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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第六章 「アキュムレーション」

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第41話 「予兆」

~憲章暦997年3月18日(土の日)~ 


 取引所の中央広場は、蜂の巣をつついたような騒ぎだった。


 魔導スクリーンに映し出されたのは、『アズーリア帝国でクーデター勃発』――その一文。

 

 場内にいた投資家も魔法士も、誰もが息を呑んで画面を見上げた次の瞬間、怒号と魔法陣の光が入り乱れた。


「売れ! アズーリア関連は全部売りだ!」


「待て、内乱ならむしろレオリアの得だ! 今が仕込み時だ!」


 各々の声が渦を巻き、取引広場の熱気は一気に灼熱へと変わる。トークンコアに群がる取引魔法士たちの魔法が、光の回廊を作り出す。


 俺は深く息を吸い込み、アイラへ念話を送った。


<アイラ、冷静に。ここは慌てた方が負ける>


<……はい、アルさん>


 アイラの魔法陣が輝く。リクエストリンクが展開され、銘柄の気配が次々とアルカナプレートに流れ込んできた。


 穀物、海運、傭兵派遣、武具製造……


 アズーリアと関わるあらゆる市場が、激しく揺れ動いている。


<アイラ、まずは海運株を買おう。おそらくアズーリアの港は一時的に封鎖される、短期的に動脈が詰まるはずだ>


<でも、それは売り材料だと思いますけどいいんですか?>


<大丈夫だ。初動は売りかもしれないが、港に入れない船が増えると船の数が不足する。そうすれば船賃は大きくあがるはずだ。みんなが、動揺して誤った判断を下す瞬間が一番儲かる。今の下げはチャンスだ>


<そうなんですね。……わかりました>


 アイラの声とともに、淡い光のオーダーフォームが浮かび上がる。


 術式が走るたびに光の矢がトークンコアへ吸い込まれ、取引が成立していく。


<次、傭兵派遣は王道だ。内乱で需要が高まる。加えて武器製造も>


 次々に矢継ぎ早の指示を飛ばす。


 俺は十銘柄ほどを瞬時に取引し、短い時間で利を抜き取った。広場を支配する混乱の中で、冷静に刈り取る者だけが勝者になる。


<十分だな。アイラ、降りてきて帰ろう>


 一通りの取引を終えると、俺たちはセレスティア商会へと戻った。


 商会は、取引所と同様、混乱に包まれていた。


 従業員たちは声を張り上げ、帳簿を抱えて廊下を走り回っている。事務所ではすでに臨時の会議が始まっており、議題はアズーリアとの貿易路についてだった。


「港の封鎖が続けば、こちらの物資は滞るぞ!」


「いや、むしろティランマールの需要は増えるはずだ! 今こそ輸出枠を拡張すべきだ!」


「しかし、帝国が混乱している間に国境地帯で戦闘が始まれば……」


 フィリアが立ち上がり、真剣な声を放った。


「アリスタル家の領地は、アズーリアと国境を接しています。もし火の粉が飛んでくれば、領民が真っ先に危険に晒されるのです。まずは、その対策として商会ができることを考えるのが先決です」


 その言葉に室内が一瞬静まり返る。


 幹部たちは、全員がアリスタル公爵家関係者なのでフィリアの素性を知っている。


 フィリアは、全員の表情を確認し言葉を続けた。


「だからこそ、今は慎重に。目先の利益に惑わされず、備えを優先すべきですわ」


 俺はその意見に頷きつつも、頭の片隅では別のことを考えていた。


 市場は一瞬で揺れたが、あれはまだ序章にすぎない。クーデターの背景を考えると、ただの政変では終わらない――そう直感していた。


 夜。


 商会の喧騒もようやく落ち着きを見た。俺は、情報収集のために街の一角へ足を向けた。


 向かった先は、古びた木製の看板が軒先で揺れる酒場――「紅毛屋」。投資家や商人が集い、酒とともに最新の噂話を交わす場所だ。


 扉を押し開けると、濃厚な酒の香りとざわめきが溢れ出す。


「おう、アル!」


 聞き覚えのある声が飛んでくる。


 顔を向けると、栗色の髪を後ろで束ねた青年が手を振っていた。リックだ。俺と同じくらいの年頃だが、野心に燃える瞳を持つ取引仲間だ。だが真っ直ぐさゆえに、しばしば市場の逆を行く男でもあった。


「座れよ! 今ちょうどアズーリアの話で盛り上がってたんだ」


「……盛り上がって、か」


 俺はリックの向かいに腰を下ろし、差し出されたジョッキを受け取った。泡が溢れそうになりながら、黄金の液体が喉を潤す。


「どうせ長くは続かねぇさ」


 リックは得意げに言った。


「帝国なんてデカいだけの国だろ? 内輪揉めで勝手に潰れてくれる。レオリアにとっちゃ好機だ!」


 周囲の商人たちも頷き、口々に賛同の声を上げる。


「そうだ、軍備株は買いだ!」


「農産物も跳ねるぞ」


「いやいや、傭兵派遣が一番儲かるに決まってる」


 笑い声と酒気に混じって、楽観的な未来予想図が飛び交う。だが俺の心には、不気味な静けさがあった。


「……楽観的だな」


 思わず口からこぼれる。


 リックが笑って俺の肩を叩いた。


「おいおい、アル。お前らしくないぜ。こんな時こそ強気に行かなきゃ!」


 俺はリックの目を見返し、静かにジョッキを傾けた。


――リックがそう言うなら、逆を行くのが正しいことが多い。


 過去に何度もそうだった。リックは、大衆心理の代表みたいなやつだ。その楽観は市場の悲鳴の前触れだとどうしても思ってしまう。


 俺はその夜、冷たい予兆を抱えたまま、街の闇へと歩みを返した。


◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆

 【資産合計】1,475,666ディム

 【負債合計】0ディム

 【純資産】1,475,666ディム

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