エピローグ ――拾われた未来の、その先で
名簿は更新されなかった。
それは意図された空白であり、見落としではない。GENESISの管理層は、理由を説明できない事象を「未分類」として棚上げする。最適化の網にかからないものは、危険でも価値でもなく、ただのノイズとして扱われる。
だが、ノイズは消えない。
現場に残る。
毒霧圏の外れで、簡易浄化装置が稼働していた。新品ではない。整備途中で、記録上は未回収の遺物だ。誰の所有物でもない代わりに、誰かの今日を支えている。
装置のそばで、子どもが咳をし、やがて笑った。大人はそれを見て、何も言わなかった。言葉にすれば、価値が付く。価値が付けば、回収される。
夜の交易路は少しだけ変わった。
奪うか、通すか、その二択ではない時間帯が生まれた。三日だけ、速度を落とす。医療箱は優先する。帳簿には残らない判断だが、信用は増える。NIGHT RECLAIMERSはそれを覚えた。奪わない選択が、奪う以上の余地を生むことを。
鉄壁都市の外縁では、補修が続いている。
管理権限の外。期限付きの支援。前例という名の小さな歪み。制度は壊れないが、運用は変わる。IRON HAVENはそれを否定しなかった。否定しないという判断が、最も重い決裁になることを、彼らは知っている。
軌道からは、今日も何かが落ちてくる。
遺物か、瓦礫か、まだ名前のない可能性か。ORBIT RELICの回収艇は旋回し、すべてを拾わない選択をする。現場判断という言葉が、少しだけ重みを持つようになった。
ユウは、どこにも記録されていない。
英雄名簿にも、危険人物リストにも、評価関数の注釈にも載らない。名を残さないことは、消えることではない。回収されないことだ。
移動は続く。
拠点を持たず、旗を掲げず、条件を提示しない。呼ばれれば行き、必要がなくなれば去る。拾う基準は言葉にしない。行動だけを置いていく。足りない分を埋め、通れない道を繋ぎ、壊れたものを直す。
ユウトは別の道を選ぶ日もある。
都市に入り、夜に紛れ、また戻る。合流点は決まっていない。だが、余白は地図に載らなくても、探せば見つかる。
焚き火の前で、ユウトが言ったことがある。
「これ、いつまでやる?」
ユウは答えなかった。
答えは期限になる。期限は回収の理由になる。だから、火を見つめ、夜明けを待った。
世界は変わらない。
最適化は続き、管理は強化され、選択肢は整理される。それでも、整理しきれない余白が残る。拾われなかった未来が、点として増えていく。
点は線にならない。
線にならないから、切られない。
夜明け前、空が鳴る。
何かが落ちてくる。
ユウは立ち上がり、拾う準備をする。
それが仕事だ。それ以上でも、それ以下でもない。
拾われなかった未来は、終わらない。
今日を越えるための部品として、
名前のない場所で、静かに使われ続ける。




