前日譚 暴食ヲ知ッタ少女
それは、恐らく『蛇』であった。
断定できないのは、それが姿形を持っていなかったからだ。ただあたりを這える音と、移動して土に刻まれた鱗。前に家の周りで見た、母が教えてくれたから、だから私はそれが『蛇』であったのだと、そう考えたのだ。
──死にたくないと、思った。
それは、恐らく『欲』であった。
『欲』。嫉妬、怠惰、傲慢、強欲、憤怒、色欲──暴食。そう、飢えていたのだ。飢えて、腹が減って、飢餓であった。だから、私は食べたいと『欲』をだした。そんな私を周りの大人が私を餓鬼だと言っていたが、そうであろう。まあ、鬼ではなかったと思うが。私はそう、『思った』のだ。
──生きたいと、願った。
それは、恐らく『本能』であった。
わからない。この先生きていてなにかいいことがあるとか、なにかしたいからとか、そんなのはない。でも、この道を外すのが怖い、わからない感情がそう告げていた。だから、ただ、ひたすら、なぜか、生きたかったのだ。私はそう、『願った』のだ。
──満たされることを、望んだ。
それは、恐らく『求』であった。
なにかが足りない、何かが満ちていない、何かが足りていない。それが何かわらなかった。でも、それでも、私は明確に『求めた』のだ。
目の前で、人が死ぬということを見た。
いや、その時の私はきっと死ぬとか、生きるとか、理解できていなかっただろう。生き物が動かなくなることを知ってはいたが、『死』を正しく知っている人間などいないし、『死』を知らない人間が『生』を知ることもまたない。だから私はあの時に誰かが死ぬとか、理解していなかった。
けれど、生き物が動かなくなることは知っていたのだ。
だから私は母がそう成ってしまった時、もう母には会えないのだと、心のどこかで理解していた。
そして、私はそうは成りたくないとも、確かに思ったのだ。
*
くらい。つらい。……おなかが、すいた。
──■■■■?
わからない。あなたの言葉が、わたしにはわからない。
──■や、■ま■■。
なに? あなたは、なんなの? ──わたしに、何をもとめてるの?
──■■■みを、■て■ない■?
やめて。もう。わからないから。やめてよ。
────食べたい?
──食べて、食べ尽くして、ただ食べたくて、食べたい?
あ。
──喰べたいと、そう思っただろう?
──そう願っただろう? そう望んだだろう?
たべ、たい。
たべて、たべて、たべて、たべて、たべて、たべて、たべてたべて、たべて、たべて、たべて、たべて、たべて、たべてたべて、たべて、たべて、たべて、たべて、たべて、たべて──喰べたい。
──じゃ■、頂■■。
──対価を、代■を、■償を、■■
なに?
……? 急に、くらくなった?
──貴■■右目■を、贄に。
──「い■だ■■す」■、忘■■い■。
おなかが、すいた。




