Short Stories 1 「曜日の秘密?」
セレスティア商会の二階の一室。
窓際の机に座ったヒカリは、広げたアルカ語の教本に眉を寄せていた。
「……曜日、星の日、火の日、水の日、土の日、風の日、闇の日、光の日……」
ヒカリは小声で読み上げて、首をかしげた。
「でも……雷は、ないんだ……」
机に向かって帳簿を整理していたアイラが顔を上げる。
「どうかしましたか、ヒカリさん?」
「七大属性の中で、雷だけ曜日になってないんです。なんでなんですか?」
アイラも少し考え込んでから答える。
「たしかに……雷属性は主要なひとつなのに。……不思議ですね」
そのとき、扉が開き、フィリアが書類を抱えて入ってきた。耳に入った会話に、足を止める。
「……その話ですの?」
「フィリアさん、知ってますか?」
フィリアはため息をつき、椅子に腰を下ろす。
「雷は昔から忌避される属性でしたの。空を裂き、大地を焼き、瞬時に命を奪うその力が、あまりに恐れられていたのですわ」
「へぇ……」
ヒカリは目を丸くした。
「でも、闇の日はあるのに?」
アイラは控えめに頷きながら、少し困ったように口を開いた。
「確かに、闇のほうが怖い気もしますけど……」
その一言にフィリアは肩を落とした。
「ですわよね……。けれど、昔のお偉いさん方が決めたのです。雷曜日は怖いから、と。結局、暦から外されてしまったのですわ」
そう言ったフィリアの声には、どこか寂しげな響きが混じっていた。
「……わたくし、得意魔法は雷属性なのですもの。こうして公に疎まれているのは、やはり少し、悲しいものですわ」
ヒカリは慌てて首を振った。
「で、でも! フィリアさんの魔法、すっごく格好いいですよ! この前だって、雷の槍で魔獣を一撃で倒して……」
「ふふ、ありがとう」
フィリアの口元が少しだけ和らぐ。
アイラは苦笑して肩をすくめた。
「……それにしても、『怖いから』なんて理由で歴史が変わるなんて、すごいですね」
「まったくですわ」
フィリアは、静かにため息をつく。
だが次の瞬間、ヒカリが笑顔で声を上げる。
「じゃあ、今日からは勝手に“雷の日”って決めちゃいましょう!」
「……まあ、可愛らしい発想ですわね」
フィリアは微笑み、アイラもつられて頷いた。
セレスティア商会の午後は、少しだけ明るい笑いに包まれた。




