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4

森に入ってから、ずっと視線を感じていた。


獣でも、人でもない。

もっと――愉しむ者の視線だ。


「……ミオ、止まって」


「え……?」


その瞬間、

空気が――裂けた。


爆音。

地面が抉れ、土砂が舞う。


俺は反射的にミオを抱き寄せ、後方へ跳んだ。


「っ……!」


さっきまで俺たちがいた場所に、

巨大なクレーターができている。


「――いい反応」


軽い声。


瓦礫の上に、女が立っていた。


赤に近い深紅の髪。

軽装だが、隙がない。

何より――その目。


獲物を前にした、捕食者の目。


「逃げてた割に、ちゃんと“揺れてる”じゃない」


「……誰だ」


「名乗る前に、まず一つ」


女は、楽しそうに首を傾げた。


「――あなた、どこまで壊れる?」


次の瞬間、

彼女は消えた。


いや、違う。

速すぎて、視界が追いつかなかった。


背中に、衝撃。


「がっ……!」


地面を転がり、止まる。


「っ……!」


すぐに立ち上がろうとして、

足が言うことを聞かない。


「雑魚じゃない。

 でも、まだ“本気じゃない”」


女は、俺の正面に立っていた。


「――私はカナデ。

 魔族でも、人類でもない」


そう言って、胸に手を当てる。


「戦場が好きなだけの女」


「……ミオ、下がれ!」


叫ぶが、遅い。


カナデの視線が、ミオに向く。


「癒し手?

 ……ふぅん。いい“枷”だね」


一瞬。


殺気が、爆発した。


俺の中の何かが、弾ける。


《断界強化――起動》


世界が、再び歪む。


「……来た」


カナデが、笑った。


「それだよ。

 その顔、その揺れ、その――壊れ方」


次の瞬間、

俺と彼女は同時に踏み込んでいた。


拳と拳がぶつかる。


衝撃波。


木々がへし折れ、地面が砕ける。


「――ははっ!」


カナデが、楽しそうに笑う。


「いいね!

 ちゃんと“世界を殴ってる”!」


「黙れ……!」


連打。

だが、カナデは紙一重で躱し、

逆に、俺の死角へ。


「ほら、もっと!」


腹に、重い一撃。


息が、詰まる。


「っ……!」


だが――

見える。


攻撃の“癖”。

踏み込みの“間”。


《断界視――起動》


世界が、線と点に分解される。


「……そこだ」


拳を、空間ごと殴る。


カナデの身体が、吹き飛んだ。


「……っ!」


木に叩きつけられ、止まる。


一瞬の静寂。


――勝った?


そう思った瞬間。


「……最高」


瓦礫の中から、

カナデが立ち上がった。


血を流しながら、

恍惚とした表情で。


「ねえ、あなた――」


一歩、近づいてくる。


「もっと壊れようよ」


ぞくり、と背筋が震える。


「その先、

 見せてくれるなら――私は、味方になる」


「……何を、言って……」


「簡単」


カナデは、ミオを見る。


「彼女を守りたい?」


「……当たり前だ」


「じゃあ、戦おう」


彼女は、両手を広げた。


「世界が壊れるまで。

 あなたが壊れるまで」


狂っている。


だが――

否定しきれない衝動が、胸を叩く。


「……ミオ」


振り返ると、

ミオは必死に首を振っていた。


「だめ……!

 そんな人、信じちゃ……」


カナデが、肩をすくめる。


「選びなよ」


戦場か。

日常か。


俺は――


答えを、保留した。


「……今は、退く」


「へぇ」


カナデは、少しだけ残念そうに笑った。


「いいよ。

 でも――」


指を鳴らす。


「次に会う時は、

 絶対に“その先”を見せてもらう」


そう言って、

彼女は戦場の気配ごと消えた。


森に、静寂が戻る。


ミオが、震える声で言う。


「……あの人……危険です……」


「……ああ」


危険だ。

だが同時に――


俺の中の“何か”を、

確実に目覚めさせた存在だった。


癒す者。

止める者。

そして――壊させる者。


残る一人は、

まだ、姿を見せない。


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