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遥か遠い世界へ

作者: 冷瑞葵

「世界存続ノタメ、世界ノ端――」

 未知の言語と思わしき情報群。多額の資金を投じて解析できたのはごく一部、上記の文章だけだった。ある日隕石として落ちてきた石板に刻まれていた言葉である。

 イタズラにしては手が込んでいる。石板に含まれる物質には現代科学で説明がつかないものもある。

 世界の端。それがさらなる解析の鍵になる。そう意見がまとまってから実際に世界の端への旅が始まるまでには200年もの歳月がかかった。

 すべては世界存続のため。ひいては自分たちの生存のために。



―――



 旅路の果てで一人。目の前に広がるのは黒い世界と見えない壁。

 壁の向こうでは不定期に何かが瞬いている。光ではない。闇と呼ぶのも畏れ多い。「無」に思考を支配されて不安な気持ちが押し寄せる。

 計測器が壊れた。自分の体にまとわりつく数々の機器はすべてただの脆い盾に成り下がっている。周囲の気温も重力も不明、身動きも満足にとれない。

 視覚情報がかろうじて残っているのは不幸中の幸いと言うべきか。


 何年かかった? 時計が壊れてしまったので今の時間がわからない。途中までは数を数えていたけれど、あれは何万年前のことだったか。


 私は思考力を持ちながら寿命のない存在。多少の劣化を蓄積しながら今後何万年、何億年と生き永らえるだろう。

 そんな私に託されたのは「世界の端」への到達という任務だった。


 任務は達成された。永久に辿り着かないこともあり得た。世界の端が実在したことをまずは喜ぶべきか。見えない壁に体を押し付けて先に進めないことを確認しながら呆然と黒い瞬きを見つめる。


 あぁ、このことを故郷に知らせなければならない。

 知らせが届くまでに何年かかるだろう。ここに至るまでにかかった時間を思うと、すでに私の産みの親は生きていない。その子孫でさえ生き残っているかどうか。

 そもそも私の故郷の星は残っているのか? 怖い想像が壊れた脳の裏に浮かんでくる。


 せめて、私の故郷じゃなくても、誰かが知らせを受け取ってくれれば。どれだけの時間がかかっても構わないから。

 データを正しく故郷の方向に送信できたのか、方向感覚を失った私に知るすべは無い。でも、誰か、誰かが受け取ってさえくれれば。


 客観的に見たらほとんど進捗のない報告。ぼろぼろになった体でようやく踏み出せた重く小さい一歩。これが、私たちの悲願の大きな鍵になることを願って。



―――



「なんだこれは」

 乱雑な波から成る情報群を受信した。差出人不明。データを受け取れたことが奇跡といえるくらい基本的な構造が既知のものとは異なる。

「どうにかして解析できないか?」

「やってみよう」

 最初は単なる好奇心だった。いつしかそれは重苦しい重圧のかかる任務へと変貌した。前例のない解析。世界滅亡の前触れか、何らかの攻撃か。多大な予算をかけ、過剰すぎるくらいの安全確保の元で解析が進められた。

 その結果、抽出された文章は「世界ノ端ニ到達。計測不可。存続ヲ願ウ」という現実味のない短な言葉であった。

 イタズラか? それでは説明がつかないことが多すぎる。この言葉の意味はなんだ? 世界中で「滅亡か!?」と意味なく不安を煽るニュースばかり広まっていく。

 世界の端の計測。それがさらなる解析の鍵になる。そう意見がまとまり、長い準備の時間が始まった。

 世界存続のため。ひいては自分たちの生存のために。

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