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違和感は、遅れてやってきた。


「……おかしい」


世界の縁。

俺は、裂け目の“芽”に指をかけたまま、動きを止めていた。


「何が?」


隣で、カナデが首を傾げる。


「……薄い」


《断界侵食――最小》


いつもなら、

引き抜けば終わる。


だが今回は――

手応えが、二つあった。


「……芽が、重なってる……?」


観測者の声が、

一拍遅れて届く。


「――警告。

 裂け目構造、複合型」


「……は?」


カナデが、舌打ちする。


「二重構造か。

 珍しいね」


「……時間は」


「……残り、十五秒」


短すぎる。


「……選択だね」


カナデが、

軽い声で言う。


「どっちを先に取る?」


「……両方だ」


即答した。


「……欲張り」


だが、

否定はしない。


俺は、

二つの“芽”に同時に触れた。


――瞬間。


世界が、軋んだ。


「……っ!」


輪郭が、

一気に削れる。


《存在位相、急低下》


「――離して!」


カナデが、

俺の肩を掴む。


「それ、

 やりすぎ!」


「……まだ……!」


引き抜く。


一つ目。

成功。


だが――

二つ目が、暴れた。


「……しまっ……」


裂け目が、

部分的に開く。


完全ではない。

だが――

遅すぎた。



世界の内側。


遠くで、

悲鳴が上がる。


映像のように、

それが“見えてしまう”。


街道沿いの小さな村。

夜警が、吹き飛ばされる。


「……被害……」


観測者の声が、

低くなる。


「……発生、確認」


胸の奥が、

冷たく沈む。


「……初めて、だな」


カナデが、

苦い顔をした。


「……開かせた……」


俺は、

拳を握る。


「……間に合わなかった」


裂け目は、

すぐに閉じた。


だが――

“何も起きなかった”ことには、ならない。


「……行く」


「どこへ?」


「……内側だ」


「……バレるよ」


「……それでも」


選択は、

もう終わっている。


《断界侵食――強制》


身体を、

世界に“引っかける”。


「……無茶だって」


カナデは、

それでも隣に立った。


「……一人で、

 背負わせない」



村は、

静まり返っていた。


家屋が、

半壊している。


血の匂い。


「……遅かった……」


生存者は、いる。

だが――

全員ではない。


倒れた夜警。

泣き叫ぶ子供。


「……世界外仕事の、

 “限界”だね」


カナデが、

低く言う。


「……未然消去が前提。

 発生後は――」


「……英雄の仕事になる」


それが、

一番やってはいけない役割だ。


俺は、

動けなかった。


「……俺が……」


「……違う」


カナデが、

即座に否定する。


「世界が、

 複雑になってる」


それでも。


胸の奥で、

初めての後悔が、

はっきりと形を持った。


「……全部は、

 救えない……」


その言葉が、

重い。


観測者の声が、

静かに告げる。


「――失敗記録、追加」


「……消せないのか」


「消しません」


即答だった。


「これは――

 あなたが、人間である証拠」


救いにならない。


だが、

否定もできない。



世界の縁へ戻る。


夜は、

まだ深い。


「……初失敗、

 どうする?」


カナデが、

軽く聞く。


「……次は」


答えは、

一つしかない。


「……欲張らない」


「……成長だね」


小さく、笑う。


「でも――」


視線を、

世界の内側へ。


「……忘れない」


あの村を。

あの悲鳴を。


世界外仕事は、

万能じゃない。


救えない夜も、ある。


それを知ったことが、

この仕事の――

本当の始まりだった。


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