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街の門が見えた瞬間、嫌な予感は確信に変わった。
兵が多すぎる。
普段の出入りを監視する数ではない。
門の内外に配置された兵士たちの装備は重く、
その中央に――異質な一団がいた。
黒い外套。
銀の紋章。
周囲の兵とは明らかに立ち位置が違う。
「……回収部隊」
ミオが、ほとんど声にならない声で呟く。
「隠れてください。私が――」
「いや」
思わず、彼女の腕を掴んでいた。
「ミオが前に出るのは、違う」
言い切った自分に、少し驚く。
だが、それ以上に――胸の奥が拒否していた。
「でも……!」
「俺が行く」
外套のフードを深く被り、門へ向かう。
一歩踏み出した瞬間だった。
「――止まりなさい」
澄んだ声が、場を切り裂いた。
静かなのに、逆らえない声。
兵たちが一斉に道を開く。
そこに立っていたのは――
黒髪を後ろで束ねた、一人の女だった。
年は、俺とそう変わらない。
だが、その目は冷えている。
「フードを外しなさい」
「……理由は?」
「あなたの身体が、すでに“揺れている”」
息が、詰まる。
「適合者。
それも、制御不全の――危険個体」
周囲の兵が、武器を構える。
「抵抗しなければ、痛いことにはならない」
「……抵抗したら?」
女は、少しだけ視線を伏せた。
「――止めます。
たとえ、あなたが壊れても」
その言葉に、背筋が冷える。
“止める”
それは、殺すことを含んでいる声だった。
「名前を聞いても?」
「リィナ。
回収部隊・拘束執行官です」
名乗った瞬間、
彼女の背後に淡い光が浮かび上がる。
鎖。
無数の光の鎖が、空間から滲み出すように現れ、
ゆっくりと揺れていた。
「……ミオ、下がれ」
振り返ると、ミオは青ざめて立ち尽くしている。
「この人は……」
「癒し手ですね。
……前線に出るべきではない」
リィナの視線が、ミオから俺へ戻る。
「あなたは、ここで“止まるべき”です」
「止まったら?」
「生きられます」
「……戦えなくなる?」
「はい」
一瞬、迷った。
戦わなければ、壊れない。
壊れなければ――
ミオの怯える顔も、見なくて済む。
だが。
胸の奥で、
あの衝動が、静かに蠢いた。
「……それで、裂け目は?」
リィナの表情が、わずかに揺れる。
「他の適合者が対処します」
「間に合わなかったら?」
沈黙。
それが、答えだった。
「……なら」
一歩、踏み出す。
「俺は、止まれない」
その瞬間、世界が――再び歪む。
「――拘束、開始」
リィナの声と同時に、
光の鎖が俺へと伸びる。
だが――遅い。
見える。
鎖の軌道。
空間の綻び。
拳を振り抜く。
鎖が、砕けた。
「……!」
リィナの目が、大きく見開かれる。
だが次の瞬間、
彼女は歯を食いしばり、さらに鎖を展開した。
「――やはり……」
悲しそうな声だった。
「あなたは、止めなければならない存在だ」
無数の鎖が、空を覆う。
逃げ場はない。
だが――
背後から、
ミオの必死な声が聞こえた。
「お願い……!
この人を、連れていかないで……!」
リィナの動きが、止まる。
一瞬だけ。
本当に、ほんの一瞬。
その隙に、
俺は地面を蹴った。
次の瞬間、
街の外れへと、二人で駆け出していた。
背後で、リィナの声が響く。
「……逃がします」
兵たちがざわめく。
「ですが――」
彼女の声は、震えていなかった。
「次に会った時は、必ず止めます」
振り返らずに、走り続ける。
――敵だ。
だが同時に、
俺を壊させないために存在する女。
それが、リィナだった。




