表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

8

裂け目が閉じてから、街は静かだった。


あまりにも静かで――

誰も、俺に近づこうとしなかった。


「……人が、避けてます」


ミオが、小さく呟く。


広場の瓦礫は片付けられ、

怪我人は治療を受けている。


感謝の言葉も、歓声もない。


あるのは、

距離だけだった。


「……仕方ない」


自分の声が、妙に落ち着いて聞こえる。


――そうだ。

俺は、街を救った。


だが同時に、

“やりすぎた”存在になった。


「回収部隊より、通達がある」


兵の一人が、硬い声で告げる。


広場の中央。

簡易的に設けられた会議の場。


そこに立つのは――

リィナだった。


鎖は出していない。

だが、その姿勢は、戦闘時よりも緊張している。


「……結論を、述べます」


彼女は、周囲を見渡し、

一度だけ、俺を見る。


「あなたは――

 街から出てください」


ざわり、と空気が揺れる。


「理由は?」


淡々と聞く。


リィナは、唇を噛み、

それでも言葉を選ばなかった。


「危険だからです」


「……裂け目は閉じた」


「ええ」


「もう、脅威はない」


「いいえ」


彼女は、はっきりと言った。


「あなたが、脅威です」


言葉が、胸に落ちる。


「……守った相手に、追い出されるのか」


「違います!」


思わず、リィナが声を荒げる。


「あなたを――

 守れないからです」


静まり返る。


「今のあなたは、

 適合者ではありません」


一歩、近づく。


「世界にとっての――

 異常です」


ミオが、震える声で叫ぶ。


「でも……!

 この人がいなかったら……!」


「分かっています」


リィナは、目を伏せる。


「だから――」


顔を上げる。


「粛清ではなく、追放です」


その言葉が、

すべてを物語っていた。


「街に留まれば、

 いずれ正式な命令が下ります」


「……殺せ、と?」


「……はい」


沈黙。


「だから、今ここで決める」


リィナは、俺を真っ直ぐ見る。


「この街を、出てください」


「……護衛は?」


「つけません」


「監視は?」


「しません」


一瞬の、間。


「……生き延びろ、ということか」


リィナは、微かに頷いた。


「それが――

 今の私にできる、限界です」


背後で、

拍手が鳴った。


「うわぁ。

 人間って、やっぱり面白い」


瓦礫の影から、

カナデが現れる。


「助けられて、怖くなって、

 追い出す」


肩をすくめる。


「合理的だね」


「……お前」


「安心して」


彼女は、俺の隣に立つ。


「今日は、戦わない」


耳元で、囁く。


「だって――

 もう選ばれたでしょ」


「……何を」


「こっち側」


ぞくり、と背筋が冷える。


「……ミオ」


振り返る。


彼女は、必死に首を振っていた。


「行かないで……

 ここに……」


「……一緒に、来るか」


その言葉に、

彼女の目が、揺れる。


「……でも……」


「無理は、しなくていい」


――本心だ。


彼女が、壊れる必要はない。


「……私は……」


ミオは、胸に手を当て、

深く息を吸う。


「……行きます」


その声は、震えていたが、

逃げてはいなかった。


「この人を……

 一人には、できません」


リィナが、目を閉じる。


「……分かりました」


そして、低く告げる。


「あなたたちは――

 追放対象です」


兵たちが、道を開く。


街の外へ続く門。


「……次に会う時は」


リィナが、最後に言う。


「……立場が、違います」


「……ああ」


答えは、短い。


門をくぐる。


街の喧騒が、背後で途切れる。


残ったのは――

風と、空と、

居場所を失った二人。


「……ねえ」


カナデが、楽しそうに笑う。


「これで、完全に

 逃げ場なしだね」


――そうだ。


街は救った。

だが、世界からは追い出された。


それでも。


歩き出す足は、止まらない。


ここからが、本当の始まりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ