第14話 「居場所」
しばらく話していると、空が茜色に染まり始めてきた。
そろそろ今晩泊まる場所を考えなければならない。ただ、リアディスは宿代も馬鹿にならない。長期間滞在するとなれば、オークションの前に金が尽きる。
「これから、しばらくは宿代を節約するために、安全に野宿できる場所を探すつもりなんだが、どこかいいところを知らないか?」
俺がそう伝えると、アイラが驚きの声を上げた。
「野宿ですか?そんなあぶないことしない方がいいです」
「でも、資金を貯めなきゃいけないし、できるだけ節約しないと…それに旅を始めてからずっと野宿だったし大丈夫だ」
「ですが……」
アイラは、しばらく何かを考えた後、何かを思いついたように言った。
「……もしよろしければ、わたしの家に来ませんか?」
「え?」
一瞬、思考が止まる。
「は? ……いや、それはちょっと……さすがに俺みたいな男が、今日あったばかりの女の子の家に泊まるのは……」
「いいんです」
アイラは強くはないけれど、はっきりとした口調でそう言った。
「誰もいませんし、一人で住むには広すぎる家ですから。……それに、こうして話してみて、わたし、アルさんのこと……信じてもいいって、思えたんです」
その言葉に、俺は何も言えなくなった。
「それに……誰かと一緒にいるのは、久しぶりなので……」
最後の言葉が、胸に響いた。名門ルミナス家の「恥さらし」として、一人で生きてきた少女の孤独、俺はその重みを理解してしまった。
「……でも、いいのか?」
「はい。アルさんなら……」
その一言に、断る理由はなくなった。
「……分かった。お言葉に甘えるよ」
アイラはほっとしたように微笑んだ。
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アイラの家は、リアディス郊外の静かな場所にあった。建物自体は、初代ルミナス家当主が建てたものらしい。アイラは、セレスシドの魔法学校を卒業してから、この場所で暮らしているのだという。
「ここが……」
門をくぐり、敷地に入る。辺りはすっかり暗くなっていて全体像は分からないが、大きい建物であることはすぐに分かった。
建物の中に入ると、廊下の壁には古びた絵画やランプが掛けられていて、歴史を感じる。廊下を進むたびに、軋む床板の音が響き、屋敷の古さを実感させた。
「アルさん、ここを使ってください。多少散らかっているかもしれませんが……」
アイラはそう言いながら、客間を案内してくれた。清潔感があり、しっかりと掃除されていることがわかる。その後、アイラに屋敷を案内してもらった。
使用されていない部屋には多少の埃が積もっているが、アイラの居住スペースは掃除が行き届いていた。居間に案内されたときは、手作りのクッションや小物が飾られており、アイラの個性を感じることができた。
「助かるよ、本当に。正直、野宿はつらいからな」
俺は苦笑しながら感謝を伝える。
「お役に立てて良かったです」
アイラは少し照れくさそうに微笑んだ。。
簡単に夕食をとったあと疲労を感じた俺は、早めに寝ることにした。怒涛の1日を振り返りながら、久々のベッドの感触を確かめながら床に就いた。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
翌日、柔らかな光がカーテン越しに部屋を満たし、俺は目を覚ました。
ベッドから身を起こし、窓を開けると涼しい風が部屋に流れ込む。昨夜は暗くてわからなかったが、外に広がる庭が目に入る。信じられないほど整えられた庭。花々が色とりどりに咲き誇り、朝露が煌めいている。
「……すごいな」
庭の隅々まで丁寧に手入れが行き届いているのが一目でわかる。
「おはようございます、アルさん」
ちょうど水やりをしていた、アイラが小さく微笑んだ。
「おはよう。庭、すごく綺麗だな。まるで庭園みたいだ」
「ありがとうございます。花の世話をしていると、心が落ち着くんです。ここにいると、色々なことを忘れられるから……」
アイラは一瞬だけ視線を落とした。孤独な生活の中で、花々がアイラの心の支えになっているのだろう。
「大切にしてるんだな。すごくきれいだ。ここまで手入れされた庭はなかなか見られない」
素直にそう伝えると、アイラは目を見開き、すぐに頬を赤く染めた。
「そ、そんなこと……でも、ありがとうございます」
その後、朝食を食べながら俺は今日の予定をアイラに伝えた。今日は、光の日(この世界の七曜で日曜日にあたる)で取引所は営業していない。
「今日は取引所も休みだし、リアディスの街を見て回ろうと思うんだ。投資のヒントになることがあるかもしれないし」
「でしたら……わたし、案内します!」
「いいのか?助かるよ」
こうして、俺たちはリアディスの街へと繰り出すことにした。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回の投稿からタイトルを変更しました。
以前から読んでいただいている方にはご不便おかけしますがよろしくお願いします。




