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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第六章 「アキュムレーション」

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第53話 「インターセプト」

 陽射しが傾きはじめた頃、北リアディスのレオリア軍基地を取り巻く空気は、一変していた。


 耳をつんざくような警鐘と兵士たちの叫び声。見渡す限り、地平を埋め尽くすほどの魔獣の群れが押し寄せていた。


「数が……多すぎるな」


 思わず息を呑んだ。


 群れの先頭は牙を剥いた狼型魔獣。さらに奥には巨躯の人型や翼を持つ魔獣の影まで見える。


「前衛部隊、密集陣形! 魔法士隊は中衛を固めて前衛を援護!」


 指揮を執るのはエリーナだった。髪を揺らし、声を張り上げて命令を飛ばす。


 俺はアクアレイジを構え、視界を覆う魔獣の影を睨みつけた。


「アルさん!」


 隣でアイラが金色の瞳を輝かせ、両手に光を収束させていた。その表情は恐怖を押し隠し、ただ真っ直ぐに前を見据えている。


「いけるか」


「はい! いけます」


 最初の衝突は一瞬だった。


 前衛の兵士たちが一斉に槍を突き出す。倒れた狼型の魔獣が、魔力の粒子に分解されていく。しかしすぐに次の群れが襲いかかり、鉄と肉の悲鳴が交錯する。


 上空からは、翼を広げた鳥型の魔獣が急降下してきた。


「フィリア!」


「心得ておりますわ!」


 紫の瞳を細め、フィリアが両手を上げる。雷鳴が走り、閃光が一直線に空を裂いた。サンダーランス。雷の槍が空を駆け、鳥型の魔獣を串刺しにする。焼け焦げた羽がばらばらと舞い落ちるのを見て、兵士たちが歓声をあげた。


 すかさず、エルヴィナが前へ躍り出る。黒いメイド服の裾を翻し、鋭い剣閃で人型の腕を切り裂いた。巨躯が呻き声をあげ、後退する。


「お嬢様、背後はわたくしが必ず守ります!」


「頼もしいわね、エルヴィナ」


 フィリアの声は落ち着いていたが、その額には汗が浮かんでいる。戦場の緊張はフィリアのような強者でさえも容赦しない。


 俺は深く息を吸い込み、アクアレイジを構え直した。銃身に、アルカナプレートを通してディムを注ぎ込む。水の魔力が銃口に収束し、揺らめく波紋のような光を放つ。


「アルさん、右側!」


 アイラの声で振り返る。狼型の魔獣が兵士に飛びかかろうとしていた。引き金を引き、アクアレイジの水弾が魔獣の喉を貫いた。兵士が振り返りざまに俺へ敬礼し、再び戦列へ戻っていく。


 しかし次の瞬間、悲鳴が響いた。


「エリーナ様──!」


 後方で、巨躯(きょく)の魔獣がエリーナへ迫っていた。指揮の最中、不意を突かれたのだろう。魔力の輝きが遅れる。


「お姉様!」


 アイラが詠唱もなく光弾を放ち、魔獣の目を焼く。爪は空を切り、エリーナの髪をかすめて地面に叩きつけられた。


 衝撃で地面が揺れ、砂煙が舞う。その中で、エリーナが信じられないものを見るように妹の横顔を凝視していた。


「アイラ……お前……」


 アイラは一言も返さず、前を見据えて立っていた。その小さな背中に、確かな覚悟が宿っているのを俺も感じ取る。


 アイラは息を切らしながらも振り返り、俺に視線を送る。


「アルさん……今なら!」


「たのむ」


 短く答える。


 アイラは大きく息を吸い込み、詠唱を開始した。


 アルカナプレートが激しく光を放つ。膨大な魔力が俺を通過していく。


(マイナス)2048ディム。


(マイナス)2048ディム。


(マイナス)2048ディム。


……


 アイラの周囲に光の魔法陣が次々と浮かび上がり、そのたびに大量の魔力が供給されていくのが分かる。その光景に、兵士たちが一瞬、戦う手を止めるほどの威容があった。


 しかし、アイラをもってしてもこの大魔法の詠唱は長い。その間に魔獣の群れが殺到してくる。


「アイラをお守りいたしましょう」


 フィリアが声を張り上げ、サンダーランスを連発。雷撃が狼型を焼き払い、エルヴィナが剣を交差させて迫る魔獣の牙を弾き返す。


「アルヴィオ君、後ろ!」


 ティナの叫び。振り返ると、背後から鳥型の魔獣が急襲していた。


 俺は即座にアクアレイジを構え、翼を撃ち抜く。だが落下した魔獣は、なおも牙を剥いてこちらに飛びかかる。


「させるかよ!守れ、アースウォール」


 リックの声が響き、土の壁が立ち上がる。魔獣がぶつかり、粉々に砕ける。


「助かる!リック」


 アイラに視線をやる。詠唱は続いている。瞳は閉じられ、ただ魔法陣へと意識を注いでいた。


 相変わらず魔獣の群れが波のように押し寄せ、幾度もアイラへ迫ろうとする。


 魔獣の巨腕が振り下ろされた瞬間、俺は前に飛び出した。銃口から放たれた水弾が魔獣の関節を貫き、エルヴィナの刃がそこを断ち切る。巨体が崩れ落ちると同時に、アイラの詠唱が佳境に入る。


 光が集まり、数多の輝きが戦場を照らした。優に三十を超える魔法陣が展開されている。


「――光よ、我が願いに応え、闇を穿て! エクスティンクション・レイ!」


 天空から光の柱が降り注ぐ。眩い光線が戦場を覆い、無数の魔獣を呑み込んでいった。断末魔が響き、地が震える。爆風が吹き荒れ、戦場の喧噪をかき消すほどの白光が視界を覆う。


――これが、アイラの力。


「これは、なんですの?」


「最上級魔法の超多重展開……夢でも見ているみたいです」


 フィリアの驚嘆に、エルヴィナも同調する。


 神々しい光景に、兵士たちが歓声をあげた。


 やがて光が収まったとき、戦場は様変わりしていた。


 魔獣の群れは大きく数を減らし、レオリア軍は一気に優勢となった。


「押し返せ! 今だ!」


 エリーナの号令に、兵士たちが一斉に突撃する。残存の魔獣は次々と倒され、やがて戦場は静まりを取り戻した。

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