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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第八章 「ディセンディング・トライアングル」

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第67話 「開戦」

~憲章暦997年4月13日(星の日)~


 朝のセレスティア商会は、いつも通りの慌ただしさの中にあった。


 俺はロビーのソファーに腰をかけ、アルカナプレートを確認していた。アイラは隣で今日の準備を進めている。取引所に行く前の、ほんのひとときの朝の儀式のようなものだった。


「アルさん、今日はどの銘柄を見ますか?」


「物流関連だな。戦の気配が強まれば、まず輸送路が不安定になる。だが――」


 言いかけた瞬間、扉が勢いよく開いた。


「大変です!」


 飛び込んできた従業員の顔は真っ青だった。胸の前で握った手が震えている。


「どうした」


 俺が声をかけると、彼は息を詰まらせながら叫んだ。


「ティラナ島の北……モスタール島の要塞が、アズーリア軍の攻撃を受けています!」


 商会の空気が、一瞬で凍りついた。


 ティラナ島の防衛の要――モスタール要塞。そこが攻められたとなれば、ティラナ島全体の防衛線が瓦解するのも時間の問題だ。


 それは単なる小競り合いではなく「開戦」の狼煙そのものだった。


「……数日以内に陥落する可能性が高い、とのことです」


 従業員の声は震えていた。


 ざわめきが広がる。商会の中にいた者たちは皆、互いに顔を見合わる。戦争が現実となったことを、誰もが理解していた。


「アルさん……どうしますか。取引所へ急がないと……」


 隣のアイラが不安げに俺を見上げる。


 だが、俺は首を横に振った。


「それなら今日は行かない」


「え……?」


「今は、ポジションを持っていない。嵐の外にいる。なら、無理に波を見に行く必要はない」


 フィリアがすぐに詰め寄ってきた。


「この状況は、商会にとっても一大事ですわ。取引所を離れてよろしいのですか?」


「心配するな。商会の資産はリスクに晒していない。むしろ、動かない方が安全だ」


 俺がきっぱりと答えると、フィリアはなおも口を開こうとしたが、結局は小さくため息をついて引き下がった。


 今、優先すべきは別にある。


◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆


 俺はその足で、商会の一角にある部屋へ向かった。そこは、イオナのために用意された研究室だった。イオナは身の安全のため、商会に寝泊まりしながら研究を続けている。


 扉を開けると、机の上に書き散らされたメモと薬瓶、乾いた植物片が散乱していた。その真ん中で、イオナが突っ伏して眠っていた。


「……おい」


 俺は肩を揺さぶった。


「イオナ、起きろ」


「ん……んにゃ……?」


 瞳が半分だけ開き、俺をぼんやりと見た。


「また研究中に寝落ちして……!」


 横でアイラが慌てて駆け寄る。


 俺は机の上の紙束を押しのけ、イオナに問いかけた。


「イオナ。例の件だ。どれくらい必要なんだ?」


 眠気の残る顔が一瞬で真剣になる。イオナは小さく指を折りながら計算した。


「……大体、百個につき一個くらい。できるだけ多く、空の魔力石が要る」


「空の魔力石……」


 アイラが息を呑む。


 イオナはこくりと頷いた。


「使い切った魔力石。普通なら廃棄処分で廃ダンジョン行きになる。でもあれを使えば……」


 そこまで言って、イオナはまた夢の中へと落ちそうになった。


「おい、寝るな。港の廃棄業者から仕入れればいいんだな?」


「……ん、そう……そうだよ……」


 呟き、再び机に突っ伏す。


 その時だった。


 ロビーの方から、従業員たちの慌ただしい声が聞こえてきた。


「大量の荷物が届いています!」


 何事かと足を向けると、玄関前に巨大な木箱がいくつも積み上がっていた。荷運びの男たちが汗を拭きながら「これで最後だ」と口にしている。


「これは、なにごとですの?」


 フィリアの声が響いた。


 こじ開けられた木箱の中には、大きな球根がぎっしりと詰まっていた。


「……フレイジア球根だ」


 ざっと見ただけでも数万単位――いや、書類に添えられた納品証にははっきりと記されていた。


 102,344個。


 俺が先物で買い付けていたフレイジア球根の、現物引き渡し分だった。

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