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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第四章 「ベアリッシュ・エンガルフィング」

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第26話 「真相」

~憲章暦997年1月18日(光の日)~ 


 未明、窓から射し込む月明かりが、寝台の上で穏やかに寝息を立てるアイラの顔を照らしている。


 アイラは目を閉じたまま、穏やかな表情を浮かべている。痛々しかった頬の赤みも、ようやく薄らいできた。呼吸も安定している。昨日の辛そうな様子は、もうない。


 だが、魔法を失った事実は変わらない。


『二度と自力で魔法が使えなくなる可能性が高い』


 レイラが告げたその言葉が、まるで呪いのように俺の脳裏に焼きついて離れなかった。


 自力では、魔法を使えない。


 その一文を、俺は何度も心の中で繰り返していた。だが、繰り返すうちに、ある言葉がひっかかった。


――ならば、()()じゃなければ?


 自分の内から魔力を生み出すことができないのなら、外部から供給すればいい。単純な発想だ。魔力石を用いるという方法は、すでに存在している。高位の魔法士が大規模魔法を行使する際に補助的に魔力石を使うのは一般的だ。


 だが、魔力石は高価で日常使いには向かない。


 主要な魔力の供給源としては、現実的な選択肢ではない。思考の迷路に迷い込んだような気分だ。寝息を立てるアイラに視線を向ける。


「ゆっくり休めばいい」


 俺は小さくつぶやき、椅子を引いた。


 俺は静かに立ち上がり、自室へと戻る。布袋から魔法銃――アクアレイジを取り出し、机の上に置いた。


 魔獣との戦闘の後、そのままにしていたので整備が必要だ。布を広げ、分解を始める。


 魔法銃の整備は、精密機器のメンテナンスに近い。なんとなく前世で使っていたコンピューターの分解に似ていて落ち着く。精神統一にはちょうどいい作業だ。


 銃身の内側に付着していた魔力結晶を丁寧に削り取る。削った魔力結晶を机に置き、思考を巡らせた。


――この魔法銃は、俺のような魔法を使えない人間でも撃てる。


 そこに、ふと違和感が生まれた。俺は魔法を使えない。なのに、アクアレイジは起動する。


――ディムを払えばこの魔法銃は機能する。


――それはつまり、(ディム)()()()()()()()()ということだ。


 クロエがくれた、特別なアルカナプレート。きっと、特別な機構か何かが組み込まれているに違いない。


 もしかすると――このアルカナプレートを通じて供給されている魔力のルートを、アイラにも応用できるのではないか。


 この仮説が正しければ、アイラは再び魔法を使えるかもしれない。


 俺は勢いよく立ち上がった。


 部屋の片隅に用意していた朝食のトレイを手に取り、アイラの枕元にそっと置いた。その横に、出かける旨を記した紙切れを添える。


 アクアレイジと、アルカナプレートを手にして、俺は屋敷を出た。


◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆


 ヴァース商会に着くと、まだ朝早いというのに、門は半ば開いていた。


 俺が扉をくぐると、足音がこちらへと向かってきた。


「朝っぱらから血相変えて。どうしたんだい、少年」


「レイラさん、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」


 レイラに場所を移すと言われて、応接室へ通される。脇で控えている秘書に視線が気になるが、この際無視しよう。


 俺は息を整えつつ、テーブルにアクアレイジとアルカナプレートを置いた。


「レイラさん。これは……このアルカナプレートは、特別なんだ。これを使えば、アイラに魔力を供給できるかもしれない」


「ふむ。つまり?」


「俺が使ってるこのアクアレイジは、魔法を使えない俺でも撃てる。でもそれは、このプレートを通じて、魔力が供給されてるからだ。この仕組みを……アイラにも応用できないかって思ったんだ」


 俺の言葉に、レイラはふっと息を吐いて肩をすくめた。


「なるほど、そう来たか。確かに筋は通ってるように見える。だがな……残念だが、それは間違ってる」


「……え?」


 頭が真っ白になった。


 特別じゃない……? じゃあ、今までの俺の認識は全部、思い込みだったというのか。


 そんな俺の動揺を察したのか、レイラはにやりと笑った。


「試してみな。そこにある別のプレート、これを使ってアクアレイジを撃ってごらん」


 レイラが差し出した別のアルカナプレート。刻印もなにもない、見慣れた汎用品。半信半疑のまま、俺はそれをアクアレイジに接続し、窓を開け空中に狙いをつける。


 引き金を絞った。


――ドンッ!


 水流の弾丸が、問題なく射出された。


 そんな馬鹿な……。


 俺は、呆然とアクアレイジを見つめる。


 この反応は、プレートが特別だったからじゃない?


「……じゃあ、何が……?」


 俺の問いに、レイラは意味深な笑みを浮かべながら答えた。


「そうさね……。特別なのは、()()()()の方かもね」


「……俺が?」


「ああ。だが、それを証明するには、もう少し材料が必要だ。焦るな、少年。真実ってのは、じっくり煮詰めてから味わうもんさ」


 言葉の意味は、まだ曖昧だった。


 アイラが、再び魔法を使えるかもしれないという、かすかな光。


 そして――俺自身にも繋がる、なにか。


――特別なのは、俺?


 なら、試してみようじゃないか。すべてを得るために。

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