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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第七章 「ディストリビューション」

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第62話 「ケモ耳チェイスⅠ」

「イオナがそこに?」


「ああ。まだ捕まってはいない。だが、近くで怪しげな連中も目撃されている。捕まるのも時間の問題かもしれない」


 ミラの声には焦りが混じっていた。


「イオナさんって……なんのことですか?」


 アイラがきょとんとした顔で俺に問いかける。


「事情があって探している人物だ。魔法植物の研究者で……俺たちにとって、いやこの世界にとっても重要な存在だ」


 できるだけ簡潔に答えた。余計な説明は不要だ。アイラが知るべきは「今、保護しなければならない相手がいる」という事実だけだ。


「……わかりました」


 アイラは小さく息をのみ、表情を引き締めた。


「アイラ、来てくれるか?」


「はい、行きましょう、アルさん」


 そのやり取りを聞いていたヒカリが、ぱっと顔を上げた。


「だったら、私も行きます!」


 真剣な瞳。


 だが俺は即座に首を振った。


「駄目だ、ヒカリ。危険すぎる」


「でも……!」


「何が、起こるかわからない。ヒカリは家を……俺たちの帰るべき場所を守ってくれ」


 目に悔しさが滲む。アイラが心配そうにヒカリを見つめた。


「ヒカリさん……」


 しばしの沈黙。


「……わかりました。気をつけてください、アディスさん」


 小さく絞り出すような声。


 俺は頷く。


「行こう」


◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆


 石畳を蹴り、俺とアイラ、ミラの三人は北運河へ向けて走り出した。


「アイラ、頼めるか」


「はい!」


 アイラが走りながら、魔法陣を展開する。


 淡い光の輪が三人を包み込み、心臓の鼓動が跳ね上がった。


――身体強化魔法。


 脚に力がみなぎり、視界が一気に広がる。


 踏み出した瞬間、身体が軽くなる。


「これなら……!」


 運河沿いには、帆を張った船がずらりと並び、労働者たちが荷物を下ろしている。干した魚の匂い、樽を転がす音、商人たちの呼び声が入り交じる。


 その雑踏のなかを、俺たちは駆け抜けた。


「こっちだ」


 ミラが鋭い耳を動かし、人波をかき分けていく。アイラも必死に俺の背に食らいつく。


「あそこだ」


 ミラの視線の先――船着き場の物陰から、ミラの部下と思しき男が手を振っていた。


「状況は?」


「イオナ・セイランらしき人物を確認。ただ、正体不明の黒装束の連中も動いてます」


 その言葉に、ミラの表情が鋭くなる。


「方向は?」


「倉庫街の東の方です」


 俺たちはさらに速度を上げた。


 倉庫街に近づくにつれ、人通りは少なくなっていく。


 その先――石造りの倉庫と倉庫の間を、青い耳がかすかに揺れるのが見えた。


――いた!イオナだ。


「逃がすな!」


 こちらが、イオナの影を見つけたのと同時に低い怒号が響いた。


 黒装束の影が倉庫の屋根や物陰から飛び出す。


 短剣を抜いた者、弩弓を構えた者――十数人の追っ手が一斉に動いた。


 イオナは身を翻し、木箱の列を蹴って狭い通路へ走り込む。だが、背後から迫る影は速い。倉庫の壁を蹴って飛び降りる者までいる。


「思ったより数が多い」


 ミラの尾が逆立ち、低く唸る。


 雑踏のざわめきが遠のいていく。石畳を叩く足音、武器が擦れる金属音。


 逃げ場を失いかけたイオナが、ふと振り返る。


 灰色の瞳が、俺を射抜いた。


 一瞬、時間が止まったように感じた。


 青い耳が揺れ、恐怖を帯びた灰色の瞳に、必死さが入り混じっていた。

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