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目を覚ました時、空はもう裂けていなかった。


いや、正確には――

見えなくなっていただけ、らしい。


「無理に動かないでください。今は……落ち着いてますから」


柔らかな声に導かれ、視線を向ける。

簡易的な布の天幕。その下で、俺は寝かされていた。


隣に座っていたのは、あの少女だ。


「……ここは?」


「街道の外れです。裂け目が一時的に閉じたので……今なら、街まで行けます」


街。

その言葉に、胸の奥が少しだけ現実へ引き戻される。


「……名前、聞いてなかったな」


「……ミオ、です」


小さく名乗る。

その声音は、まだ少し震えていた。


「あなたは?」


「……覚えてない。多分、転生者だと思う」


そう言うと、ミオは一瞬だけ目を見開き、

すぐに困ったように笑った。


「やっぱり……」


「やっぱり?」


「さっきの戦い方。普通の人じゃ、ありませんでした」


否定はできなかった。

思い返すだけで、拳の奥が疼く。


「この世界、どうなってる?」


ミオは少し言葉を選び、

それから、淡々と話し始めた。


「世界には……“裂け目”があります。

 あれが開くと、魔物が出てきます」


「さっきの、あれか」


「はい。止められるのは、“適合者”だけ。

 ……あなたみたいな人です」


適合者。

どこかで聞いた言葉だ。


「じゃあ、みんな戦ってるのか?」


「……いいえ」


ミオは首を振った。


「多くの人は、逃げるだけです。

 適合者は、国に集められます」


「集められる?」


「……徴用、です」


その一言で、察しがついた。


「拒否は?」


「できません。

 拒否できた人は……私は、知りません」


空気が、重くなる。


「ミオは?」


「私は……癒し手です。

 戦えません。だから、前線には行かされません」


それでも、彼女は俺の傷を癒した。

逃げもせず、魔物の死体の横で。


「……怖くなかったのか?」


問いかけると、ミオは少し俯いた。


「……怖かったです。

 でも、あなた……壊れそうだったから」


壊れそう。

その言葉が、妙に胸に残る。


「強くなる人ほど、壊れていきます。

 ……だから、誰かが、支えないと」


その“誰か”が、

彼女なのだと、言外に伝わってきた。


「街に着いたら、どうする?」


「……分かりません。

 でも、あなたは……隠した方がいい」


「隠す?」


「転生者だと分かれば、すぐに連れて行かれます」


ミオはそう言って、

俺に外套を差し出した。


「顔、見せないでください。

 目立ちますから」


受け取りながら、ふと思う。


――なぜ、そこまでしてくれる?


その疑問を口にする前に、

遠くから、鈍い鐘の音が響いた。


ゴウン、ゴウン、と。


ミオの顔色が変わる。


「……街の警鐘です」


「魔物?」


「いえ……“回収部隊”」


その言葉に、嫌な予感が走る。


「適合者を、回収する部隊です」


俺を見るミオの目が、揺れた。


「……行きましょう。急いで」


その手が、俺の袖を掴む。


逃げるように歩き出しながら、

俺は空を見上げた。


雲の向こう。

見えなくなっただけの裂け目。


そして、近づいてくる――

この世界の“常識”。


戦う前から、

すでに逃げ場はなかった。


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