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街を出て、まだ一刻も経っていなかった。


風が冷たい。

背後には、街の灯り。

前方には、闇しかない。


「……静かすぎます」


ミオが、俺の袖を掴む。


「追手は……?」


「来るなら、もう来てる」


その言葉が終わる前に――

空が、鳴った。


雷鳴ではない。

もっと低く、重い音。


「……っ!」


視界が、反転する。


次の瞬間、俺たちは地面に叩きつけられていた。


「が……っ!」


息が、抜ける。

身体が、言うことをきかない。


「――標的、捕捉」


声。


感情のない、宣告の声。


視界の端。

闇の中から、人影が歩み出てくる。


白を基調とした装束。

顔は、仮面で覆われている。


「……誰だ」


「神の代理人」


淡々と名乗る。


「修復執行官。

 個体名――エル=カリオン」


ぞくり、と寒気が走る。


――観測者と、同じ匂いだ。


「対象は――」


仮面が、こちらを向く。


「世界修復対象・第一級」


ミオが、息を呑む。


「……修復……?」


「破壊された世界を、あるべき形に戻す」


エル=カリオンは、事務的に続ける。


「その過程で生じる

 異常個体の排除を含む」


「……俺が、その“異常”か」


「肯定」


即答だった。


「あなたは、閾値を超えた。

 存在自体が、世界の歪み」


足元の空気が、凍る。


「……ミオ、下がれ」


「……っ、いや……!」


彼女を背に庇う。


だが――


「無意味」


エル=カリオンが、指を鳴らす。


次の瞬間、

空間が折り畳まれた。


「――ぐっ……!」


身体が、内側から圧し潰される。


骨が鳴る。

血が、口に溢れる。


《断界強化――起動》

だが――


動かない。


「……拘束、完了」


視界が、暗くなる。


「……抵抗は、推奨されない」


その時。


「――あはっ」


狂った笑い声が、夜に響いた。


「早いねぇ。

 さすが、神さまは仕事が丁寧」


闇の中から、

カナデが姿を現す。


「……魔族の介入は、想定外」


「でしょ?」


肩をすくめる。


「でもさ――

 それ、世界のため?」


エル=カリオンは、答えない。


代わりに、

俺へと歩み寄る。


「排除を――」


「させないよ」


カナデが、一歩踏み出す。


「だって――」


彼女は、俺を見る。


「この人、

 もう“面白い段階”に入った」


次の瞬間、

二人の間で――衝突が起きた。


衝撃波。


地面が、抉れる。


「……っ!」


その隙に、

圧が緩む。


《断界侵食――反応》

身体が、勝手に動いた。


空間を、殴る。


拘束が、砕けた。


「……異常進行、加速」


エル=カリオンの声に、

初めて“揺れ”が混じる。


「ミオ、走れ!」


叫ぶ。


カナデが、笑う。


「いいね。

 逃げよう」


背後で、

世界が、崩れる音がした。


振り返らない。


振り返れば――

修復される。


夜の闇へ、

二人で、駆ける。


背後で、

エル=カリオンの声が響く。


「――逃走を確認」


「次回接触時、

 完全修復を実行」


その宣告は、

夜に溶けた。


息を切らし、

立ち止まる。


「……追われる理由、分かりました……」


ミオが、震える声で言う。


「ああ」


頷く。


「……俺はもう」


言葉を、探す。


「……世界にとって、

 邪魔なんだ」


カナデが、肩に手を置く。


「違うよ」


笑う。


「世界が、あなたに追いつけてないだけ」


その言葉が、

やけに、胸に残った。


空を見上げる。


星は、変わらず輝いている。


だが――

その下で、

世界は確かに、俺を殺しに来ていた。


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