表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第三章 「アセンディング・トライアングル」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/126

Intermission 3 「レイラの午後」

 午後の陽光が、カーテン越しにヴァース商会の応接間へと差し込んでいた。テーブルに置かれたティーカップに柔らかな輝きを宿す。窓の外では運河の水音がかすかに聞こえてくる。


 そんな静寂の中、足音ひとつ立てずに現れた影がある。


「……来たのかい。ミラ」


 カップを唇に運びながら、レイラ・ヴァースは目を上げた。


「久しぶりだね。姉御」


 声の主は、黒衣の妖狼族、ミラ・ノアール。ミラはソファの背もたれに腕をかけ、勝手に腰を下ろした。


「会ってきたんだろう? 少年に」


 ミラは狼耳をぴくりと動かし、しばし視線を落とした。しなやかに脚を組み直すと、瞳を細めてぽつりと言う。


「……すこし、恐怖を感じたよ」


「ほう?」


 レイラが細く目を細める。興味を隠そうともせず、むしろ愉快そうにすら見えた。ミラはちらと横目でその反応を見てから、つぶやくように続けた。


「なんだろうな。殺気でもなければ、圧でもない。ただ……あの目だけは。全てを見透かしてくるような……」


「珍しいね、あんたがあんな年端もいかない子にされるなんて」


「違うんだ、レイラ。圧されたわけじゃない。ただ、あれは素人じゃない。知ってる目だった。あたしたちが、何をして、どう生きてるか……その奥を、わかってる奴の目だ」


 レイラはカップを傾け、紅茶を一口含むと、満足そうに目を細めた。


「だから言ったろう。……面白いって」


「何者なんだ? 魔力は感じなかった、けど恐ろしく動じない。……妙な気配を感じた。あれは――」


「さあね。クロエが拾って、育てたってことくらいしか私も知らない。けど、…あの子の歩む先に面白い渦ができるよ」


「渦、ね……」


 ミラは窓の向こうに視線を投げる。


「そうさね、ミラ。……()()()にとっては、あの少年は――脅威になる」


 その言葉に、ミラの赤い瞳が鋭さを増した。


()()()ってのは……」


「詮索は無粋だよ、ミラ。あんたも分かってるだろ?」


 レイラは言葉を遮るようにカップを置き、ソファの背に体を預けた。カーテン越しに揺れる午後の光が、赤い髪に淡い影を落とす。


「表に出ることのない、あの連中。相場を、情報を、そして人を……いくらでも好き勝手に弄ぶ者たち。アイツらは、あらゆるものが自分たちの盤上にあると思ってる。だけどね」


 そこで、レイラは初めてミラと真正面から目を合わせた。


「少年は、その盤ごと、ひっくり返すかもしれない」


 ミラはしばし無言だったが、やがて口の端を少しだけ上げた。


「……面白くなってきた、ってことだね」


「退屈は嫌いだろ?」


「ま、それは否定しない」


 ミラは立ち上がり、扉の方へと歩き出す。だが、手をかける直前、ふと振り返った。


「ところで、あの子……ルミナスの三女と組んでた。これは、偶然だと思うかい?」


 レイラの瞳が、ふわりと和らいだ。


「偶然じゃないさ。因果ってのは、いつもそういう顔してやってくるもんさ。気づいたときには、もう逃げられない」


「あんたも、その因果に?」


「さあ、どうだろうね。けど――」


 そこで、レイラはひとつ深く息をついた。


「静かに波打っているように見えて、その下では、もう渦が巻いているのさ。あの市場ばしょも、ね」


 扉が音もなく閉じられた。


 残されたレイラは、ぬるくなった紅茶を見つめながら、静かに呟いた。


「さて、少年……あんたは、どこまで届く?」

ここまで読んでくださりありがとうございます!

市場でのデビューと活躍を書いた第三章はここでおしまいです。次章以降もお楽しみいただければ幸いです。

ブックマーク・評価などいただけるととても励みになります(`・ω・´)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ