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3

街の門が見えた瞬間、嫌な予感は確信に変わった。


兵が多すぎる。


普段の出入りを監視する数ではない。

門の内外に配置された兵士たちの装備は重く、

その中央に――異質な一団がいた。


黒い外套。

銀の紋章。

周囲の兵とは明らかに立ち位置が違う。


「……回収部隊」


ミオが、ほとんど声にならない声で呟く。


「隠れてください。私が――」


「いや」


思わず、彼女の腕を掴んでいた。


「ミオが前に出るのは、違う」


言い切った自分に、少し驚く。

だが、それ以上に――胸の奥が拒否していた。


「でも……!」


「俺が行く」


外套のフードを深く被り、門へ向かう。


一歩踏み出した瞬間だった。


「――止まりなさい」


澄んだ声が、場を切り裂いた。


静かなのに、逆らえない声。

兵たちが一斉に道を開く。


そこに立っていたのは――

黒髪を後ろで束ねた、一人の女だった。


年は、俺とそう変わらない。

だが、その目は冷えている。


「フードを外しなさい」


「……理由は?」


「あなたの身体が、すでに“揺れている”」


息が、詰まる。


「適合者。

 それも、制御不全の――危険個体」


周囲の兵が、武器を構える。


「抵抗しなければ、痛いことにはならない」


「……抵抗したら?」


女は、少しだけ視線を伏せた。


「――止めます。

 たとえ、あなたが壊れても」


その言葉に、背筋が冷える。


“止める”

それは、殺すことを含んでいる声だった。


「名前を聞いても?」


「リィナ。

 回収部隊・拘束執行官です」


名乗った瞬間、

彼女の背後に淡い光が浮かび上がる。


鎖。


無数の光の鎖が、空間から滲み出すように現れ、

ゆっくりと揺れていた。


「……ミオ、下がれ」


振り返ると、ミオは青ざめて立ち尽くしている。


「この人は……」


「癒し手ですね。

 ……前線に出るべきではない」


リィナの視線が、ミオから俺へ戻る。


「あなたは、ここで“止まるべき”です」


「止まったら?」


「生きられます」


「……戦えなくなる?」


「はい」


一瞬、迷った。


戦わなければ、壊れない。

壊れなければ――

ミオの怯える顔も、見なくて済む。


だが。


胸の奥で、

あの衝動が、静かに蠢いた。


「……それで、裂け目は?」


リィナの表情が、わずかに揺れる。


「他の適合者が対処します」


「間に合わなかったら?」


沈黙。


それが、答えだった。


「……なら」


一歩、踏み出す。


「俺は、止まれない」


その瞬間、世界が――再び歪む。


「――拘束、開始」


リィナの声と同時に、

光の鎖が俺へと伸びる。


だが――遅い。


見える。

鎖の軌道。

空間の綻び。


拳を振り抜く。


鎖が、砕けた。


「……!」


リィナの目が、大きく見開かれる。


だが次の瞬間、

彼女は歯を食いしばり、さらに鎖を展開した。


「――やはり……」


悲しそうな声だった。


「あなたは、止めなければならない存在だ」


無数の鎖が、空を覆う。


逃げ場はない。

だが――


背後から、

ミオの必死な声が聞こえた。


「お願い……!

 この人を、連れていかないで……!」


リィナの動きが、止まる。


一瞬だけ。

本当に、ほんの一瞬。


その隙に、

俺は地面を蹴った。


次の瞬間、

街の外れへと、二人で駆け出していた。


背後で、リィナの声が響く。


「……逃がします」


兵たちがざわめく。


「ですが――」


彼女の声は、震えていなかった。


「次に会った時は、必ず止めます」


振り返らずに、走り続ける。


――敵だ。

だが同時に、

俺を壊させないために存在する女。


それが、リィナだった。

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