1
目を覚ました瞬間、世界が壊れていると分かった。
空が、ひび割れていた。
青空の中央に走る黒い裂け目。
稲妻のように歪んだそれは、ゆっくりと脈打ち、周囲の景色を軋ませている。
見ているだけで、頭の奥が痛くなった。
「……夢、じゃないよな」
喉から出た声は、ひどく乾いていた。
最後の記憶は――事故。
避けようもなく迫ってきた光と衝撃。
そして、何も考える暇もなく途切れた意識。
なのに今、俺は生きている。
いや、生きているというより――
放り出された、という感覚に近かった。
「ここは……」
立ち上がろうとした瞬間、身体が軽すぎることに気づく。
筋肉が、骨が、自分の意思を待っていたかのように反応する。
その違和感を確かめる間もなく、
――地面が、揺れた。
ズン、と腹の底に響く重低音。
前方の瓦礫の山が崩れ、その奥から“それ”が姿を現す。
灰色の皮膚。
歪んだ四肢。
顔と呼ぶには無理のある、裂けた口。
――魔物。
そう理解した瞬間、言葉ではない“何か”が頭に流れ込んできた。
《適合確認》
《断界強化、起動可能》
「……は?」
理解する暇もなく、魔物が地面を蹴る。
一歩で距離を詰め、巨大な腕を振り下ろしてきた。
反射的に、身体が動いた。
次の瞬間、世界が――歪んだ。
視界が一瞬、引き伸ばされる。
音が遅れ、空気が重くなる。
――見える。
振り下ろされる腕の軌道。
地面が砕ける“未来”。
そして、その攻撃が通る“世界の弱点”。
考えるより早く、拳を叩き込んでいた。
鈍い音。
いや、割れる音だった。
魔物の腕が、関節ごと砕け散る。
勢いのまま、胴体にもう一撃。
爆発したように肉片が飛び、魔物は地面に崩れ落ちた。
「……勝った?」
自分の拳を見下ろす。
震えている。だが恐怖ではない。
――熱い。
身体の内側が、焼けるように痛む。
遅れて、激痛が全身を襲った。
「っ……!」
膝から崩れ落ちる。
視界が暗転しかけた、その時。
「――動かないで!」
必死な声が聞こえた。
柔らかな光が、俺の身体を包む。
焼け付くような痛みが、ゆっくりと引いていく。
顔を上げると、そこにいたのは――
淡い緑色の髪をした少女だった。
震える手で光を紡ぎながら、
必死に歯を食いしばっている。
「今……今、治しますから……!」
「……あんた、誰だ……?」
「そんなの、後です……!」
涙を浮かべながら、それでも逃げずに俺を支える。
魔物の死体が転がるこの場所で、
彼女はただ、俺の身体に触れていた。
不思議と、胸の奥が静かになった。
さっきまであれほど高鳴っていた衝動が、
ゆっくりと鎮まっていく。
「……ありがとう」
その一言で、少女ははっと息を呑み、
小さく、泣きそうな笑顔を浮かべた。
「……生きてて、よかった……」
その言葉が、胸に刺さる。
――この世界で、
初めて“俺の生死”を気にした存在だった。
空では、裂け目が不気味に脈打ち続けている。
壊れかけた世界。
そして、壊れていく俺。
だがこの時、まだ知らなかった。
この少女を皮切りに、
俺の周りには――
四人のヒロインが集まっていくことを。
そして彼女たちが、
俺を生かし続ける存在になることを。




