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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第七章 「ディストリビューション」

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第64話 「ケモ耳チェイスⅢ」

「まだ来るぞ!」


 ミラの声が鋭く路地に響いた。


 倉庫の屋根から、黒装束が次々と飛び降りてくる。十人、二十人――あっという間に数は倍以上になる。


「数が……」


 アイラの声が震える。


「これは……」


 俺は、舌打ちをこらえて状況を見極める。


 倉庫街。


――こないだみたいにアイラが大規模魔法を撃てれば、一掃できる。


 脳裏に一瞬、その考えがよぎる。だが即座に却下した。近くには、魚市場がある。重要な物流の中継地だ。木箱が積まれ、油の染みた樽が並ぶ。そちらに炎でも飛べば、一帯は一瞬で火の海になる。


――駄目だ。こんな街中じゃ使えない。


「来るぞ!」


 ミラが叫ぶ。


「くっ!」


 アイラが光弾を撃ち出す。


 一人を倒す。その隙に、違う影がイオナへ迫る。


「きゃっ!」


 短剣が振り下ろされる。


「――!」


 俺の体が勝手に動いた。


 剣も槍もない。アクアレイジも持っていない。素手だ。


 それでも、止めなければならない。


 腕を伸ばし、イオナの肩を抱き寄せた。


 風を切る刃が俺の頬をかすめ、冷たい感触が走る。熱いものが一筋、頬を伝った。


 すぐさま足を払う。短剣を振り下ろした黒装束が体勢を崩し、前のめりに倒れる。


「下がれ!」


 俺が叫んだ瞬間――ミラが短剣を振り抜いた。


 黒装束が、呻き声とともに崩れ落ちる。


「アルさん、左です!」


 アイラが叫び、再び光弾を放つ。アルカナプレートが脈動するように光り、魔力がアイラの両掌に集約される。


 光の槍が走り、屋根から飛び降りた黒装束を直撃した。


 だが数は減らない。


「後ろからも来る!」


 ミラが尾で敵を叩き飛ばしながら叫んだ。


 倉庫街の路地は複雑に入り組んでいる。敵はそこを熟知しているかのように、四方から連携して攻めてくる。


「このままじゃ押し潰される!」


 ミラが低く唸る。


 追っ手は火の符を一斉に展開し、路地の両側から火炎を撃ち込んできた。


「下がれ!」


 俺が叫ぶと、アイラが前へ出て防御魔法を張った。アルカナプレートが眩い光を放ち、アイラの前に透明な壁が生じる。


 炎がぶつかり、火花が四散する。


「っ……!」


 火力は強大だったが、アイラの結界は揺るがない。俺の魔力がプレートを通じて絶えず供給されているからだ。


「アルさんの大丈夫です!」


 アイラが歯を食いしばりながらも笑みを見せる。


 だが、敵の数は衰えない。燃え残った木片が周囲を焦がし、熱気が路地を満たしていく。


「……くそ、突破するしかない」


 俺は決断した。


「西へ抜ける! ミラ、先頭を頼む!」


「了解だ!」


 ミラが刃を構え、敵陣に飛び込む。尾がしなり、二人を薙ぎ倒す。


 アイラが光の矢を放ち、進路を切り拓く。


 俺はイオナの手を引き、後ろを守りながら走る。


「逃がすな! その女は我らのものだ!」


 敵の指揮役が怒声をあげる。


 火の魔法が再び雨のように降り注ぐ。


 アイラの防御魔法が光り輝き、炎を防ぎ続ける。だが路地全体が熱に包まれ、呼吸すら苦しくなってきた。


「アルさん……!」


 アイラの声に応えようとしたその瞬間だった。


 轟音。


 頭上から落ちてきた炎を、別の力が薙ぎ払った。


 眩い水流が貫き、炎を一瞬でかき消す。


「な……水? こんどはなんだ!」


 ミラが目を細める。


 黒装束の連中も一様に驚愕の声をあげ、ざわめきが起こる。


 水しぶきの奥。


 そこに、一人の影が立っていた。


 長い黒髪を濡らし、手には見覚えのある魔法銃――アクアレイジ。


「……ヒカリ?」


 思わず声が漏れる。


 だがその瞳は、普段のそれではなかった。無意識に突き動かされるような、鋭い光を帯びていた。

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