22
「――警告」
その声は、静かすぎて、
怒りとも恐怖とも違った。
「……何だ」
世界の縁。
俺が立つ場所に、観測者は現れていた。
フードの奥の目が、
いつもより――近い。
「あなたは、
声を使いました」
「……ああ」
否定しない。
「彼女に、
届いた」
一拍。
「……届いてしまいました」
観測者は、言い直す。
その違いが、
嫌な予感を連れてくる。
「……何が起きる」
「起きた、です」
空間に、
薄い“線”が浮かぶ。
それは、
世界の記録が使う――
索引。
「世界は、
あなたの存在を“見失った”」
「……それは、計画通りだ」
「はい」
観測者は、淡々と続ける。
「ですが――
他者の認識を介した干渉は、
例外を生みます」
「……ミオが、
俺を認識した」
「正確には」
観測者が、訂正する。
「彼女の“癒しの回路”が、
あなたの位相に触れた」
「……癒しが、
アンテナになった、か」
「理解が早い」
だが、
その次の言葉が、重い。
「代償は、
索引の一部再生成」
線が、
微かに脈打つ。
「神の代理人は、
まだ気づいていません」
「……だが」
「執行官級なら、
違和感として拾えます」
胸の奥が、
静かに冷える。
「……リィナか」
「可能性は高い」
観測者は、
視線を外さない。
「あなたが、
彼女に“会わない選択”を
続けてきた理由――」
一拍。
「それが、崩れ始めています」
沈黙。
「……声を、
使うなということか」
「今後は、
極力」
「……極力、か」
「完全禁止ではありません」
その言葉が、
さらに重い。
「あなたは、
人間性を完全に捨てていない」
「……それは、
弱点だと?」
「強みであり、
危険因子です」
観測者は、
少しだけ声を落とす。
「世界外存在が、
他者と繋がり続けた例は――」
言葉を、
選ぶ。
「長く、保ちません」
「……末路は」
「索引が再構築され、
発見される」
「……その時は」
「再び、
修復対象です」
重い沈黙。
「……それでも」
俺は、
空を見る。
「……後悔はない」
「……でしょう」
観測者は、
僅かに頷いた。
「では、
対策を提示します」
「……聞こう」
「声を、分散させてください」
「……分散?」
「一人に、
深く届かせない」
説明は、簡潔だ。
「あなたの“存在波”を、
複数の役割に分ける」
「……カナデ、
リィナ、
そして……」
「彼女」
観測者は、
はっきり言った。
「一人に集中しない関係性が、
あなたを隠します」
「……皮肉だな」
「合理的です」
観測者は、
感情を挟まない。
「あなたが、
誰か一人だけを選べば――」
「世界は、
そこから掴みます」
「……分かった」
短く、答える。
「……ミオには」
「声は、
もう十分に届きました」
観測者は、
そう言って、
距離を取る。
「次に届くのは、
危険信号です」
「……覚えておく」
観測者は、
最後に一言だけ残した。
「優しさは、
世界にとって――
最大の手がかりです」
そして、
消えた。
世界の縁に、
静寂が戻る。
「……声が、
傷になる、か」
それでも。
俺は、
胸の奥に残る――
あの返事を、
否定できなかった。
代償は、
受け取った。
だから次は――
選び方を、間違えない。
世界に見つからず、
それでも――
誰も、見捨てないために。




