12
七日。
それは、猶予というには短く、
覚悟を決めるには長すぎる時間だった。
焚き火を囲み、俺たちは座っていた。
誰も口を開かない。
最初に沈黙を破ったのは――ミオだった。
「……私」
小さく、けれどはっきりと。
「七日間、
治しきることは、できません」
胸が、少しだけ締め付けられる。
「……でも」
彼女は顔を上げる。
「壊れる速度を、
遅らせることはできます」
「……無理はするな」
「します」
即答だった。
「しないと……
追いつけないから」
それは、弱音ではなく、
役割宣言だった。
「私は――
“完全に治す人”じゃありません」
手を、胸に当てる。
「あなたが、
今日を生き延びるための人になります」
癒しは、限界を知ったからこそ、
“現実的”になった。
次に口を開いたのは、
焚き火の向こうで足を組んでいた――カナデ。
「じゃあ、私」
楽しそうに笑う。
「七日間、
一番危ない場所を嗅ぎ回る」
「……囮か」
「正解」
肩をすくめる。
「神の代理人、回収部隊、
どっちも“匂い”が違う」
唇を舐める。
「先に見つけて、
先にぶつかって――」
俺を見る。
「あなたに、選択肢を残す」
「……それは、
自分が狙われるってことだ」
「うん」
悪びれもせず。
「でもさ」
一瞬、真面目な目になる。
「あなたが壊れる瞬間って、
だいたい独りの時でしょ」
言い返せない。
「だから、
一番前は私が取る」
煽る側は、
初めて“守るために煽る”役割を引き受けた。
「……次」
俺が言うと、
空気が、少し重くなる。
皆が分かっている。
リィナの席だ。
だが、その名は、
ここにはいない。
「……彼女は」
ミオが、言いづらそうに口を開く。
「……七日後……」
「来る」
俺が、答える。
「必ず」
その時。
焚き火の炎が、
一瞬だけ、逆流した。
音もなく、
一人の影が現れる。
フードを被った、細身の女。
「――議論は、概ね妥当」
冷たい声。
だが、
どこか――疲れている。
「……あなたは……」
ミオが、息を呑む。
「観測者」
フードの奥で、
微かに目が光る。
「あるいは――
記録係」
彼女は、俺を見る。
「あなたは七日後、
粛清される確率が――」
一拍。
「七八%」
重い数字。
「……下げられるか」
「可能」
即答だった。
「ただし――」
一歩、近づく。
「世界を、欺く必要がある」
「……方法は」
「あなたを、
“死んだことにする”」
空気が、凍る。
「……擬装死か」
「正確には、
観測上の死亡」
彼女は淡々と続ける。
「世界は、
“確認できない存在”を追えない」
「……代償は」
「あなたの存在は、
以後――」
一瞬、言葉を探す。
「世界の記録から、外れる」
戻れない。
それは、
リィナのいる“世界”からも。
ミオが、唇を噛む。
カナデが、楽しそうに笑う。
「最高じゃん」
「……お前は、
軽すぎる」
「いいでしょ」
肩をすくめる。
「壊れるより、消える方がマシ」
観測者が、最後に言う。
「私は、
七日目に“死”を記録する」
「それまで、
あなたたちは――」
視線を巡らせる。
「彼を生かしなさい」
炎が、元に戻る。
彼女の姿は、
最初からいなかったかのように消えた。
沈黙。
七日間の“役割”は、
すべて決まった。
癒しは、今日を生かす。
煽りは、前に立つ。
観測は、世界を欺く。
そして――
止める者は、七日後に来る。
「……なあ」
俺は、焚き火を見る。
「それでも、
いいのか」
ミオが、頷く。
「……選びました」
カナデが、笑う。
「今さらでしょ」
俺は、息を吐く。
七日間。
それは、
**全員が“自分の役割を背負う時間”**だ。
そして七日後――
止める女が剣を振るう時。
俺は、
この選択を、
後悔しないために立っている。




