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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第四章 「ベアリッシュ・エンガルフィング」

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第31話 「ステップ」

 取引所を後にし、夜の街を歩く。

 

 魔法灯の明かりが石畳を照らし、俺とアイラの影を柔らかく浮かび上がらせていた。


「今日すごかったな」


 俺は素直に口にした。アイラは顔を少し赤らめ、笑顔を見せた。


「アルさんが支えてくれたからです」


 声に疲れはない。むしろ充実感があふれている。魔力を大量に使ったが、体調に異変は見られないようだ。呼吸も整っている。


 屋敷に戻る道すがら、俺は考えていた。アイラの取引処理能力は、異常とも言える域にある。それを、俺の口頭指示だけで活かすというのは、あまりに勿体ない。


 屋敷に着くと、簡素ながら温かな夕食を取った。焼きたてのパンに、香草の香りがするスープ。二人で笑い合いながら食卓を囲み、静かに今日の余韻に浸った。


 食後、俺は自室に戻り、今日の取引データを開いた。数字の羅列が流れてくる。 思わず、画面に視線を落としたまま、思考が加速していった。


――口頭で指示するだけじゃ、限界がある


 今日の取引の中でも、いくつか惜しい場面があった。俺の指示がワンテンポ遅れたことで、取り逃がしたチャンスを思い出す。


 もし、定型パターンを事前に登録できたら——条件を満たした瞬間に、魔法が自動で発動できたら——それはこの世界のマーケットにとっては革命的だ。


 俺は立ち上がり、書類を片付けていたアイラのもとへ向かった。


「アイラ、ちょっと時間あるか?」


「はい、もちろんです」


 いつも通り素直に応じてくれる姿勢に、少し安心しながら俺は自分の考えを話し始めた。


「アイラ。定型の注文条件をあらかじめ魔法で登録して、条件が整ったら自動で実行される……そんな魔法式を作れないか?」


 それは、いわば定型注文の魔導プログラム。前世で言えばアルゴリズム取引に近い。魔法で構築されたリクエストリンクとオーダーフォーム。この二つを基軸にすれば、不可能じゃない。


「魔法で……自動で?」


 アイラは目を丸くしたが、すぐに目を輝かせた。


「それ、すごく面白そうです!」


 予想以上の反応に、俺の胸も高鳴った。


「じゃあ、試しに一つ作ってみよう。もし価格が○○ディム以下になったら、自動で買い注文を出す……くらい単純なやつでいい」


 部屋の隅、さっそくアイラは自身の机に向かって、魔導プログラムの初期設計に取りかかった。リクエストリンクとオーダーフォームの魔法を基礎に、条件分岐とトリガー制御を組み合わせたシンプルな魔法式。


「完成しました! これで、価格が指定以下になったら、自動でオーダーフォームの魔法式が起動します」


「すごいな」


 アイラの手際に呆気にとられる。


「テクニカル指標と連動することはできそうか?」


「やってみます!」


 アイラは両手を胸の前でぎゅっと握り、笑顔を見せる。俺も思わず拳を握る。初めての自動取引。小さな一歩だが、可能性は計り知れない。そのあとも、俺たちは、魔法陣を前に試行錯誤を重ねた。


「このトリガー制御、発動条件の範囲が曖昧だとエラーになるかも……」


「じゃあ、ここに明確な数値式を組み込みます。たとえば、価格に対して明確な数字を明記して……」


 アイラが手早く数式を刻むと、魔法陣が淡く脈動した。


「おっ、安定したな。よし、そのまま続けよう」


 魔法式として組み込むには構文の厳密さと魔力の流れの管理が求められる。俺はアイラの書き出した構文を見て、前世のコードレビューを思い出していた。


「……この記述、冗長かも。条件式を関数化して、再利用できないか?」


「関数化……あっ、それいいですね!」


 どちらともなく手を動かし、意見を出し合い、書いては消し、描いては修正していく。気がつけば、夜が深くなっていた。


「アルさん、これでどうでしょう」


 アイラが最後に描いた補助陣の構造は、シンプルながら見事に洗練されていた。


「……完璧だ。試作品としては十分すぎるくらいだな」


 お互いに視線を交わし、小さく頷いた。

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