表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第七章 「ディストリビューション」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/126

第59話 「ケモ耳の行方Ⅱ」

 目の前の席では、セリナが身を乗り出していた。


「さて、どこから話そうかな。あなたが求めてるのは灰牙の蛇に関する情報と、セイラン女史の足取り――で合ってるよね?」


「ああ、間違いない」


「よし、なら順番に行こう。まず灰牙の蛇について」


 セリナは胸元から革の手帳を取り出すと、パラリと音を立ててページをめくる。


「ヤツらはね、ただの商人集団じゃない。名の知れた商人、由緒ある貴族、時には王族まで……表の顔を持つ連中が、裏では()として繋がっている。目的は金儲け……に見えるけど……ほかにもっと信条めいた何かがある気がしているのよね」


「信条?」


「そう、世界そのものを自分たちの秩序で塗り替えるような……ね。何かの明確な目的がある感じ……」


 軽く笑いながらも、その眼差しは鋭かった。


「具体的には?」


「ここからは、証拠は掴めてない話。ただし、資金の流れを追えば黒い線が見えてくる」


 セリナはペン先でページの一行を指した。


「例えば、エストラン商会」


 その名を聞いた瞬間、ミラが尻尾をピクリと動かした。


「……エストランか。あの大商会が?」


――取引所で、最も幅を利かせている商会だ。


「そう。表向きは大規模な穀物取引と物流を担っているけれど、裏では灰牙の蛇と資金を融通しあっている可能性が高い。投資先や寄付金の流れを洗うと、不自然な空白があるのよ。たとえば、とある貴族への寄付金が実は匿名の基金を経由していて、その基金が持ち主不明の口座に繋がっていたり……」


 セリナの声は軽やかだったが、内容はどこまでも冷ややかだった。


「もちろん、証拠は何一つとして確定できない。だけど、線を繋げば浮かび上がる影は一つ――灰牙の蛇」


 ダリルが小さく補足する。


「僕ら新聞記者は、裏付けのない記事は出せません。でも、僕が調べた限り、複数の大商会や資産家が同じ動きをしているのは確かです」


「黒い線……か」


 俺は呟いた。証拠なき線。だが、ここ最近感じていた違和感との符合の多さに妙な納得感があった。


「さて、次はセイラン女史の件」


 セリナは身を正し、手帳を閉じる。


「取材の過程で複数の証言を集めたの。『青い耳の獣人を見た』って話。場所は北運河の港周辺。魚市場のあたりで何度か目撃されてる」


「……北運河、か」


 リアディスでも物流の要の一つ。商船がひしめき、労働者と商人が交錯する混沌した地域。身を隠すには最適だ。


「ただし目撃情報は散発的で、時間帯もまちまち。意図的に居場所を変えてる可能性があるわ」


――やはり、イオナはまだこの街にいる。


「もし彼女が本当に北運河に潜んでいるなら、灰牙の蛇の連中が近づいているのも間違いない」


 ミラが低く呟く。


「時間の猶予は少ないだろうね」


 沈黙が落ちる。魔導灯がパチッと音を立てる。


「それと……」


 セリナが声を落とす。


「うちの内部でも、さりげなく圧力があるのよ。あるはずの記事が差し替えられていたり、知らないうちに見出しが変わっていたり、編集部の誰がヤツらに繋がっている可能性がある」


 ダリルが不安げに付け加える。


「正直、僕たちの職場も完全には信用できる環境じゃないんです。記事の草稿を提出したら、翌朝には全然違う内容になっていたりするんです。編集長が差し替えたと言うけれど、その理由がまったく通らない。……それが一度や二度じゃない」


「それは、ありうる話だ」


 俺の言葉に、セリナは苦笑して肩をすくめる。


「だからこそ、私たちは自分で足を使うの。噂や証言を拾って繋げる。記事にはできなくても、真実は残る。私にとって取材は、灰牙の蛇に切り込むための武器だから。それに、いざとなれば記事をねじ込む秘密のルートもあるからね」


「……わかった。兎に角、イオナを探す。保護するのが先決だ」


 俺の言葉に、ミラが頷いた。


「こっちでも北運河周辺を重点的に当たってみよう。君はどうする?」


「俺は俺のやり方で動く」


 セリナが身を乗り出し、にっこりと笑う。


「じゃあ、私たちは情報を流す役。アディスさんたち現場でセイラン女史を確保する役。役割分担はばっちりね」


 ダリルは少し青ざめながらも頷いた。


「……命懸けですよ」


「記者ってのはそういうもんよ」


 セリナが肩をすくめると、再び部屋に静けさが落ちた。


 会合を終え、俺たちはバーを後にした。


 涼しい海風が頬を撫でる。街路の明かりは控えめで、運河沿いにはまだ夜の商売人たちが行き交っていた。


「ふう……」


 隣でセリナが伸びをした。


「いやあ、緊張感ある会合だったね。でも、こういうのって血が騒ぐなあ」


「セリナさん、お手柔らかにお願いします」


 ダリルが小声でたしなめる。


「ダリル、あなたも記者なんだから度胸をつけなさい」


「僕は、荒事は苦手なんですよ」


 二人のやり取りに、思わず口元が緩む。


 だが胸の内には、重いものが残っていた。


 エストラン商会、灰牙の蛇、イオナの影。


 この街の表も裏も、すべてが絡み合い、大きな渦を形作っている。


 俺は夜風に目を細めながら歩を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ