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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第五章 「モーニングスター」

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魔導トレード編 エピローグ

 セレスティア商会の窓からは、取引所の尖塔が小さく見える。


 リアディス中心部の喧噪からほんの少しだけ離れたこの場所が、今の俺の仕事場だ。


 今日の取引を終えて取引所から帰ってきた俺は、マグカップを片手に今日の相場を反芻はんすうする。セレスティア商会の取引担当として、相場に張り付き、日々の売買を行っている。


 やっていることは以前と大差ない。


 違うのは、俺たちの後ろに、セレスティア商会という看板を背負っていることくらいだ。


 商会の会頭、フィナ・セレスティアことフィリアもたまに取引所に顔を見せる。もっとも、相場に関してはからっきしで、最近も妙な銘柄を高値掴みしていた。俺の助言も聞かずにだ。


「アルヴィオ、この銘柄は上がると思わない?」


「どうして、そう思うんだ?」


「直感がそう言っているのよ」


 その直感が曲者なんだが、口には出さない。そのうち何とかしよう。


 フィリアは、引き続き魔法適正を持つ奴隷を買い取って保護するという目的で、たびたび奴隷オークションに参加している。


 今日は、また奴隷オークションの日だ。


 夕方、俺とアイラ、それにフィリアの三人で、南区におもむき、あの異様な会場を再訪していた。


 今回の目的は、事前に調査していた男を落札すること。魔法適正があり、教育次第で戦闘魔法士として期待できる若者だ。俺の目から見ても、将来性は悪くない。


「開始価格、10万ディム。いかがかな」


 競りが始まり、俺たちは計画通りに入札。フィリアが手を上げ、あっさりと落札が決まった。


「ふふ、順調ですわね」


 フィリアが満足げに笑う。


 その時だった。司会役のオークショニアが、やや困ったような声を上げた。


「続いては……ええと、出品番号72番。黒髪の少女、アルカ共通語を話さず、素性不明のため、開始価格は最低ラインの1万ディムからといたします」


 ざわめきが起きた。


 現れたのは、黒髪の少女だった。

 

 薄汚れた白い服を身にまとい、表情は怯えで固まっている。


 何より目を引いたのは、その髪の色と瞳の色だ。


 黒に近いダークブラウンの髪、焦点の定まらない黒目。


 会場の反応は冷ややかだった。


――言葉が通じない。


――魔力の検査もできない。


――買っても使い物にならない。


 そういう空気が蔓延していた。


 誰も札を入れようとしない。


 そんな中だった。


 ふいに、少女が口を開いた。


「……()()()()()()()……()()()()……」


 その声を聞いた瞬間、俺の背筋に電流が走った。


 日本語――。


 間違いなく、俺の前世の言葉だった。まわりの誰も、気づいていない。意味を理解していない。でも、俺だけには確かに聞こえた。


 彼女は、異邦人だ。俺と同じく、異世界から来た存在だ。


 俺は、迷わず手を挙げた。


「――落札する。1万ディムで」


 ざわつく会場。


 その声は、妙に静かに会場に響いた。


 誰もが俺を振り返る。フィリアが目を丸くして俺を見る。アイラも不安そうに俺の袖を掴んだ。


「アルさん……?」


 オークショニアが驚いたように応じた。


「1万ディム、他におられませんか? ……はい、落札」


 少女はすぐに裏へと連れて行かれた。


 俺は席を立ち、すぐに引き取り手続きに向かう。


「アルヴィオ、あなた……?」


 フィリアもまた、困惑した表情を浮かべている。


「あとで説明する。今は……あの子と話させてくれ」


 やがて、手続きが済み、少女が俺の前に姿を現した。


 近くで見ると、彼女は小柄で、年齢は十代後半といったところか。


 怯えた目で俺たちを見つめている。


 ゆっくりと、俺は声をかけた。


()()()()()()()()()()()()()()()()


 少女の目がわずかに揺れた。


「……()()()()()()()()()……??」


 その言葉に、俺は頷いた。


()()()()()()()()()()()()()()()()


 少女は目を見開き、そして、何かが決壊したようにぽろぽろと涙を流し始めた。


()()()()……()()()()()……()()()()……」


 俺は、少女の目をまっすぐに見つめ、日本語で話を続ける。


()()()()()()()()()()?」


 少女は、震える声で答えた。


()()()……()()()……()()


 俺は少女を見つめながら、思った。


 この出会いが、俺たちに何をもたらすのかまだわからない。


 でも、この世界で生きる意味――。


 それは、きっと、こういう瞬間の積み重ねの中にあるのだと。


ここまで読んでくださりありがとうございます!


第一部にあたる「魔導トレード編」はこれで完結となります。

小説の執筆自体が初めてのことで手探りでしたが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。


よかったら下の☆☆☆☆☆から評価をいただけるとめちゃくちゃ励みになります。


次回以降は「ティラナ戦役編」が始まります。

引き続きお楽しみください。

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