表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

14

報告は、短い。


「対象、沈黙。

 執行、完了」


それだけを告げれば、

回線は切れた。


森は、静かだった。


鳥の声。

風に擦れる葉の音。


――あまりにも、普通だ。


剣を、地面に落としたまま、

私は立ち尽くしていた。


「……終わった」


誰に言うでもなく、

そう呟く。


だが、

胸の奥が――重い。


規定通り。

訓練通り。

命令通り。


それなのに。


「……なぜ……」


膝が、崩れた。


剣の柄に、

血が付いている。


――彼の血だ。


「……私は……」


“止める”と、言った。


“殺す”とは、言わなかった。


だが結果は、同じ。


「……違う……」


声が、震える。


「……違う……」


私は、

彼を止めるために来た。


世界のために。

街のために。

人々のために。


――そして。


ほんの、少し。


彼のために。


「……なのに……」


目を閉じる。


思い出すのは、

最初に会った時の目。


怯えも、傲慢もない。

ただ――

困っている人を放っておけない目。


「……優しすぎる……」


だから、壊れる。


だから、

止めなければならなかった。


理屈は、分かっている。


「……分かっているのに……」


指先が、

小刻みに震えた。


――報告は、終わった。


世界は、

“修復された”と判断する。


それで、

すべてが終わるはずだった。


「……リィナさん……」


背後で、

か細い声がした。


振り返る。


ミオだ。


泣いていない。

ただ、顔色が、ひどく悪い。


「……確認、しますか」


職務的な言葉が、

勝手に口をつく。


「……」


ミオは、首を振った。


「……しません」


一歩、前に出る。


「……でも……」


私を見る。


「……あの人……

 最後まで、あなたを信じてました」


その言葉が、

刃になった。


「……」


「……だから……」


ミオは、唇を噛む。


「……ありがとう、ございました」


礼を、言われる。


――最も、言われたくない言葉を。


「……やめてください……」


声が、掠れる。


「……感謝される資格は……」


「……あります」


ミオは、静かに言った。


「……あなたは……

 “止める側”として……

 最後まで、向き合いました」


それは、

慰めだったのか。


それとも、

別れの言葉だったのか。


ミオは、

それ以上何も言わず、

森の奥へと消えた。


一人になる。


私は、

ゆっくりと立ち上がり、

剣を拾う。


血は、

まだ――温かい。


「……報告通り……」


呟く。


「……世界は……

 守られた……」


だが。


胸の奥に残るのは、

守れなかったものだけだ。


「……もし……」


空を、見上げる。


「……もし……

 別の選択が……」


考えるな。


それは、

執行官の禁忌だ。


――なのに。


「……生きていて……

 ほしかった……」


その一言が、

零れ落ちた。


世界は、

彼の“死”を記録した。


だが私は知っている。


あの瞬間――

彼は、まだ温かかった。


剣を、握り締める。


「……次に会う時は……」


言葉が、続かない。


会うはずが、ない。


――そう、思っているのに。


胸の奥で、

消えない予感が、

静かに疼いていた。


止める剣は、

確かに振り下ろした。


だが――

後悔まで、止めることはできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ