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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第二章 「ゴールデンクロス」

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第12話 「トークンコア」

 契約の儀式を終えた直後、俺とアイラは受付嬢リアナの案内で、取引所の内部へと足を進めることになった。


「せっかくですから、施設のご案内をいたしますね。これからのお二人の戦場になりますから」


 戦場という単語が唐突に耳に飛び込んできて、俺は思わず足を止めた。


 だが、リアナはそんな俺の反応を意に介さず、軽やかな足取りで石造りの回廊を進んでいく。


「それでは、次は中央広場にご案内いたします。トークンコアのある場所です。この取引所の、心臓部ですよ」


「トークンコアは、ご存じのとおり世界中のアルカナプレートを使った決済情報が記録されています。それに加えて、あらゆる取引情報を正確に記録し、仲介することができるため、売買を成立させる取引所機能も有しています」


 リアナの説明を聞きながら、長い廊下を歩く。


 やがて、大きな扉に行き当たった。 


 リアナが、「よいしょ」と言って、重厚な扉を開けると、視界が開けた。


「……こちらが、トークンコアです」


 リアナが、示した先にある光景を目にした瞬間、俺の思考は停止した。


 広大な円形広場。その中心に、巨大な球体が静かに浮かんでいた。


「これが……」


 その存在感は、圧倒的だ。直径は、目測だが、20階建ての建物ほどある。透き通るような蒼と白が幾層にも重なり、中心には複雑な魔法陣が螺旋を描くように展開している。


 これが、トークンコア。


 この世界の経済を支配するアーティファクト。


「すごい……」


 隣でアイラが、息を呑むように呟いた。


 俺も同じ気持ちだった。


 だが、それ以上に俺の視線を奪ったのは、トークンコアの周囲に展開された()()()()()()()()()()だった。


 空を舞う無数の魔法士たち。空中を自在に飛行し、宙に指を走らせて術式を展開する者。次々と浮かび上がる魔法陣に情報が書き込まれ、トークンコアに向かって放たれていく。


「今、発動されたのは()()()()()()()()ですね。買いか売りか、いくらで、どれだけ、誰の注文か。それを魔法で指定して発注するのが、取引魔法士の役割です」


 リアナが説明してくれるが、俺には言葉よりも光景の迫力のほうが胸に迫った。


 まるで魔法の弾道が交差する戦場のように、光の軌跡が縦横無尽に飛び交い、宙に浮かぶ魔法士たちの動きには一瞬の無駄もなかった。


 リアナがさらに言葉を続けた。


「トークンコアの周りには、強力な魔力場が展開されています。この魔力場は、本来、トークンコアの防御機構だそうです。ただ副次的に様々な効果あります」


「一つ目は、先ほど体験していただいた念話が使える点です」


「それ以外には、何があるんだ?」


「二つ目は、ご覧の通り魔法士が魔力場に乗って浮遊できる点です。これによって多くの魔法士が縦横無尽にトークンコアを利用できるようになります」


 今、目の前で繰り広げられている光景を改めて確認する。


「三つ目は、空間そのものを歪曲しています。ご覧の通り、トークンコアはとても巨大ですが、取引所の外からは見ることができません。これは、トークンコアが空間を歪曲して起こる現象だと研究者たちは結論付けています」


「四つ目ですが…、この広場について何か気づきませんか?」


 そう言われて、すこし考える。


――ここは、屋外だが快適だ。


 赤道直下のレオリア王国は、高原地帯を除いて暑い。リアディスも例外ではない。だが、この広場は、初夏のようなさわやかな空気に包まれている。


「気温か?」


「惜しいですね」


俺の答えに対して、リアナがどこか誇らしげに微笑む。


「実は、この広場は、天候に左右されない場所なんです。トークンコアの魔力場が気候を調律しているため、この中央広場は常に快晴。気温も快適な状態が維持されているのです」


「また、トークンコアの魔力場は、リアディス全体に影響を及ぼしています。そのため、リアディスは雨が降ることが少なく、晴れの街と呼ばれているのです」


「リアディスの気候を安定させているってことですか?」


 アイラが驚いたようにリアナに問いかけた。


「ええ、その通りです。この魔力場は、間接的に商業活動の活発化にも寄与しているのです。天候が安定することで交易が盛んになり、この街の貿易業のさらなる発展を支えています」


 リアナの説明を聞きながら、俺はこの都市の異質さを改めて実感した。この世界の経済は、このアーティファクトによって支えられている。


 トークンコアで繰り広げられる光景を目の当たりにし、俺の中で確信が生まれた。


――やはりここが、俺の戦場なのだと。


 俺は拳を握りしめ、これから始まる取引の日々に向けて覚悟を決めた。

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