俺が近づこうとした、その時。

 目が合った。

 その瞬間に感じる、脳から全身に、バチンと電流が走るような感覚。

 嘘だろ。これが運命だとでも?

 いじめっ子の方かよ!


「こんにちは! 今一緒に遊んでくれる人を探してて。俺と遊んでくれるかな?」


「……誰?」


 いじめっ子が振り向く。

 闇夜を彷彿とさせる艶やかな黒髪。右目の下の泣きぼくろがチャーミング。

 だが、幼い子供にあるまじき嗜虐的な笑みを浮かべているせいで、綺麗な顔が台無しだ。


「へぇ。ボクと遊んでくれるの?」


 あ、これヤバい奴だ。

 ドバアァァッ!

 噴水の水が勢い良く噴き上がり、不自然な方向転換をして俺に向かって来る。

 やっぱり魔法が使えるんだな。俺は冷静に対応策を考え出す。

 今にも覆い被さらんとする水流の勢いを利用しつつ、瞬時に冷気魔法で凍らせてゆく。

 即席アイススライダーの完成だ。


「水遊びにはまだ寒いんじゃないかな。代わりに滑り台でもどう?」


「気分じゃない」


 パリンッ!

 腕を振り払うような動作一つで、滑り台がかき氷のような粉雪に変わって壊される。

 強い。5歳児の出力じゃない。


「ねえ、鬼ごっこしようよ。もちろん、鬼はボクね」


 不自然な風が頬を撫でる。

 十歩以上は離れていると思っていたが、瞬きの間に距離を詰められ、今では手を伸ばせば届きそう。

 このお子様活発すぎませんかね。


「お嬢様! いい加減にしてください!」


 その時、どこからともなく現れたメイドさんが、いじめっ子を捕獲した。


「まて、まだボクは負けていない――」


「帰りますよ!」


 駄々をこねる子供を拳骨一発で黙らせ、メイドさんが無理矢理引きずって行く。

 何だったんだ、一体。

 だが、確信した。あいつが俺の『運命の幼なじみ』だ。


 ◇


 数日後。

 俺と、あの子――すめらぎヒヅキは、奇妙な関係になっていた。

 顔を合わせれば魔法バトル。会話はない。

 だが、事件は起きた。


「……あれま。楽しくお話している間に、大変なことになってるわね」


 公園のベンチで女神(母)と話していた俺の目に映ったのは、一台のゴミ収集車。

 そして、それに無理やり押し込まれるヒヅキの姿だった。


「誘拐かよ! しかもゴミ収集車って!」


「公用車なら足がつかないと踏んだのね。賢い」


「感心してる場合か! 助けに行くぞ!」


 俺は風魔法で身体を浮かせ、収集車を追跡した。

 着いた先は、街外れの古いマンション。

 最上階の一室。

 俺が窓から侵入すると、そこには椅子に縛られたヒヅキと、二人の男がいた。

 一人は巨体の男、『小石』。

 もう一人はリュックを背負った男、『陸田』。


「ガキにしちゃあ凶悪すぎだな」


「でも、所詮は子供。大人なめんな」


 ドガッ!

 俺はいきなり壁に叩きつけられた。

 陸田の『瞬間移動』だ。反応できない。


「くそっ……!」


「俺は昔から、握力測定と一気飲みだけは得意だったんだよ」


 小石が俺の放った水魔法を飲み干し、俺の首を締め上げる。

 窒息寸前。

 魔法は『心の力』。恐怖で心が萎縮すれば、魔法も弱くなる。

 だが。


(おい、クソ女神。見てるんだろ。なんとかしろ)


 心の中で毒づく。すると即座に、脳内にあのふざけた声が響いた。


『あらあら、ママに助けを求めるなんて、ハルくんもまだまだ甘えん坊さんですねぇ』


(うるさい。死んだら元も子もないぞ)


『思い出してごらんなさい。この世界の魔法の源は?』


(心の力、だろ)


『ええ、そう。ハルくんの魔法は理論的すぎて可愛げがないの。「密度」だの「係数」だの。そんなのファンタジーじゃないわ!』


(今ここでダメ出し!?)


『もっとこう、パッションよ! 気合と根性! そして愛! 理屈を超えた熱い想いこそが、この世界の真理ギャグを凌駕するのです! さあ、叫びなさい!』


 ……こいつ、絶対に楽しんでやがる。

 だが、悔しいが今のままでは勝てないのも事実。

 俺は覚悟を決める。理屈を捨てる。IQを溶かす。

 俺は今、ただの5歳児だ。


「愛と! 勇気で! ぶっ飛ばす!!」


 俺はヤケクソ気味に叫びながら、ありったけの魔力を解放した。

 ドォォォォン!!

 俺の体を中心に、ピンク色の衝撃波が爆発する。

 それはただのエネルギーではない。俺の名字、桜川にちなんだ、大量の桜の花びらの暴風だ。

 そして何より――


「うげっ、口に入っ……ぺっ、ぺっ! なんだこれ、餅か!?」


 粘着質だった。

 桜餅の葉っぱのような香りと、餅のような粘り気。それが無限に溢れ出し、部屋中を充満していく。


「り、陸田! 後ろに回ってやれ!」


「わ、わかった!」


 陸田の姿がかき消える。俺の背後へ瞬間移動するつもりだ。

 だが、甘い。

 俺の魔法は今、部屋の空間密度を「桜餅」で飽和させている。


「ぐべっ!?」


 背後の空間に出現しようとした陸田が、何もない空中で弾き出され、壁に激突した。

 テレポート先の座標に、すでに高密度の「モチ」が詰まっていたらどうなるか。

 物理法則で考えれば核融合でも起きそうだが、この世界はファンタジーだ。単に「満員電車に無理やり乗ろうとして押し返された」みたいな挙動で済む。


「瞬間移動は、移動先の空間が空いてなきゃできない……! この部屋、モチでパンパンだ!」


「その通りだ! 食らえ、必殺・桜餅・乱れ雪月花とくもり!」


 俺は両手を突き出す。

 渦巻く花びらとモチの奔流が、二人を飲み込む。

 数分後。

 部屋の中は、春の和菓子フェア会場のような甘ったるい匂いに包まれていた。

 犯人たちはモチまみれで気絶している。


「……すごい」


 ぽつりと、声が聞こえた。

 振り返ると、椅子に座らされたままの黒髪の女の子――ヒヅキが、目を丸くして俺を見ていた。

 まずい。今の恥ずかしい必殺技を見られた。


「あー、いや、今のはその」


「綺麗……」


 ヒヅキの瞳が、舞い散るピンク色の光を反射して輝いている。

 その頬は紅潮し、先ほどまでの生意気な表情は消え失せていた。


「君、魔法少女なの?」


「男だ」


 即答する。これだけは譲れない。


「助けてくれて、ありがとう……お兄ちゃん」


 上目遣い。潤んだ瞳。

 あ、これダメなやつだ。俺の中の警鐘が鳴り響く。

 彼女の俺を見る目が、獲物を見つけた肉食獣のそれに変化しつつある。


『おめでとうハルくん! フラグ建築完了です! これで世界滅亡ルートは回避……された代わりに、ヤンデレ幼馴染ルートが確定しました!』


(ふざけんな! どっちに転んでも地獄じゃねーか!)


 その時、けたたましいサイレンの音と共に、玄関のドアが蹴破られる。


「警察です! ……って、あらぁ?」


 踏み込んできたのは武装警官隊……ではなく、ピンクのエプロンをつけたうちの母親だった。手には何故かフライパンを持っている。


「ハルくん! ママが助けに来ましたよ! ……あら、もう終わっちゃった?」


 部屋の惨状を見て、母さんは「てへっ」と舌を出した。


「さすが私の息子。愛の力ですね!」


「帰っていいか。もう疲れた」


 これが、俺の5歳の誕生日。

 そして、女神のやらかした最初の事件。

 俺の平穏な異世界ライフは、まだ始まったばかりだ。

お読みいただきありがとうございます!

もし「面白かった」「続きが気になる」「モチの窒息攻撃は怖い」と思っていただけたら、

ブックマークや評価(★)をいただけると、女神のテンションが上がり、ハルの寿命が延びます!


【次回予告】

『あらあら、ハルくん。ヤンデレ幼馴染を攻略したと思ったら、次は世界経済が崩壊の危機ですって!?

 急落する株価! 失われる糖分! そして店頭から消えるアイスクリーム!

 絶望するハルの前に現れたのは、自らを「太陽」と名乗る残念な美少女だった!

 

 「貴様が私の庭師か? なら、燃え尽きるまで光合成に付き合え!」

 

 次回、これが女神のやることか。

 『第2話 灼熱のガリガリ君と、沈まない太陽(物理)』

 

 さあハルくん、君の命と100円アイス、どちらが大切かしら?(サービス、サービスぅ☆)』

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