14
報告は、短い。
「対象、沈黙。
執行、完了」
それだけを告げれば、
回線は切れた。
森は、静かだった。
鳥の声。
風に擦れる葉の音。
――あまりにも、普通だ。
剣を、地面に落としたまま、
私は立ち尽くしていた。
「……終わった」
誰に言うでもなく、
そう呟く。
だが、
胸の奥が――重い。
規定通り。
訓練通り。
命令通り。
それなのに。
「……なぜ……」
膝が、崩れた。
剣の柄に、
血が付いている。
――彼の血だ。
「……私は……」
“止める”と、言った。
“殺す”とは、言わなかった。
だが結果は、同じ。
「……違う……」
声が、震える。
「……違う……」
私は、
彼を止めるために来た。
世界のために。
街のために。
人々のために。
――そして。
ほんの、少し。
彼のために。
「……なのに……」
目を閉じる。
思い出すのは、
最初に会った時の目。
怯えも、傲慢もない。
ただ――
困っている人を放っておけない目。
「……優しすぎる……」
だから、壊れる。
だから、
止めなければならなかった。
理屈は、分かっている。
「……分かっているのに……」
指先が、
小刻みに震えた。
――報告は、終わった。
世界は、
“修復された”と判断する。
それで、
すべてが終わるはずだった。
「……リィナさん……」
背後で、
か細い声がした。
振り返る。
ミオだ。
泣いていない。
ただ、顔色が、ひどく悪い。
「……確認、しますか」
職務的な言葉が、
勝手に口をつく。
「……」
ミオは、首を振った。
「……しません」
一歩、前に出る。
「……でも……」
私を見る。
「……あの人……
最後まで、あなたを信じてました」
その言葉が、
刃になった。
「……」
「……だから……」
ミオは、唇を噛む。
「……ありがとう、ございました」
礼を、言われる。
――最も、言われたくない言葉を。
「……やめてください……」
声が、掠れる。
「……感謝される資格は……」
「……あります」
ミオは、静かに言った。
「……あなたは……
“止める側”として……
最後まで、向き合いました」
それは、
慰めだったのか。
それとも、
別れの言葉だったのか。
ミオは、
それ以上何も言わず、
森の奥へと消えた。
一人になる。
私は、
ゆっくりと立ち上がり、
剣を拾う。
血は、
まだ――温かい。
「……報告通り……」
呟く。
「……世界は……
守られた……」
だが。
胸の奥に残るのは、
守れなかったものだけだ。
「……もし……」
空を、見上げる。
「……もし……
別の選択が……」
考えるな。
それは、
執行官の禁忌だ。
――なのに。
「……生きていて……
ほしかった……」
その一言が、
零れ落ちた。
世界は、
彼の“死”を記録した。
だが私は知っている。
あの瞬間――
彼は、まだ温かかった。
剣を、握り締める。
「……次に会う時は……」
言葉が、続かない。
会うはずが、ない。
――そう、思っているのに。
胸の奥で、
消えない予感が、
静かに疼いていた。
止める剣は、
確かに振り下ろした。
だが――
後悔まで、止めることはできなかった。




