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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第七章 「ディストリビューション」

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Intermission 11 「できること」

 取引所前の広場に残されたヒカリは、遠ざかる三人の背を見送っていた。


「……私は、待つんだ」


 自分に言い聞かせるように、小さく呟く。


 アルヴィオの声がまだ耳に残っている。


 帰れと言われた。危険だから、と。


 ヒカリ自身も、その言葉の意味は理解していた。異世界に来たばかりの自分が足手まといになるだけだと、頭では分かっている。


 だからこそ、アルヴィオの言葉に従って、屋敷へ戻ることを選んだ。


「帰らなきゃ……」


 そう呟き、取引所前の賑わいに背を向けた。


 アイラの屋敷へと戻り、扉を開けると、そこには二人の不在を物語るような空虚さがあった。


「……少し、散らかってる」


 ヒカリはふっと息をついた。


「帰ってきたときに、きれいな方がいいよね」


 誰に聞かせるでもなく呟き、袖をまくった。


 雑巾を絞り、机の上を拭く。椅子を整え、床に散らばった小物を拾い上げる。水差しを替え、花瓶の花を新しい水に浸す。


 そうしていると、少しだけ心が落ち着いていく気がした。


 「自分にできること」をしている、という感覚。


 だが――ふと手が止まった。


 机の端に、場違いなものが置かれていた。


 重厚な蒼い銃身。異様な冷たさを放つ魔法銃。


「これ……」


 アルヴィオが常に傍に置いていた武器。だが今はここにある。


 つまりアルヴィオは、丸腰でイオナを追いかけに行ったのだ。


「そんな……」


 小さな声が零れる。


 胸の奥がざわざわと波立った。


 届けなければ。けれど、きっと足手まといになる。


「アディスさんは、私を危険から守るために……私が持っていったら、逆に邪魔になるんじゃ……」


 頭では「待つのが正しい」とわかっている。けれど心は「行かなければ」と叫んでいた。


「……どうしたらいいの」


 答えは出なかった。けれど、気づけばヒカリの指は目の前の魔法銃に伸びていた。


 冷たい金属の感触が指先を伝う。


 次の瞬間――。


 銃身が淡く光を帯び、部屋の空気が震えた。


「え……?」


 まばゆい光が手を包み、視界が白く弾け飛ぶ。


 足元がふわりと浮いたような感覚。


 心臓が早鐘(はやがね)のように打ち、呼吸が乱れる。


「な、なにこれ……!」


 叫ぼうとしたが、声は喉の奥で途切れた。


 意識が急速に遠のいていく。


◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆


 人々の往来が続く大通りを、駆けて行くヒカリの姿があった。


 瞳に焦点はない。


 無意識のまま、アクアレイジを抱えて走り出していた。


 足取りは迷いなく、軽やかで、速い。


 通りを駆け抜け、橋を渡り、人混みを縫うように進む。


 驚いた市民が振り返るが、ヒカリはその声を認識していない。


 ただ、導かれるように――アルヴィオたちの戦場へ。


◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆


 そして――気がついたとき、ヒカリは白い天井を見つめていた。


  清潔なシーツ。漂う薬草の匂い。


「……ここは……」


 ぼんやりと呟き、瞬きを繰り返す。体は重く、思うように動かない。


 枕元には、アクアレイジが静かに横たえられている。魔力の光が消えた銃身にはまだ冷たい水滴が残っていた。


 ヒカリは混乱の中で息をのみ、毛布を胸まで引き寄せた。


「……私、何を……」


 その答えはまだわからない。


 けれど確かなことが一つだけあった。


 あの時、ヒカリは確かにアルヴィオたちの戦場に現れ、アクアレイジを振るったのだ。


 それがどうしてなのか。なぜできたのか。


 ヒカリ自身にも、答えはなかった。


 ただ――ヒカリの中に「なにか」が芽生え始めていることだけは、間違いなかった。

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