修学旅行あるあるで布団の中にいっしょに隠れた彼の秘密を俺は猛烈に知りたい
そのとき修学旅行あるあるの事象が起きた。
旅館にて、部屋にこっそり女子たちを招きいれ談笑していたら、抜きうちで教師の見回りが。
見張り役の連絡を受け、俺たちは即行、電気を消して布団の中に隠れた。
そう、俺はこのときを待っていたのだ。
漫画やドラマなどで、よく描かれる修学旅行あるあるシーン。
現実に起こるかは分からなかったが、好きな女子の隣をキープし、もし、そのときが訪れたら腕をつかんで布団の中に引っぱりこもうと、何回も頭の中でシミュレーション。
そうして備えていた甲斐あって、慌てながらも、シミュレーションどおり彼女と布団の中に潜りこむことに成功。
バックハグして息を潜めるも、なかなか見回りの教師が乱入してこず。
焦れったくなって「ねえ・・」と外に声が漏れないよう囁いた。
「遠藤さんは今、だれともつきあっていないんでしょ?
好きな人はいるの?」
くすぐったいのか、肩を震わせて息をつめているよう。
鼓動を乱しながら、返事を待つことしばし「わるい・・俺、遠藤さんじゃないんだ」とかすかな笑い混じりの低い声が。
聞き覚えのある響きに「黒瀬・・!?」と叫びそうになり、口を手で押さえる。
かっと顔が熱くなるも「まあ、黒瀬ならいいか・・」とほっと一息。
黒瀬はクラスメイトで、たまに言葉を交わすが、友人と呼べるほどの仲でない。
俺に限らず、ほかのやつとも黒瀬は距離を置いていて、たぶん友人はいないと思う。
といって孤立していなく、他人を拒絶してもいなく、話しかければ、気安く応じて冗談も通じるから、特定の仲のいい一人や二人、いてもよさそうなもの。
「・・なあ、なんで黒瀬はいつも一人でいるんだ?
べつに人間不信じゃないけど、一人でいるのが好きだからとか?」
布団の中という究極の密室で、体を密着させて俺を意識させつつ、吊り橋効果を狙って告白まで持っていこうという計画。
おじゃんになったとはいえ、この特殊な状況では黒瀬相手でも変な気分になる。
物理的距離が縮まったせいか、なんだか心の距離も縮めたくなり、つい踏みこんだ発言を。
笑いを引っこめた黒瀬は「俺は一人でいたほうがいいんだよ」とぽつり。
顔が見えないのがもどがしく「どうして・・!」と抱き寄せようとしたら「安藤のやつ、フェイクだったみたいだぞ!」と布団を剥がされて、黒瀬にはそそくさと逃げられたもので。
黒瀬のせいでないにしろ、修学旅行あるあるの一世一代のチャンスを逃して落ちこんだ。
ことはなかった。
なにせ、黒瀬の意味深な発言を受けて、頭の中は「一人でいたほうがいい?どうして?」との疑問で埋めつくされていたから。
その日も、埒なく頭を悩ませていて、妹が視聴するテレビアニメを見るともなく見ていた。
アニメの内容はほとんど頭にはいってなかったはずが、夜に似たような夢を。
学園祭の真っ最中、クラスの催しのため女装した黒瀬に屋上に呼びだされる。
ふだん、女らしいわけでも中性的でもないのが、やけに女装が似合っているのにどぎまぎして「な、なんだよ・・・」とぶっきらぼうに尋ねてしまい。
肩を跳ねて涙目になりつつ「じつは俺・・」とメイド服の襟を引っぱって見せた胸には・・・。
「ああああああ!」と絶叫して跳ね起き、同時に「そういうことかあああ!」と閃いた。
それから二日後、こんどは俺が黒瀬を屋上に呼びだし。
眉をひそめる黒瀬に「なあ、修学旅行のとき、自分は一人でいたほうがいいって、いってたよな、それって・・・」と単刀直入に切りだした。
「お前、女の子なんだろ!?
訳があって男の格好をしている!そうなんだろ!?
でも、ずっと男のふりをするのは辛いよな!
だから、俺の前だけでは女にもどっていいぞ!
ほら、これ!俺の従姉のおさがりのセーラー服だ!」
満を持して紙袋を突きつけるも、黒瀬は口を開けたまま呆気にとられているよう。
「驚きすぎて飲みこめていない?」とまた説明しようとし「いやいやいや!」と押しとどめるように手をふられて後ずさられた。
「俺は女の子じゃないよ!
俺の親が人殺しなんだって!」
はっと目を見開いて、固まることしばし「なんだああ!そんなことかああ!」と腰を抜かしたようにへなへなと。
「そんなこと?」と反芻したのにかまわず「黒瀬が女子かもしれないって考えたら、眠れなくてさー!」と喚きつづける。
俺があまりにやかましいからか、しばらく黙っていたものを「もしかして発想はアニメから?」と図星を狙い撃ち。
「たしかに、前の学園祭で俺の女装は好評だったけど、それとアニメの内容を重ねるなんて・・・。
アニメ見たあと、俺がキャラに成り代わっての夢でも見た?」
おっしゃるとおりで、みごとに暴かれるのが恥ずかしく、頬を熱くしてうつむいていたら、肩に手を置かれて耳に囁かれた。
「まさかエッチな夢じゃなかっただろうな?」
布団の中で俺にうしろから抱きしめられ「俺は一人でいたほうがいいんだよ」と寂しげに呟いた黒瀬はどこへやら。
「ちがうちがうちがうちがう!」と顔から火を噴きそうな俺を「へー?ほー?ふーん?」とにやにや追いかけまわす彼が、人殺しの息子だなんて、とても思えなかった。




