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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第八章 「ディセンディング・トライアングル」

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第71話 「みちびき」

 セレスティア商会へ戻るころには、周囲は完全に暗くなっていた。


 後ろを振り返ると、ティアナが無言で歩いていた。隣を歩くラニアは、姉の袖をしっかりと握りしめている。


「大丈夫か? 歩き疲れてないか?」


「……問題ありません。歩くのは慣れておりますので」


 ティアナは淡々と答える。


「もうすぐだ。ここを曲がれば商会の灯りが見える」


 俺が指さす先、街角にセレスティア商会の看板が灯っていた。


 商会の中は、静かだった。


 カウンターの奥、ただ一人で帳簿とにらみ合いをしている金髪がいた。


「アルヴィオ、遅かったですわね。――って、あら?」


 フィリアがこちらに気づき、顔を上げる。


 視線が、俺たちの背後――ティアナとラニアに移った瞬間、唇の端がわずかに上がった。


「また厄介そうな女の人を拾ってきましたの?」


「……拾ってない。事情があって預かることになっただけだ」


 俺が即座に否定すると、隣のアイラが小さく肩をすくめた。


「説明すると長くなりますが……まあ、そういうことです」


「ふふ……そういうこと、ね」


 フィリアは半ば呆れ顔でため息をついた。


 ティアナはフードを深くかぶったまま、一歩も動かない。


 その仕草は、妙にぎこちなかった。


「その方が、今回の()()()()ですの?」


「ティアナさんだ。しばらくの間、預かることになった」


「……はじめまして。ご迷惑をおかけします」


 ティアナが丁寧に一礼する。


 声の調子は穏やかだが、どこか上ずっているようにも聞こえた。


 フィリアはにこやかに微笑みながら、しかしその目の奥に探るような光を宿す。


「まあ、礼儀正しい方ですこと。――でも、顔を拝見できませんと、お話ししづらいですわね」


 ティアナの肩がわずかに強張る。


 フードの下から、灰青の瞳がちらりとこちらを見上げた。


「……失礼ですが、私は少し人目を避けたい身でして」


「とはいえ、ここは安全だ。フードを被ったままというのも、目立つぞ」


 俺がそう言うと、ティアナは一瞬ためらったのち、渋々フードに手をかけた。


 さらり――と銀の髪が流れ出す。


 その姿を見た瞬間、フィリアの動きが止まった。


「……ティタニア……?」


 静寂。


「……ひ、人違いではないしょうか?」


「姫様……!」


 隣でラニアが思わず声を上げ、口を慌てて押さえる。


「――やっぱり、あなたなのね。アズーリアの銀翼、ティタニア・アズーリア」


 その名が響いた瞬間、空気が変わった。


「アズーリア……の……?」


 アイラが思わず漏らした声が、場の緊張をいっそう際立たせる。


 ティアナ――いや、ティタニアは観念したように顔を上げ、ゆっくりとフードを下ろした。


「まったく……あなたとは腐れ縁ね、フィリア」


 その口調には、皮肉と親しみが入り混じっていた。


 室内の灯りが銀髪を照らし、ティタニアの存在が一段と際立った。


 フィリアは微笑を崩さぬまま、ため息をひとつこぼした。


「やっぱり生きていましたのね、ティタニア。……アズーリアではクーデターが起きたと聞きましたけれど」


「そうね。逃げてきたわ」


「やれやれですわ、あなたがクーデターくらいで()()()()()()とは思っていませんでしたけれど」


 その言葉に、ティタニアが肩をすくめた。


「ふふ……あなたらしいわね、フィリア。心配もしてくれなかったのね?」


「ええ、だって、ティタニアのことですもの。むしろどこかの国を乗っ取ってるかと思いましたわ」


 皮肉交じりの冗談に、ティタニアが小さく笑う。


「その手があったわね」


 会話の調子は軽くなったが、俺とアイラはただ呆然とするばかりだった。


「ま、待ってください……つまり、ティアナさんって――」


「フィリア様の知り合いで……それに、アズーリア……姫様って……アズーリア帝国の王女様……ってことですか……!?」


 アイラが信じられないというように目を見開く。


 銀髪の姫は、微笑を浮かべて小さく頷く。


「王女、ね。まあ、そうなるわね。フィリアとは魔法学校以来の腐れ縁」


 その飄々(ひょうひょう)とした言い方が、逆に現実味を帯びて聞こえる。


 ラニア――妹と紹介された少女が不安げにティタニアを見上げた。


「姫様……」


「もういいの、ラウラ。ここで隠しても意味がないわ」


「こちらも偽名か?」


「そうね。騙すようなことをしてごめんなさい。この子はラウラ、私の侍女よ。妹ということにしてもらってたけれど」


「……なるほどな」


 フィリアがくすりと笑い、腰に手を当てた。


「ほんと、昔から人を振り回すのは変わりませんわね。まさか、あなたがこの街まで来るなんて」


「これも運命(腐れ縁)ってやつね」


 ティタニアは軽く笑って、俺の方を見た。


「改めて――ティタニア・アズーリアよ。しばらくの間、世話になるわ」


 まるで舞台俳優のように優雅に一礼する。


 俺とアイラは顔を見合わせ、言葉を失った。


 どうやら、静かな日々はまた遠のいたらしい。

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