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目を覚ました瞬間、世界が壊れていると分かった。


空が、ひび割れていた。


青空の中央に走る黒い裂け目。

稲妻のように歪んだそれは、ゆっくりと脈打ち、周囲の景色を軋ませている。

見ているだけで、頭の奥が痛くなった。


「……夢、じゃないよな」


喉から出た声は、ひどく乾いていた。


最後の記憶は――事故。

避けようもなく迫ってきた光と衝撃。

そして、何も考える暇もなく途切れた意識。


なのに今、俺は生きている。


いや、生きているというより――

放り出された、という感覚に近かった。


「ここは……」


立ち上がろうとした瞬間、身体が軽すぎることに気づく。

筋肉が、骨が、自分の意思を待っていたかのように反応する。


その違和感を確かめる間もなく、

――地面が、揺れた。


ズン、と腹の底に響く重低音。

前方の瓦礫の山が崩れ、その奥から“それ”が姿を現す。


灰色の皮膚。

歪んだ四肢。

顔と呼ぶには無理のある、裂けた口。


――魔物。


そう理解した瞬間、言葉ではない“何か”が頭に流れ込んできた。


《適合確認》

《断界強化、起動可能》


「……は?」


理解する暇もなく、魔物が地面を蹴る。

一歩で距離を詰め、巨大な腕を振り下ろしてきた。


反射的に、身体が動いた。


次の瞬間、世界が――歪んだ。


視界が一瞬、引き伸ばされる。

音が遅れ、空気が重くなる。


――見える。


振り下ろされる腕の軌道。

地面が砕ける“未来”。

そして、その攻撃が通る“世界の弱点”。


考えるより早く、拳を叩き込んでいた。


鈍い音。

いや、割れる音だった。


魔物の腕が、関節ごと砕け散る。

勢いのまま、胴体にもう一撃。


爆発したように肉片が飛び、魔物は地面に崩れ落ちた。


「……勝った?」


自分の拳を見下ろす。

震えている。だが恐怖ではない。


――熱い。


身体の内側が、焼けるように痛む。

遅れて、激痛が全身を襲った。


「っ……!」


膝から崩れ落ちる。

視界が暗転しかけた、その時。


「――動かないで!」


必死な声が聞こえた。


柔らかな光が、俺の身体を包む。

焼け付くような痛みが、ゆっくりと引いていく。


顔を上げると、そこにいたのは――

淡い緑色の髪をした少女だった。


震える手で光を紡ぎながら、

必死に歯を食いしばっている。


「今……今、治しますから……!」


「……あんた、誰だ……?」


「そんなの、後です……!」


涙を浮かべながら、それでも逃げずに俺を支える。

魔物の死体が転がるこの場所で、

彼女はただ、俺の身体に触れていた。


不思議と、胸の奥が静かになった。


さっきまであれほど高鳴っていた衝動が、

ゆっくりと鎮まっていく。


「……ありがとう」


その一言で、少女ははっと息を呑み、

小さく、泣きそうな笑顔を浮かべた。


「……生きてて、よかった……」


その言葉が、胸に刺さる。


――この世界で、

初めて“俺の生死”を気にした存在だった。


空では、裂け目が不気味に脈打ち続けている。


壊れかけた世界。

そして、壊れていく俺。


だがこの時、まだ知らなかった。


この少女を皮切りに、

俺の周りには――

四人のヒロインが集まっていくことを。


そして彼女たちが、

俺を生かし続ける存在になることを。


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